100.血筋という呪い


「面白そうだったからさ!」


 青砥部長は一転、嘆きなど知らないような、底抜けに無邪気な笑みを湛えた。


「見た事も無い不幸の塊みたいな境遇の天喰あまじきを見つけてご機嫌だった所に、お前がこの街にやって来たんだ! 運命だと思ったよ! お前も天喰に劣らず数奇で哀れな人生で、願いの為に命を懸けてる! お前達の対決は、是非ともこの目に焼き付けたい! でも、もし裁が他の魔術師にやられてしまったら? それは勿体無いなんてものじゃない……。あらゆる悲劇を愛する悪魔にとって、取り返しの付かない損失だ! だからっくに人間の振りをして街に潜んでいた俺は今度は魔法使いの振りをして、まずはお前の腕前を知ろうと思い付いたんだ。流石のお前も〝館〟に閉じ込められれば何も出来ないようだから、その間に調べさせて貰ったよ。〝魔の八丁荒らし〟と来れば悪魔の間でも有名人だ。まして親殺しをこなした吸血鬼でもあるとなれば、聞き回った悪魔の仲間達からあっと言う間に情報が上がったよ! 優れた才能を持ちながら、あの悪魔の間でも出来損ないだと笑いの種だった、芋虫の悪魔に目を付けられた哀れな血筋! 裁家の魔法使いとはな! あいつは裁家の祖となる人間に魔法の才能があると気付いた途端、妊娠していた祖の妻に取り憑いた! そしてお前らの血筋に永遠に魔法を貸し出す代わりに、お前らの子供を生贄にして捧げ続けろと脅したんだったな! ハッハッ! 弱い悪魔は魔力量が乏しい上に扱える魔法も貧相だから、対等な取引では無くこうした形で無いと人間にも相手にされない事がある! かつ真っ当な悪魔らしい魔力量を確保する為には人間を食べて寿命を奪わなければならないという、本当に俺達と同種なのか疑う低能さだ……! お前の兄が両親に逆らって、生贄となる予定だったお前ら姉妹を逃がしたのも分かるぜ裁! あんな醜い野郎の餌として死ぬなんて、生まれるべきでは無かった人生だ……。残念ながら芋虫の悪魔に見つかって両親諸共殺されちまったが、お前が仇を取ったからまだいいじゃないか。お前もやられていたら妹も死んでいた。兄の遺志を継いで、今度こそ平凡な人生を手に入れようとそうして足掻けているのも、お前の魔法使いとしての才能と、妥協無き努力の賜物だ。付与の魔法エンチャントで〝魔の八丁荒らし〟になれた奴なんて、お前ぐらいだぜ。まあ、呪いとなって死んだような扱いになった芋虫の悪魔が持っていた魔法を盗んだ形だから、正式な取引を二回以上交わした訳では無いが。だが邪道も結構! 俺は未知も大好きだ! お陰でお前という例外中の例外と、二度と同じ道を辿る者は現れないだろう悲劇と、こうして出会えたんだから!」


 裁は喋らない。皮肉の一つでも飛ばすと思っていたが、不快感を湛えて押し黙っている。


 こいつの今までの、反論や訂正があればすぐに噛み付くらしい言動から見るに、触れる必要の無い事実なのだろう。未だその存在を受け入れ難い青砥部長が並べた言葉より裁のその態度が、酷い混乱へ私を誘う。


 事実って事は、こいつも被害者なんじゃないか。先祖が悪魔に取り憑かれただけで、なりたくて魔法使いになった訳でも無くて、ただ因縁に振り回されて、そこから逃れようとなり振り構わなくなっているだけ。


「やめてその顔」


 裁は青砥部長を睨んだまま私へ言った。


「そんな顔される程、あたしとは正しくない」



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