53.ヒーローは遅れてやって来る!
「心底身勝手だよお前らは」
ぶつかり合い、火花と金属音を撒く刃越しに裁を睨んだ。
奴の目が、プライドを踏み
「元はと言えばお前らの所為だろ魔法使い。身の程知らずな夢を見たお前らが、悪魔に魂を売ったから魔術は起きた。お前らさえいなければクソジジイも平凡なまま死んだだろうし、クソ親父だってあの歳で死ぬ事もきっと無かった。私だってこんな所で死にかかる
「身の程知らずな夢なんざ誰でも見るわ」
裁は青ざめながら
「一回切りの人生をあんたみたいに、立場やら役目やらに縛られて幕引きなんざ御免やね。誰かって生きとるだけで、誰かを侮辱し傷付ける。それを避ける事は絶対に
互いを黙らせようと一層激しく押し出された二つの刃が、完全に拮抗する。爆発し損ねた二つの狂暴は、互いの顔を歪め、互いの身から命を削り、互いから奪った血を足元へ撒き散らした。それでも互いの刃は、決してその凄まじさを緩めない。
裁は更に刀へ力を込めながら、身を乗り出して私を見下ろす。
「あたしはあたしの為に生きて死ぬ。報いを受けろっちゅうんやったら受けて立つ。ただそれだけで、その為に魔法使いになったんがあたしや! あんたは何の為に生きるんよ、悪魔
「復讐だ!」
負けじと押し戻しながら怒鳴り返した。
「私が悪魔喰らいになる破目になったクソジジイとクソ親父に、当時の魔法使いと悪魔、悪魔喰らいだと私達を煙たがる街の魔術師、〝患者〟だと物珍しいものを見るような目を向けて来る世間の連中、そしてお前! 気に入らない奴は、
湧き出す黒が拮抗を崩す。
激しく閃く火花に照らされながら、互いに大きく跳び退って距離を取った。その軌跡を赤とビビットオレンジの血が描き、互いによろめきながらも姿勢を保つ。
『鎖の雨』のように激しく滴る自分の血を見下ろしながら、熱に浮かされるように零した。
「……それを果たせるのなら、私の生涯は今日まででいい」
丸くなった背で、刀を順手に握り直す。
「復讐で人生棒に振るんかい。寂しいやっちゃ」
裁は冷笑しながら、正中線に阿部さんの刀を構えた。その大振りな刃の向こうで、私を見据えると低く吐く。
「どっちが悪人か分からんな」
「お前よりはましだ」
気付かない内にブラウスの内側から飛び出し垂れ下がっていた、ドッグタグネックレスを見下ろして返した。
「これでも首輪がかけられてるんでね」
無数のトラテープが天井を貫き現れると床を突き、空をこじ開けるように天井を破壊した。瓶のボールプールが降り注ぐ瓦礫とトラテープに打ち上げられ、露わになった鈍色の雲は滝のような『鎖の雨』を降り落とす。
もうびしょ濡れになる私と裁は、思わず顔を上げた。その瞬間を狙うように両脇の壁からもトラテープが噴き出し、激流の如く裁へ走る。
気付いた裁は躱そうとするも負傷と疲労が重なる上に、不意を突かれて飲み込まれた。
中空で先端が途切れている天井を砕いたトラテープの群れから一本を掴んだ鉄村が、それをロープ代わりに鋭く私の眼前へ降下する。背を向けて着地すると、間髪入れず零した。
「こいつに謝れ」
怒りで熱が籠もる低い声に背筋が冷える。
裁を飲み込んで荒海の如くうねっていたトラテープの激流が、波の隙間から裁を現した。海面から伸びるトラテープに縛られ芋虫みたいになった裁は憎々しげに私を睨み、鉄村に気付くと嘲笑を浮かべ吐き捨てる。
「……この色男」
確かにその目は、迫る最期に焦燥していた。
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