念願の冒険者
「あなたが高杉さん、ですか」
不幸な事故から三十分ほど経って極東支部長シャロン・シルフィードは現れた。
彼女は何故かフルプレートの鎧を身に付けていて、兜の頭頂部に開けられた耳用の穴から出る可愛らしい真っ白なウサ耳は、まさに怒髪天をつく勢いような感じでピンと伸びていて、彼女がまだ直也に対して最大級の警戒をしていることを物語っている。
「はい、私が高杉直也と申します。先ほどは大変失礼を致しました」
直也は腰を直角に曲げて頭を下げた謝罪の姿勢を崩さぬまま、静かに自己紹介をする。
「頭を上げて下さい。先ほどのことはテックさんにしっかりと落としまえをつけていただきましたから。でも少し恥ずかしいので今日はこの姿で失礼しますわ」
シャロンは転移ゲートを潜りこちらへ来てすぐにジョニーを血祭りに上げていた。
彼女は兎の獣人が持つ並外れた速さに加えて、スピードスターのギフトを持っていて、その速さは神速。油断をしていたとはいえ重量のあるフルプレートメイルを身に付けている彼女の動きを誰も捉えることが出来なかった。
ドガンと激しい殴打する音に続き、ブスッ何かが刺さる音が聞こえ、何かが倒れる。
おろるおそる音がした方を振り返ると、頭から血を吹き出し、お尻に木杭を打たれたたジョニーと、それを見下ろすフルプレートメイル姿のシャロンがメイスを握りしめ立っていたのだ。
姿でだけではなく、音すらも聞こえない。白昼に突然行われた狂気の沙汰としか思えない行き過ぎたシャロンのきつい報復は、倒れたジョニーに止めを刺そうとメイスを振り上げたところでその場に居合わせた直也達が何とか食い止めた。
あまりの恐怖に直也の謝罪スタイルは今も続いている。
「もう、頭を上げて下さい。その格好のままでは話が出来ません」
「はい、すいませんでした」
直也は重ねて謝罪をすると頭をあげる。
「では、改めて。私は冒険者ギルド極東支部の支部長をしているシャロン・シルフィードです。今日は皆さんの冒険者ギルド登録のお礼とランク・タグの貸与の立ち会いに参りました」
「冒険者ギルドの支部長様が直々にですか?」
サクヤが尋ねると、
「はい、皆さんはとても素晴らしい力を持たれてた類い稀なる方々ですので、冒険者ギルドといたしましても歓迎させていただきます」
シャロンはイズナとレーバァに目配せして話を続ける。
「それに、今回はとても素晴らしい事にS級の冒険者に認定される方がお二人もいらっしゃいますので、是非ともそのご尊顔を直接拝見させていただきたくて」
兜からはみ出たウサ耳がビンビンにいきり立っている。どうやらシャロンはイズナとレーバァに会いに来たようだ。
「テックギルマスは暫く目を覚まさないでしょうから、私が変わりに皆さんにランク・タグをお渡しいたしますね」
イズナとレーバァは元々が災害級の力を持つ伝説の存在のためにS級に、サクヤも超一流の精霊魔法使いで召喚士ということでA級に、直也、マリー、リーシェ、アスはジョニーの非常に強い推薦があったが、会議の結果まだ実績が無いためC級へそれぞれ登録されることになった。
「おめでとうございます。冒険者ギルドは皆さんを歓迎いたします」
これで僕は念願の冒険者!もう無職ではないんだ!
直也は渡されたランク・タグを大事に手に持ちって見ていると熱く込み上げてくる物がある。
「直也さん、就職おめでとうございます」
「直也今夜は就職祝いだ!何かが食べたい」
「直也さんと同じで嬉しいです」
「主様、私がC級とか少し納得いかないんですけど」
「旦那様、あたいに惚れ直したかい」
「直也様、私一緒に魔獣狩り楽しみですね」
「みんなありがとう!みんなのお陰で漸く働くことができるよ。ああ、無職じゃないって素晴らしいよ」
「あれ程素晴らしい女性達に好かれているあの男は一体?」
直也を中心に集まるみんなの様子を見ていたシャロンは、とても直也の正体に興味を惹かれたのであった。
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