第87話 剣闘祭 決勝戦前夜

「おかえりなさいませ、アルフレッド様。」




「ただいまソフィア。」




大熊宿に帰ると、いつも通りソフィアが出迎えてくれた。




「今日の試合、拝見させていただきました。」




「…どうだった?」




親しいソフィアから俺の戦闘が評価されると思うとそわそわする。


緊張し、ごくりと唾を飲んだ。




「アルフレッド様が戦うところを見るのは初めてでしたが…素人目でも分かるくらい強いのですね。」




「あ、ありがとう。」




「そうだぞソフィア!!なんせオレ達の大将だからな!!」




「そうなのですね。」




「あ、そうだ!!アルフレッドの部屋で決勝戦対策会議をするから一緒に行くぞ!!」




「わかった。」




「夕食は既に運んでおきました。」




「ありがとう。」




なんで毎回俺の部屋…という思いも、今日が最後なので我慢しよう。


部屋に着くと、既に机の上に食事と飲み物を並べて会議を始めていた。




「おかえり〜」




「お、お疲れ様なのです!!」




「お疲れ様でした。」




「ありがとう。ただいま。」




『会議というか…宴会みたいだな。まあ辛気臭いよりは良いか。』




空いている場所に座り、アイリスから戦略分析の書類を受け取った。




「さて…どこまで話したんだ?」




「まだ何も…今までアルフレッドの試合について語り合っていたもので…」




「何やってんだよ…ってか語り合うようなこともないだろ…」




「そ、そんなことないのです!!」




「そうか?…まあいいか。」




イザベルがこんなに熱心になって自分の意見を言うのは珍しい。


俺の試合にそこまで見所があっただろうか…?




「じゃあ対策会議を始めるぞ。まず戦順だが…どうする?」




「最初に決めた順番でいいかと。」




「そうだな。」




「賛成〜」




「…オレも賛成だ。」 




クレアが嫌そうな顔…というか渋い顔をしている。


ライオネルを見かけて物陰に隠れるときと同じ顔だ。




「クレア、嫌なら言わなくていいが…何か隠し事してないか?」




「実は…故郷にいた頃、ライオネルはオレの婚約相手だったんだ。」




「へぇ〜良い人そうだけど嫌なの?」




「あいつは王族の立場を悪用して、善人面して人を陥れて楽しむクソ野郎なんだよ!!オレの親友も…あいつのせいで自殺したんだ…!!」




「…っ!!」




クレアが目に涙を浮かべて震えている。


やはりボルケーノの家名は王族のものだったか…などということがどうでも良くなるほど、驚いた。




「じゃあ婚約はまさか…?」




「権力を悪用して勝手に婚約結びやがったんだよ!!両親にはいい顔して説得して…」




「…嫌なことを思い出させてごめんな。」




俺はクレアの頭をポンポンと撫でながら、そっと胸に抱き寄せた。


普段は男勝りで強気な性格だが、胸の中で泣いている姿を見ると1人の少女だということを認識させられる。




「…もう大丈夫だ。ありがとな。」




「ああ。」




泣き止むまで胸を貸し、優しい言葉をかけ続けた。




「…他の2人はライオネルの関係者なのですか?」




「オルズは外務卿、ターニャは外交卿の後継ぎだ。親友の自殺には関係してない。」




「そうですか…」




「…クレア、ライオネルに復讐したくないか?」




「できることならしたいさ!!でもオレの実力じゃ…」




「俺に任せろ。クレアの代わりにボコボコにしてやる。」




「アルフレッド…ありがとう。」




「気にするな。」




俺はクレアの親友を殺したことに、何よりクレアを傷つけたことに激怒した。


ライオネル…ただでは済まさない。




「では戦順はどうしましょうか?アルフレッドにライオネルと戦ってもらう必要がありますから…」




「クレアが1番、アルフレッドを2番でいいんじゃないかな〜?」




「ボ、ボクも賛成なのです!!」




「私もそれが良いかと。」




「3人とも強い相手と戦えないかもしれないけどいいのか?」




「私たちはアルフレッドほど戦闘狂ではないので。」




「あはは…」




俺の目には3人の方が戦闘狂に映っていたなんて言えない。




「クレアはこれで良いのか?」




「ああ!!オルズとターニャはオレに任せろ!!」




「心強いな。」




それからクレアのオルズ、ターニャ戦の作戦についてじっくりと時間をかけて考えた。




ステータス値は同じくらいだが、戦闘技術はクレアの方が上だ。


今練った作戦なら、十分2人を倒せるだろう。




「他に意見はあるか?…よし、じゃあ次にライオネル戦の作戦を立てるか。」




今日新たに判明した“火炎龍の加護“の効果について説明しつつ、俺が立てた作戦を話した。




「アルフレッドはあの熱気に耐えられるのか?オレでも熱いと感じたぞ…」




「多分…大丈夫だと思う。状態異常には強いからな。」




「なら他に心配する要素は無いね〜」




「アルフレッドが考えた作戦でいいと思います。」




「そうか…」




案山子に打ち込みながら考えていたことがある。


それは、ユニークスキル“状態異常無効“の効果発動許容範囲についてだ。




『状態異常であると認識したもの全てを無効化できる。』




という仮説を立てた。


ゲームにおいて状態異常に含まれる“睡眠“や“火傷“も意識すれば効かないのだろうか?




試しに打ち込んでいる木剣で皮膚を素早く擦り、摩擦熱を持たせてみた。


その結果擦った部分は特に何も変化せず、さらに熱すら感じなかったのだ。




『これがライオネルの熱にも耐えられればいいが…心配だ。』




「ではこれで決勝戦対策会議終了ですね。」




今日は全員起きていたので、皆自室に戻って眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る