ヒップホップスマート 著:taiki

 ラッパーに憧れる東大生の挫折


 ここから感想。

 作者様の悩みはオチの弱さについて。

 ということなので、他のことはほとんど触らずオチの弱さにだけ触れていこうと思う。

 ただ、そもそも1700文字とかいうありえないくらいの短編なのでオチに強みを作るというのが非常に難しいということを理解してほしい。

 現在開催されているカクヨムコンテストの短編部門。

 このコンテストの上限は『一万文字』。つまり、短編というのはおおよそ一万文字までの利用が許されているというわけだ。

 この作品はそれの五分の一にすら満たない。


 ここまで書けば、1700文字というのが非常に難しい分量というのが分かるだろう。しかし、ここですぐに1700文字という枠組みは捨てろ、というのは明らかに思考放棄だ。

 どうすればよいか、少し考えてみよう。

 

 まず、短編を書く際に気を付けるべきこととして、『必要のない描写を極端に削る』というものがある。

 例えば、長編の現代ドラマを書く際には、『主人公の家族構成』だとか『生い立ち』だとかを語る必要がある。しかし、短編なら(もちろん本筋にかかわらないという前提で)語る必要がない。


 さて、本題に戻ろう。

 何を描きたかったのかは、正直推測でしかないが、おそらく学歴と頭の良さの乖離、みたいなものじゃないのかな、と思った。

 わざわざ主人公を東大生におき、それの対極のようなラップバトルを出す。

 しかし、対極のように見えたラップバトルにも頭の良さは必要。これを表現するために途中の『二種類の知能』が出てくる。


 つまり、究極的に言えば本作は『レールの上を走ってきた東大生』が『実は本当にしたかったのはそんなことではなかった』というのを描いているに過ぎない。

 

 では、何が読者を満足させられなかったのか。

 それは各部分の掘り下げの少なさにある。

 そもそも、最終場面前の心情描写『むしろ、いつか『R指定』だって超えることができる。本気でそう思った。』の文章が後半で消化されていない。

 なぜこいつは挫折したのか。これが全く描写されていない。

 ここの心情描写にかなりの分量を割いたのにもかかわらず、後半で拾われなかった。

 受けとして、いきなり五年後は流石に読者の想像に投げすぎている。

 主人公はただ五年を普通に過ごしたのにもかかわらず、トモは社長にまでなった。これだとトモを主人公に置いたほうが良いんじゃないか、と思うくらいだ。


 というわけで、簡単にここの掘り下げが欲しいと思った点を下に羅列する。

 

1.サイファーデビューが散々であったことに対する主人公の感情。

 このデビューにおいて主人公がどういった感情の変化を受けたのかが分からない。

 高卒に負けて悔しかったのか(後半で『見返してやる』みたいな心情描写があることからこれだろう)。

 それとも、高卒凄いなとただ感動したのか。

 

 悔しかったことを前提で進めると、この後主人公が悔しかったからやめるのか。それとも上達のためになにかをしたのか。

 全く分からない。これが欲しい。


 これがあると心理学の授業で感銘を受けたことがより際立つはずだ。


2.上でも述べた通り主人公がヒップホップをやめた理由

 理由は上の通り。


 

 究極的に言えば作品というのは『主人公の感情の起伏』を追うもの、という言葉もある。この作品には感情の動きが少ない。

 現代ドラマなのだから、もう少し怒ったり、悲しんだりしたほうが主人公に感情移入しやすい。


 ただ、描きたいものはしっかりと見えているような気がした。

 書きたいテーマがしっかりと決まっているというのはかなりの強みだ。

 ブラッシュアップすることでよいものが出来ると思う。

 ぜひ、頑張ってほしい。



 あと、最終場面で出てくる『最終面接で社長が出てくる。』の文が非常に浮きすぎている。一瞬、演劇のト書きかと勘違いしたくらいだ。何か手前にもう一つ文章を置いたほうが良いだろう。



 こんなものだろうか。

 それでは。


作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16816700427277772620

作者URL:https://kakuyomu.jp/users/taiki_chk

 

 

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