千年の眠りの事実
舞台はジョニー達イズナ親衛隊がギルドの酒場で直也を呪い、怨嗟の声を上げている同時刻。
直也は借り受けている屋敷の離れの床に正座させられていた。
正座する直也の前に椅子を置いて座っているのは、漆黒のドレスを再び着た黒髪の美少女。
美少女はプンプン怒っていた。
理不尽にも風呂場に一人おいていかれた件について、かなり怒っていた。
「主様、あれは無いんじゃないな?」
「いえ、突然のことで動揺してしまいまして」
「何に動揺したっていうのよ?約束通りに会いに行っただけじゃない!」
「はい、会いに来ていただいた件につきましては、時間が少し遅い位でそんな問題はなかったのですが」
「じゃあ、いいじゃない!私を見て逃げるなんて、すっごく傷ついたんだから!」
「いえ、決して悪気かあったとかそんなつもりでは無くて、お、お風呂場に裸でいらっしゃったものなので、驚いてしまって」
「お風呂だもん、裸でいるに決まっているでしょ!大体何で主様が悲鳴を上げて逃げるのよ!そこはガン見して食いついてくる所じゃない!」
「いやいやいや、流石に僕には少女趣味はないので」
顔の前で否定の意味を込めて、いやいやいやと手を左右に振っていた直也。ドゴン!と正座している膝の僅かな隙間から、トーキックで股間を蹴られてしまう。
「!!ぐおおおおおああああ!!」
顔を青くして股間を抑えて転げまわる。
「誰が魅力ない美少女よ!誰が胸の薄い美少女よ!本当に主様は失礼ね、フン!」
「グスン、そんなことは言っていないよ」
「見てなさいよ、必ず私の虜にして見せるんだからね!」
痛みが引いて何とか話が出来るようになった直也は、まだ少し頬を膨らませてプンプンと怒っている少女に話しかけた。
「それで、君は一体誰なんだい?主様って何?」
「主様、分かっているのでしょ?私のこと。それとも私の
そう、直也はこの魔力の持ち主を知っていた。姿は変ってしまっているが、この少女が放っている魔力は直也が良く知っているものだった。
「何でここに居るんだ、アスモデウス」
先ほどまでの雰囲気は何処にいってしまったのか、直也は、殺気すら纏わせアスモデウスを油断なく睨んでいる。それはそうだろう。直也の人生はこの魔王によって変えられてしまったのだから。
「そんな目で見ないよ、怖いよ主様。いくら私が結界を張っているとしても、そんな殺気を出していたら他の人に感ずかれてしまうわよ」
「いいから、質問に答えて下さい。何故ここに居て、何を企んでいるんです。返答次第では、また殺し合わなければいけません!」
少女の姿のアスモデウスは、悲しそうな顔で、ぽつぽつと語り出した。
「主様、本当に忘れてしまったの?私と一緒に千年の時を過ごしたのに!」
「それは、あなたの魔法のせいですよね」
アスモデウスはふるふると小さな顔を左右に振って否定しその理由を話した。
「主様、あなたは私達との戦いで自分の魂をほとんど使い果たして、死んでしまう直前だったのを覚えている?あの時私は、あなたに死んでほしくなくて時間の牢に閉じ込めたの。もし、あのまま数分でも放置していたらあなたは死んでいたもの」
アスモデウスの話には思い当たることがある直也は、話の続きを促す。
「始めは面白い人間がいるという認識だけだったの。でも主様を一目見て思ったの。この人間は神に愛されている。可愛がられているってね。私がどんなに欲しくても得ることが出来なかった神の愛を、一身に受けている人間。しかも複数の神の愛されている。羨ましくて、羨ましくてたまらなかったわ。殺したいほどね」
アスモデウスは、直也を上目遣いで見つめながら少し不安そうに話を続ける。
「実際始めは殺すつもりだったわ。そう言う命令だったし。でも主様に触れているうちにこう思ったの。欲しいってね。主様が欲しくて、欲しくてたまらなくなったの。もう殺すなんてとんでもない。殺さない様に掴まえようとしても抵抗するし、何度説得しようとしても全然話聞かないし、これはもう一回大人しくさせないといけないって考えたの。それで、主様が狙っていた時間稼ぎの策にのることにしたのよ。砦の奴らの見殺しの命令にも興味が無くなっていたしね」
アスモデウスは当時の苦労を思いだしたのか、身振り手振りで少し興奮しながら一生懸命伝えてくる。
「私の核を囮にして、漸く捕まえたと思ったら、もう主様はひどい有り様!もう何時死んでもおかしくなかったわ。直ぐに完全回復魔法で体は癒したけれど、魂はボロボロ。私は毎日毎日ほんの少しずつ時間をかけて、私の魂を主様の魂に融合させて助けたんだよ。主様に刻まれた私の傷を治しながらだったから、本当に時間がかったの。人間の魂は壊すのは一瞬。でも癒すのには途方もない時間が必要だったわ。で、魂を効率良く融合させるために、二人の間に主従経験を結んだのだけれど」
「何で僕が主に?」
「だって、下僕にしたら私、嫌われちゃうじゃない」
直也はため息を付きながら、アスモデウスがした話を良く考えてみる。確かにあの時自分は死を覚悟して戦い、敵である彼女の誘いは聞かなかった。その気すら無かった。意識がなくなる最後の瞬間温かさを感じたのも覚えている。
彼女がいなければ自分は死んでいたのは事実だろう。そして、自分がこの世界で目が覚めた時に感じた疑問?
何故魂を限界まですり減らした自分が生きているのか?
何故自分の魂の位階が上がり強くなっていたのか?
アスモデウスが語ったことで全て説明がつく。彼女の魂が同化したためだ。
「信じてもらえないかもだけど、私はあなたに生きて欲しかったの。いいえ、あなたと一緒に生きてみたくなったの」
当時は生き延びるために殺し合いをした。自分は彼女に殺されかけたが、結果は最後に助けられた。気まぐれだろうが生命の樹の里も桜もいずなも救われたのた。
直也は何故かアスモデウスのいうことが事実であると信じることが出来た。彼女の言葉に嘘はない。だけれども、何故自分は彼女を信じることが出来る?
そんな直也の複雑な気持ちが伝わったのか、アスモデウスが
「主様が私を悪く思えないのは、千年間ずっと私にお世話されていたからだよ」
と、新しい燃料を投下。
「お世話ってなんのだよ!」
聞き捨てならない不穏なワードに、一瞬で悩みも迷いも憂いも吹き飛ばした直也は、たまらず本気でつっこんでしまった。
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