76.最期すらも劇的に!


 何やら言葉を用意していたらしい鉄村とゴーレムは、また揃って固まった。


 鉄村にとっては、裁が帯刀おびなたの仇であるという前提情報すら知らなかったので、より大きな衝撃だったかもしれない。


 構わず話を続ける。


「グラウンドでの御三家への報告に、さいとは春に侵入した魔法使いでもあると加えなかったのはその為だよ。裁は私から冷静さを奪うか、私の気を向けさせる為に帯刀を襲ったのは自分だと嘘をついたんだろ。私は〝館〟という場所の性質上全力では戦えないし、あそこで裁を殺し切るのは無理だろうと分かってたから、時間稼ぎを兼ねて吹っかけてみて、乗って来たから付き合ってやっただけさ」


 ゴーレムは人間のように、極度の緊張による汗を滲ませた。


「……その落ち着きよう、本当の犯人を知っているという事ですか」


「美術館の魔法使いが本命だと思ってる。あの裁さえ出し抜くような神出鬼没、今まで姿をくらませていた身分に相応しい。換言するならもし裁が犯人なら、帯刀おびなたを襲った現場に最初に駆け付けた私に、手を出さなかった理由が思い付かない。ストラップで私が悪魔のはらわたの持ち主であるとは分かってたんだろ? まして〝館〟ではあれだけ追い込まれておきながら街一つを覆う棺を作れるような奴が、私を拘束する手段を用意していなかったとは考えにくい。裁を知れば知る程、犯人とするには杜撰ずさんさが目立つ。本当は、先に美術館の魔法使いが街にやって来て、その後に裁が来たんだろ? それなら神出鬼没を貫いて来た美術館の魔法使いが、帯刀を襲った理由に説明が付く。あれは、裁を妨害する為に起こしたんだ。美術館の魔法使いは今も行方不明な通り隠れるのが上手いが、裁はそういう訳じゃないから慌てて〝館〟に逃げ込んだ。吸血鬼としてなら外出は出来るが、〝魔の八丁荒らし〟としての本領を封じられてるんじゃやり辛い。だから街に緊急用の付与の魔法エンチャントを仕掛けて、七ヶ月間も様子を窺ってた。普通の生徒として学校に紛れ込んでたゴーレムも、その一つだったんじゃないか? そしてお前が今日事を起こしたのは、美術館の魔法使いが痺れを切らしてゴーレムを襲って来たからか……。そのボルドーの所為だ」


 頬杖をしたままの右手で、似合ってるなんて思った事は一度も無い、鉄紺てつこんのインナーカラーが入った髪をいじった。


「それは〝患者〟の証だ。私が変身の魔法を浴びてコヨーテになっちまうように、裁にも何らかの枷になってる。私みたいに都合よく症状を誤魔化す手を持ってる〝患者〟なんて、普通はいないからな」


「芋虫の恨みですよ」


 観念したような擦り切れた顔で、ゴーレムは即答した。


 私がここまで頭の回る奴とはさっぱり考えていなかったようで、下手な嘘はかえって己を追い詰めると判断したような、爽やかさの無い潔さがある。


「裁家の没落は、裁自身によるものです。あれは魔法使いを引退するべく家族を殺し、裁家に付与の魔法エンチャントを貸し出していた、芋虫という名の悪魔へ反逆しましたから。それを恨んだ芋虫の悪魔が裁に殺される間際、命と引き換えに裁に魔法をかけたんです。成人する前に必ず死ねと。〝館〟に隠れている間に、その期日が近いと気付いたんですよ。だから今日の日没頃、裁は死にます」



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