102.運命に情けは要らない
色んなものに痛め付けられて、
でも別に、今更どうなるんだって話じゃない。
私は悪魔
側にいるべきじゃなかったんだ。どんなに辛くても悪魔
軽やかさとは程遠い胸の内に引き
「カッハッハッハッハッハッ!」
「ぎゃははははははははは!」
それを遮るように顔を上げた私は、腕を垂らしたまま哄笑した。常軌を逸した私の笑い声に驚いた裁と鉄村が
その間も私の哄笑は続いて、
何だかその冷たさに落ち着いた気になって、棺に閉ざされた空を仰いでも何も無いし、だらだらと頭を下ろす。特に何を見るでも無く前を向いたまま、鉄村へ告げた。
「よかったな。いつも私と一緒にいるから、魅了を無効化する魔術を常に使ってて。お陰で平気そうじゃないか。他の魔術師は頼んだぞ」
視界に入っていない鉄村から、呆然とした声が漏れる。
「……え?」
「ねえ青砥部長。今話した事を私に告げたら、私が絶望するんじゃないかって期待してたんじゃないですか?」
滲み出る不健全な笑みに、歯が覗いた。
「邪魔臭くて全く気の合わない魔法使いは実は被害者で、ここまで上手くいかないのは自分が引き寄せていた悪魔の所為だと知ったら、引っ掻き回されて滅茶苦茶になった予定を見せ付けられるより、その苦しみの方が遥かに勝る。そこに、生物が覚える苦痛の最大級である死を与えたら、さぞいい顔で悶えるだろうって。だからそうやって姿を現して、裁諸共私の怒りを自分に向けさせてから殺し、最高の形で苦痛を与えてやろうって! だッはははははは! あァーあんたってば本ッ当に性悪だが私の解像度が低いな……」
足元に突き刺さる、『一つ頭のケルベロス』を引き抜く。
蛇のように尾を揺らして、耳を倒したり立ち上げる。
それでも皮膚の内側ギリギリまで身体を満たす嘲りに不健全な笑みが引かなくて、『一つ頭のケルベロス』の切っ先を、ぶらぶらと足元に向けた。俯いてそれを眺めながら、殆ど独り言みたいに吐き捨てる。
「今更お前如きの登場で増すような濃度の苦痛じゃないんだよ」
落書きをするように、切っ先で足元に傷を走らせた。
「こんなもの日常だ。何も上手くいかなくて、何も思った通りに運べない。頼んでも無いのに常に最低と最悪へまっしぐらで、修正してもまたいつ脱線するか気が気じゃない。どれだけ努力してもまるで、自分のものじゃないみたいに人生を操れない。悪魔? 魔法使い? いつもベタベタと付き纏って来る障害が、最大規模となって現れただけじゃないか。こちとら物心付いた頃から
瓶の縁の人型が砕け散る。撒き散らされる肉片が瓶にぶち当たり血飛沫で彩って、それを墨のような奔流が纏めて吞んだ。空を棺に閉ざされている街はカクタスグリーンの光を放っていた瓶が墨に沈み、光源を失って暗くなる。
深夜のような闇の中、猫背になっていた私は、頭上から振り下ろしていた『一つ頭のケルベロス』をぶら下げるように、だらだらと上体を持ち上げた。
「……だからお前は何の感慨も無く、取るべき責任として私が殺す」
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