第94話 迷いの森サバイバル(南部) 拠点奪取
「ひとまず昼食にするのじゃ!!」
「そうですね。」
師範に血抜きや火起こしの指導を受けつつ、解体した肉を焼いて食べた。
見た目は黒くて不味そうな肉だったがしっかり血管も取り除けており、なかなか美味しかった。
「…昼食も終えたことじゃし、もっと深部に行くのじゃ!!」
「はい。」
数時間後
ウェアウルフ亜種と何回かエンカウントしつつも、森の深くへと足を進めていた。
解体はまあまあ時間がかかるので、ひとまず後回しにして“アイテムボックス“に収納した。
「…あっ、師範!!洞窟です!!」
「あそこを拠点にしたいから、縄張りにしてる魔物を倒してくるのじゃ!!」
「はい…!!」
上手くいけば安心出来る拠点が手に入ると思うと、活力が湧いてきた。
早速“魔物探知“を行使して洞窟の中を調べた。
『反応は…1つか。“鑑定“結果は…っ⁉︎』
洞窟を縄張りにしていたのはSランク魔物ジェノスタイガーだった。
気性が荒い体長6mほどの虎の魔物で、鋭い爪と2本の牙は鉄の防具を易々貫くという。
俺は動きやすさを重視しているため、今の装備は革鎧だけだ。
攻撃は回避するかグレートバスタードソードで防ぐしかない。
「気をつけるのじゃぞ。」
「はい。」
ジェノスタイガーは夜行性なので、今は洞窟の最奥で寝ているようだ。
起こさないように息を潜めながらじわじわと距離を詰めていく。
数分かけて、やっと洞窟の入り口に足を踏み入れた。
洞窟の中はヒカリゴケという光を発する植物が全体に満ちており、お陰で視界がぎりぎり確保できる程度には明るい。
「フガッフガッ…」
『っ!!』
意識が覚醒し始めたのか、匂いを嗅ぎ始めた。
俺はその動作にビビり、両手剣Lv.6“ジェットスマッシュ“を行使してしまった。
反応速度を上回る攻撃で仕留めるつもりだったが…甘かった。
「くそっ…!!」
ジェノスタイガーは踏み込んだ時の音ですぐさま目を覚まし、攻撃に反応した。
そして渾身の“ジェットスマッシュ“は牙で軽々受け止められてしまった。
「ガオオオオオオオ!!!!」
敵に対する威嚇に大きく吠えた。
場所が洞窟内だったこともあり、音が反響して聴力を一時的に失ってしまった。
「くっ…!!」
そして、俺が動揺したところをすかさず爪で引っ掻いてきた。
剣を前に構えてなんとか防いだものの、衝撃で洞窟の外まで吹き飛ばされた。
今まで冒険者学校では対人戦しか行ったことがない。
そのため動物型魔物は攻撃のタイミングが全く分からず、見てから防ぐしかない。
「…っ!!」
体勢を立て直してすぐに、洞窟内から追撃してきた。
だが今度は被弾までに時間があったため、攻撃を回避することができた。
「はぁぁぁ!!!」
洞窟の外は若干開けているが、あの巨躯では十分に動けないだろう。
それを踏まえ、“ノヴァディザスター“で斬撃を放った。
「ギャオオオオオオオ!!!」
システムアシスト軌道を任意に変えて調整することで、ほとんどの斬撃を当てることができた。
だが、流石はSランク魔物。
被弾箇所の傷は浅く、少し出血した程度で済んでいる。
『一応ウェアウルフ亜種を両断する威力なんだがな…』
「ガオオオオオオオ!!!!」
傷を負って怒ったのか、積極的に爪や牙で攻撃してくる。
しかし、怪我を庇うような動きをするので簡単に回避することができる。
『…そうか。今まで傷を負ったことがなかったんだな。』
道理で傷を負っただけで冷静さを失うわけだ。
それからは一方的な戦いだった。
ヒット&アウェイ戦法で首の部分に斬撃を見舞い続けること数十回。
ジェノスタイガーは首の血管が切れ、血を噴き出しながら倒れた。
「ふぅ…やっと倒せたか。」
耐久力が高く、思ったより時間がかかってしまった。
「お疲れ様なのじゃ。」
「ありがとうございます。」
「そうじゃのう…反省点は…」
師範の指摘は反論要素が全くない、完璧なものだった。
洞察力に優れ、また言葉の表現に長けていた。
「…っと、そろそろ洞窟の中を探索しに行くのじゃ。」
「はい!」
ヒカリゴケのおかげで松明を用意する手間が省けた。
洞窟は高さ5m、横幅7m、奥行き10mほどのなかなか広いものだった。
最奥にはジェノスタイガーが捕食したと思われる魔物の骨で山ができていた。
「うむ…無事拠点獲得なのじゃ!!」
「はい!!」
それから師範の指示のもと、ウルフ毛皮の寝袋やヒカリゴケの昼間用ランタンを作ったりした。
ヒカリゴケは水を垂らすと光量が増すので、ランタン代わりにできるらしい。
『おばあちゃんの知恵袋みたいだな…』
「お主…失礼なこと考えたじゃろ?」
「いえいえ。それより、そろそろ夕食にしませんか?」
「そうじゃな!!」
それから解体したジェノスタイガーの肉を焼いて食べた。
高ランク魔物は美味しいと噂で聞いていたのだが、実際は噂以上に美味しかった。
「師範、水浴びは…我慢ですか?」
「この葉っぱを使うのじゃ!!」
「これは…?」
「アルリーブスという水分が多くて殺菌作用のある植物なのじゃ!!どこにでも生えておるから便利なのじゃよ。」
「おぉ…!!」
大熊宿で配られたタオルと同じ爽やかな匂いがする。
あの匂いはアルリーブスのものだったのか。
「そろそろ寝るのじゃ。お主は訓練したから寝るのじゃよ?」
「はい。おやすみなさい。」
「うむ!!おやすみなのじゃ!!」
やはり師範の就寝時間は見た目通りの早かった。
俺は起こさないようにこっそりと素振りをした後、眠りについた。
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