第186話 海底ダンジョン 中層②
それから順調に攻略を進められていたが、29層で問題に直面した。
『これは…どういうことだ…?』
29層に下った時点で、この層の魔物すべてが死んでいたのだ。
死体が海底の一点に集まっていたので、嫌な予感がして”レーダー”を行使した。
すると、海底の砂の中に非常に強大な反応が一つあった。
『まさか…守護者か?』
守護者とはダンジョン内を徘徊する殺戮者として言い伝えられている。
存在自体は大昔から知られているが、その生態は未だ謎に包まれている。
それは人族の技術が足りないのではなく、守護者に遭遇して帰還した者が限りなくゼロに近いからだ。
唯一帰還した者は手や足、眼球、腹など様々な部位が消滅しており、地上に帰還してすぐに死んでしまったという。
曰く、
「アイツは人類の勝てる相手ではない。守護者に遭遇したら自身の運の無さを恨め。」
とのことだ。
『ここは…引くべきか?…いや、様子だけ見てみよう。』
”レーダー”の反応が普通の魔物と同じであることも気になる。
ひょっとすると、砂の中にいるのは守護者ではなくただの変異種かもしれない。
『万全を期してからにしよう。』
俺は自身に”気配遮断”ではなく上位互換の”隠蔽”を付与し、続けてすべてのバフをかけた。
その後、自身の周囲に結界魔法”絶対不可侵結界”を50枚ほど展開し、防御を固めた。
『…反撃の準備もしておくか。』
”3Dレーダー”でこの層全体の空間構造を把握し、そして敵の姿も捕らえた。
『これは…ウツボの魔物か?それにしても…この大きさはなんだ!?』
体長は数百mほどあり、身体をうねらせて何とかこの層に収まっているといった感じだ。
『なっ…!?嘘だろ…!?』
巨大ウツボの魔物を”鑑定”してみると、そのステータス値は俺の1.5倍ほどだった。
それ以上に厄介なのは、”消失”というユニークスキルだ。
効果は自身の身体が触れた箇所を無に還すという、非常に危険なものだった。
『ん…?この表記は…』
元のステータス値も決して低いわけではないのだが、その異様なステータス値は(+○○)という莫大な補正が原因だったようだ。
これは魔道具やバフで強化されているときの記載だが、特に魔道具やバフがかかってる様子はない。
『どういうことだ…?って、あ!!!!!』
(+○○)を詳しく”鑑定”してみると、”傲慢の宝玉(吸収済み)”という記載があった。
宝箱ごと”傲慢の宝玉”を食べて、その上消化したのか…?
『倒したら宝玉は元に戻るのか…?ってかこの宝玉の効果は単なるステータス値の補正だけなのか…?』
何はともあれ、目当ての代物を見つけたのだ。
ここでおめおめと背を向けて逃げるわけにはいかない。
『ここは先手必勝だな…』
既に座標の把握は終えている。
この一手でHPをどれくらい削れるかによって勝負が決まるだろう。
『…でもどこに撃てばいいんだ?』
非常に長い身体のどこに放つのが効果的かわからないので、”弱点看破”を行使した。
すると、何十個もの弱点が示しだされた。
『最初から全力で行くぞ!!!』
俺は風属性魔法限界突破Lv.1”暴風球”を両手に計四つストックし、それぞれを弱点に”直接魔法転移”を行使した。
巨大ウツボの魔物は突然の攻撃に何が起きたか戸惑いながらも、苦しみ海底をのたうち回っている。
俺はそれを一切気にせず、再び”暴風球”を四つストックした。
そして別の弱点箇所へと”直接魔法転移”をした。
『このまま…っ!?』
次のストックをしようとしたところで、突然俺の身体が全く動かなくなった。
指一本さえ、1mmも動かすことができない。
まるで何かに縛られているような、そんな感覚だ。
『どういうことだ…!?ひとまず…”鑑定”』
どうやら思考までは硬直させられていないようなので、おかげで”無詠唱”による魔法は行使できるようだ。
”鑑定”すると、個体名の横に”傲慢の宝玉暴走状態”という記載があった。
『これが傲慢の宝玉の効果か…って、なっ!?』
巨大ウツボの身体は”暴風球”によっていくつにも千切れていたのだが、これも宝玉の効果によりいつの間にか全てくっついて元通りになっていた。
しかし、その分HPは大きく減少したようだ。
巨大ウツボの魔物は宝玉の効果だろうか、”隠蔽”で存在を感知できないようにしているはずの俺に一直線に向かってきた。
これも宝玉の効果による能力らしい。
『傲慢の宝玉チートすぎるだろ!!くそ…間に合えぇぇぇ!!!!!』
俺は急いで”並列思考”で”暴風球”の”直接魔法転移”を繰り返し、巨大ウツボの魔物を何度も引き裂いた。
その度HPを大量消費して身体を再生させていく。
『くっ…!!!』
巨大ウツボの口がついに最外殻の”絶対不可侵結界”にぶつかり、”消失”のスキルの影響で消されていく。
一枚消すのに約一秒、そして残りHPはあと二割…
『くたばれぇぇぇ!!!!』
”並列思考”の片方で”絶対不可侵結界”をどんどん展開し、もう片方で”暴風球”を行使し続けた。
『くそ…くそぉぉぉ…!!!!!」
俺は残りHPを削り切れず、巨大ウツボの魔物にまる飲みされた。
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