第62話 剣闘祭 賭博勝負 vsアラン②

「あと…1人しか…」




アランが顔面蒼白になって座り込んでいる。


ベヒモスと遭遇した時のアランでさえこんな表情を見せなかった。




「落ち着けアラン!!マクレイをよく見ろ!!」




「…っ!!」




マクレイは装備を地面に置き、膝に手をついて休憩している。




「そう、今の試合で疲れ切ったんだ!!」




「そうか…そうだよな!!俺が賭けを外すわけがない!!」




アランが賭けを当てる=俺はさらに金貨5枚と銀貨6枚の利益を得ることになるんだが…


そこは隠しておこう。




『シェイフ勝ってくれ!!!今のマクレイになら油断しなければ勝てるはずだ!!』




シェイフの得物は細剣…


速度で翻弄するか、油断を突いて攻撃すれば勝てる。




「それでは両者武器を構えて…試合開始!!」




マクレイは先程と同様、早期決着を目指して開始と同時に仕掛けた。


対するシェイフはなんと、高速の突き攻撃である細剣Lv.3”クイックリニアー”を行使した。




『まずい…!!そんな軌道丸見えな攻撃をしたらカウンター喰らうぞ…!!』




しかし、現実は俺の予想と大きく異なった。


マクレイは”クイックリニアー”の発動に気付きながらも、疲労のせいで盾を構えるのが遅れた。


そしてシェイフはその瞬間を見逃さず、細剣でマクレイの胸を貫いた。




「試合終了ーー!!!勝者、モンテ校シェイフ選手!!!マクレイ選手を4人抜きで止めましたーー!!」




「よっしゃぁー!!」




「よくやった!!!」




ひとまず金貨4枚と大銀貨6枚(460,000円)の利益を得た。


あとはシェイフが5人抜きしてくれれば最高だが…




「では6戦目を始めます!!両者武器を構えて…試合開始!!」




『シェイフとカサンドラ校2番手はステータス値も装備も同じだが…マクレイを含め、カサンドラ校の選手は全員獣人なのに対してシェイフは人間。勝敗が分からないな。』




お互いに細剣使いであるため、両者とも距離を取って剣先を少し当てるだけで様子を窺っている。


先に相手の隙を狙って突いた方が勝つだろう。


まるで前世のオリンピック種目、フェンシングの試合を見ているようだ。




「おいおいもっと攻めろよ!!!」




「つまんねーぞこらぁ!!!」




大きな変化がなくシュールな戦いなので、観客席から罵倒が飛んできた。


それに反応したのか、カサンドラ校の選手が少し果敢に攻撃するようになった。




『…ナイス観客!!これで隙が生まれやすくなったはずだ!!』




段々と攻撃速度が増し、激化しているのをシェイフは冷静に攻撃を対処し続けている。


次の瞬間




「やっ!!」




シェイフが攻撃をパリィし、相手の体勢を崩した。


すぐさま追撃へ転じ、細剣Lv.3”トライアングルリニアー”を放った。




「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!!!」




その素早い3連撃は左肩と右肩、腹部を貫いた。


相手は激痛に悶えながら、その場で失血死した。




「試合終了ーーー!!勝者、モンテ校シェイフ選手!!!」




「ふぅ…あとは格下を3人片付けるだけだな。…ん?」




シェイフの様子を見てみると、異常なほどに疲労していた。


息は切れており、手足は小鹿のように震えている。




『どういうことだ…?今の試合にそこまで疲れる要素はなかったはずだ…』




”鑑定”しても、特に状態異常にかかっているわけでもなく、原因が見つからない。


よくわからないが、俺の大金のためにも勝ってもらわなければ…




「それでは7戦目を始めます!!両者武器を構えて…試合開始!!」




相手の得物は斧…細剣との相性は最悪だ。


勝つためには大振りの攻撃を回避し、ヒット&アウェイで徐々にHPを削るしかない。




シェイフの構えた細剣がプルプルと震えている。


残念なことに、相手はそれを見逃しはしなかった。


斧を大きく振りかぶったまま跳躍し、強撃で仕留めようとしている。




『馬鹿野郎…!!早く避けろよ…!!』




足が固まって動かないのか、シェイフはその場で防御の体勢を取った。


しかし予想通り、斧は細剣を砕いてさらにシェイフの身体を両断した。




「試合終了ーーー!!第2試合、カサンドラ校の勝利ーー!!!」




「くっそぉー!!何やってんだよシェイフ!!!」




シェイフの身に何があったのか知らないが、予想を外してしまった。


しかし、結果的にはプラスなので妥協しよう。


後ろでアランが賭けに負けて落ち込んでいるなか、受付のスキンヘッドおじさんにチケットを渡した。




「坊主すげーな!!」




「ああ…まぁシェイフのせいで興醒めしたがな。」




「ハハッ!!違いねぇ!!あいつは貴族の四男坊らしくてな…実際に人を殺めたのは初めてだからビビっちまったんだとさ!!」




「なるほど…そういうことか。」




俺は大金の入った袋を抱え、自慢げにアランに見せつけた。




「くそぉ…!!もう一回だ!!」




「そうだな…普通に観戦しててもつまらないしやるか!!」




それから1日目の残り14試合すべて実力が均衡した試合しかなく、安く多く賭けるしかなかった。


そのためお互い当てたり外したりを繰り返した結果、勝利数7:6で俺が勝利した。




ちなみに残り14試合で大銀貨4枚と小銀貨8枚(48,000円)のプラスだった。




出家時の残金は金貨10枚(1,000,000円)だったが、今では金貨18枚と大銀貨8枚、小銀貨8枚(1,888,000円)にまで増えた。


初心者の冒険者では借金がかさむばかりだと聞くし、装備や回復薬は非常高価なため今の金額ではまだ心もとない。




『…剣闘祭でもっとぼろ儲けするか。』

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