それぞれの思い語り3   狐と火竜

お稲荷様の幸せ


  直也様をお慕いしてからもう千年以上もの月日が流れた。

もう二度と会うことが出来ない私が心から愛し、今も愛し続ける男性。私は好意を打ち明けることはしなかった。それが心残りだった。


直也様には恋人がいたし、種族も違う。叶わないと分かっていても、自分の気持ちを正直に伝えることが出来ないまま、直也様を失ってしまったことに私は後悔をしていた。


  魔王との戦いで勝てないと悟った直也様は私に「みんなを守ってほしい」 と、最後に願いを託していなくなってしまった。


 

 その願いは私の唯一の生き支えになった。願いを叶えるために私は一生懸命に働いた。働いてさえいれば、私は直也様と繋がっている。直也様は願いと一緒に私の中で生き続けているそう思うことが出来た。


  直也様の恋人だった桜は直也様がいなくなられた後、直也様によく似た一人の男の子を生んだ。私はその赤子と会った時に決めたのだ。直也様の子供、血を受け継ぐ者達を、直也様の生きた証を、私の一生をかけて守っていこうと誓ったのだ。


  その誓いは盟友で親友の桜が亡くなっても、何代もの世代が交代しても少しも揺らぐことは無かった。


  600年、800年、1,000年。とても長い時間を誓いと共に過ごしている私に、ある奇跡が訪れた。


 

 直也様が生きていた。直也様にまた会うことが出来た。


  私は絶対に忘れない。1,000年分の涙を流した、あの魂が震えるほどの喜びを感じた瞬間のことを、私は生涯忘れない。


 

 再び直也様に出会うことが出来た私は、もう待つことも後悔することもしたくないと思った。


 直也さんに嫌われようとも避けられようとも、もう気持ちには嘘をつくことはしたくないと思った。


 私は少し自分に素直に生きてみることにした。


  今度こそ直也様に生涯を捧げて一緒になりたい。


  思いは直也様と再会してから日を追うごとにどんどん強くなっていく。顔を見るだけで、側にいるだけで、話をするだけで、私の直也様を思う気持ちは強く深く重くなっていく。


  そんな私に拍車を掛けるように直也様の周りにどんどんと現れる若い美しい女性達が私を焦らせる。


  サクラの生き写しのサクヤ、凛としたメイドのマリー、美少女エルフのリーシェ、直也様の従者のまだ幼いアス、そして私を同じ人を1,000年愛し探し続けた火竜のレーヴァテイン。


  みんな直也様が大好きで直也様と一緒になりたいと思っている恋敵。彼女たちが直也様と一緒に居るだけで嫉妬してしまう。私はもう彼を失いたくないし、誰にも負けたくない。我慢だってしたくもない。


  今回の一番をめぐる争いは私に決意をさせた。サクヤ達も思い思いに直也様へ好意を伝えていく。私だってこのまま引くわけには行かない。彼を愛する気持ちは誰にも負けはしない。


  彼の顔を見つめて笑顔で告白をする。


 「直也様、私はあなたを愛しています。


   私はあなたの一番になりたいです」


 

 1,000年間の思いの丈を、ようやく伝えることが私は、かつて感じたことのない幸福感と開放感に包まれた。


 

私は幸せだ。


 

 そう思うと信じたれない程の勇気と力が湧いてきた。


 


 


 


 


 


火竜の計画


  本当旦那様は良い雌に囲まれている。あたいの力を見てもなお挑んで来ようとするとは。


  今までにそんな奴らには会ったことが無かった。あたいが力を少し見せるだけでほとんどの奴は逃げていった。あたいの名前を聞いただけで、あたいの姿を見ただけで誰もがいなくなった。たまにあたいを討伐しようとした奴らも何人かいたが、私にかなう奴は一人もいなかった。


 

 黒髪の美しい若い雌の召喚士は驚いたことに神獣フェンリルを呼び出した。しかも信じられないことに、神をも喰らうフェンリルなんて凶暴な狼を、まるで子犬の様に可愛がり手なずけている。


 

 忍び装束の雌には特に注意が必要だ。あいつも何かの加護を持っているようだ。持っている刀は妖気を放ち、着ている紫の鎧はわずかに神気を放っている。刀はかなりの業物、鎧の能力は謎だ。

 でも一番危険なのはあの雌自身だ。忍びの技なのか、あいつは此処ここに存在しているが、恐らく其処そこにはいないのだろう。狭間をたゆたい、揺らめく陽炎かげろうというところか。いつの間にか存在していつの間にか消滅している。

 このあたいが、かなりの意識を集中しなんいと捉えることが出来ない。とんでもない実力の持ち主だ。


 

 森のエルフは精霊魔法使いだろう。先の2人には及ばないが、こいつもなかなかの才能を持っているようだ。私を見ても気後れをしていない。しかし今はまだ蕾、この先さらに精進の時間が必要となるだろうが期待できる。


 


 漆黒のドレスを着た幼い姿の雌。戦闘能力かなり高いだろう。何者なのかはまでは分からないが可愛らしい見かけ通りの人間ではないだろう。あたいの竜眼が捉えるあいつは、何重もの強固な結界に覆われていて半端な事では傷一つ付けることは出来なそうだ。隠している魔力も桁違いと思われる。本気を出したらあたいと良い勝負をするだろう。


 


 いつも旦那様の側にいた狐のイズナ。元からとても強い雌だったが、何か2つ位一気に進化してしまったみたいだ。何千年も前に存在して世を恐怖と混乱で支配したという九尾の狐。旦那様を探す旅の最中に何度か大陸で話を聞いたことがあった。あたいと同じかそれ以上の存在。九尾の狐となったイズナの姉御は、さらに特別な加護を持ったお稲荷様。


 もう、あたいより強くね?


 

 でも面白いな。これで勝負の行方が見えなくなってきた。旦那様の一番はそう簡単に奪えないってことだ。


 本当に凄いな、こんな良い雌達をはべらせるとはさすがは旦那様だ。みんな幸せになるあの計画に参加する資格は十分にある。


 

あたいも旦那様の一番は、誰にも譲る気はない。あたいはすべてを焼き尽くす火竜レーヴァテイン。旦那様の一番の雌でつがいとなって卵を産んで大家族になり幸せを掴み取る者だ。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


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