第42話 ベヒモス

≪その通り。我はベヒモスだ。…して、これはどういった状況なのだ?山脈に紛れて眠っていたはずなのだが…≫




下手に刺激してしまっては攻撃されるかもしれない。


ここは社畜時代に上司との会話で鍛えた話術で…




『先程あなたが喰らった中級悪魔が、魔物を率いてそこのダンジョンから進軍してきたのです。私たちはそれを止めようと軍を編成し、悪魔を倒そうとしたところで地面に謎の紋章が現れ…眩しく光ったと思ったら…』




≪我が突然目の前に現れたと?≫




『はい…』




≪到底信じ難いが…汝が言うのであれば真実なのだろう。≫




『どうして…信じてくださるのですか…?』




≪汝から創造神様の力を感じたのだ。我と同様、何かしらの力を授かった身なのだろう?≫




『…っ!!』




”鑑定”で色々と確かめたいが…俺が”鑑定”を行使したことに気付くユニークスキルを習得していた場合、怒りを買ってしまうかもしれない。




『…その通りです。それで、あなたはこれからどうするおつもりで?』




≪ふむ。強制とはいえせっかく数百年ぶりに目を覚ましたのだ。この世界を見て回りたいのだが…その前に汝の仲間の警戒を解いてはくれないか?我に戦いの意思は無い。≫




『…っ!!』




振り向くと、俺以外全員…騎士団や冒険者、その上アランパーティまでもがベヒモスに対して武器を向けていた。


今にも誰かしらが攻撃を仕掛けそうだ。




「小僧、早く距離を取れ!!」




「み、皆さん!!ベヒモスを攻撃しないでください!!!」




「…どういうことだ?」




「念話で話し合って…ベヒモスが戦いの意思は無いと言っています!!」




「子供の言うことなんか信じられるかよ!!」




「巨大生物が目の前に現れて混乱してるんだ!!目を覚ませ!!」




確かに今俺が言っていることは非現実的すぎる。


皆が信じないのも当然だ。




「静まれ!!!」




「レイフィールド殿…?その子供を信じるのですか?」




「悪魔を倒す作戦の主軸を考えたのはこの少年だ。」




「なんとっ…!!」




「それでアルフレッド、戦いの意思は無いというのは本当か?」




「はい!」




「そうか…全員、武器を下ろして後退しろ!!アルフレッド、ベヒモスとの会話は任せた。」




「えっ…⁉分かりました。」




冒険者達の中には不満そうな顔をしている者が何人もいる。


しかし、レイフ兄様の指示に従って救援部隊の元まで後退した。




≪感謝する人間の子供よ。≫




『いえ。こちらこそ悪魔が原因とはいえ、戦いに巻き込んでしまってすみませんでした…』




≪はははっ。汝は優しいな。創造神様に気に入られているのも納得だ。≫




『あはは…ありがとうございます。』




≪…して、そんな汝に頼みたいことがある。≫




『何でしょうか?』




≪近年我の眠りが徐々に長くなっている。その原因を調べて欲しいのだ。≫




『そういうことでしたら少々失礼して…』




俺はベヒモスに”鑑定”を行使した。


これで何か分かるかもしれない。






名前 ベヒモス 種族 神獣 Lv.246




HP 6230/6230 TP 310/2530 SP 0




STR 325 VIT 350 DEX 140 AGI 130 INT 310 LUK 400




スキル


なし




ユニークスキル


王の咆哮:自身よりLvの低い生物を昏倒させる。


神聖力:睡眠時、HP及びTPを徐々に回復する。※創造神に対する異常なほどの崇拝により授けたスキル。




状態


TP減少の呪い:意識が覚醒している間、徐々にTPが減少する。※TP切れの効果は全て眠気を誘うものへと改造されている。過去に人間がこの呪いをかけた。






『…っ!!』




ベヒモスの悩みは間違いなく”TP減少の呪い”だろう。


しかし、原因が人間にあったということを知られたら復讐されるかもしれない。




人間が呪いをかけたことを伏せて話すしか無いが…


隠しているのがばれたら俺の命も危うい。




≪何か分かったか?》




『…あなたは”TP減少の呪い”という呪いにかかっています。効果は…』




ベヒモスの器が大きいことを信じ、俺は包み隠さずに全てを話した。


話している途中、一瞬驚くような表情をしたが、それ以外は何も反応しなかった。




≪そうか…我は創造神様に生き永らえさせていただいていたのか…≫




「…ん?」




目の前に大きく丸い影が現れた。


上を見ると、バケツ…いや、プールをひっくり返したような水の塊が次々と落ちてきた。




「…っ!!うぉぉぉ!!!!ベヒモスの涙で死ぬ!!!!」




ベヒモスが頭を振りながら泣いているため、色々なところに巨大な水の塊が飛び散っている。


俺はベヒモスの涙を避けるため、縦横無尽に駆け回った。




「はぁ…はぁ…はぁ…死ぬかと思った…」




≪…?汝はどうしてそんなに疲れているのだ?≫




『申し上げにくいのですが…矮小な私はあなたの涙に当たるだけで死んでしまいますので、ずっと避けていたのです。』




≪なんとっ…!!いつの間に周囲にできていた湖は我の涙で…⁉≫




『ええ。』




≪はははっ!!長生きしていると面白いこともあるものだ。≫




『危うく死ぬところでしたよ…』




笑い事じゃないっての。


この世界に転生してから初めて死を間近に感じた…




≪すまないことをした。…人間の子供よ、呪いを解く方法を見つけてくれないか?≫




『私に見つけられるか分かりませんが…最大限努力します!!』




≪そうか…!!我はじきに永い眠りにつくだろう。その前に…汝の名前を聞かせてくれるか?≫




『アルフレッド…アルフレッド=ペンシルゴンです。』




≪アルフレッド…覚えておくとしよう。いつかまた会えるのを楽しみにしている。≫




『はい…!!』

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