噂話とギャップ萌え

 お昼の酒場、ちらほらと仕事を終えた冒険者達の姿が見える。講習を受けている者達も酒場で食事を取ることが出来るが、冒険者同士の無用な争いを防ぐために、酒場の隅に講習組席がまとめて用意されてた。


 その講習者ブースの空間は、現在ダークサイド支配されていた。その暗黒の中心になっているテーブルに直也、サクヤ、リーシェの三人が座っていた。

 少し大きな四人用の対面の四角いテーブルに、三人並んで座いる。対面テーブルの片側に直也を挟んで左右サクヤとリーシェが肩を並べてお互いの体を直也にピッタリとくっつけ座っていた。

 男性陣は美少女二人に挟まれ甲斐甲斐しく世話をされている直也を、血の涙が流れそうになりそうなほどの睨みを効かせて、三人が座るテーブルを窺っている。


 

「二人とも僕は大丈夫だからね。一人で食べられるからね、少し離れ欲しいな、なんて」 


「直也さん、この唐揚げ美味しそうですよ。はい、あーん」


「まずは野菜を食べないといけません。直也さん、先にサラダからです。あーん」


 

 サクヤもリーシェも直也のお願いを聞いてくれる気は無いようで、次々と世話を焼いてくる。その度に周りの男性陣から聞こえる呻き声や、呪詛を孕んだような呟きがかなりウザイ。


(早く時間よすぎてくれ)


 一分一秒でも早く時間が過ぎて欲しいと願う直也の耳に、仕事を終えてギルドに帰って来た冒険者達の話が聞こえてきた。


 

 「聞いたか!隣のサンリク伯爵領の海岸に火竜が現れたらしいぞ!話ではあのレーヴァテインではないかって話だ!」


「あの終焉の竜レーヴァテインか?」


「ああ、そうだ。敵対した相手は神だろうが、悪魔だろうが、全て焼き払い終わりをもたらす。なんでそんな奴がこんな辺境に出たのか分からないが、何かが起きようとしているのかもな」


 

「火竜ですか、怖いですね」


「火竜レーヴァテインって、確かここ何百年かは活動した記録は無いはず、話が本当なら、何かあったのかしら?」


 冒険者の話を聞いていたリーシェとサクヤが話している様に、火竜の出現の話はあっという間にギルドに伝播した。お陰で男性陣の厳しいマークが外れた直也は漸くホッと一時つくことが出来た。


 


「ん?そう言えばレーヴァテインってなんか何処かで、聞いた事覚えがあるような?」


 それは、かつて可愛がっていたドラゴンパピーの名前と同じだったが、その事に直也は気がつくことは無かった。


 


 昼食を終えた戦闘訓練の参加者達が、ギルドの敷地内にある訓練所に到着すると、ジョニーが拡声器をもって待っていた。


「あなた達揃ったわね。じぁあ早速本日二人目のスペシャルゲストを紹介するわよ。この方はね、滅多に人前に出ることが無い、物凄い方なんだからね、絶対に失礼な事しちゃダメよ、だいじな事だから、もう一度言うわよ。絶対に失礼な事しちゃダメよ」


  ジョニーの余りの念の入れように、一体誰が講師に来るのか、と訓練の参加者は不安になる。


「では、先生お願いします!」


 と、ジョニーが深々と頭を下げて、どこかで聞いたことがあるようなセリフを叫ぶ。


  すると、目の前の空間に突然鬼火が複数現れ舞い踊り始める。やがて鬼火が一ヶ所に集まり、大きく爆ぜると、落ち着いた雰囲気の少し冷たい目をした一人の女性が現れた。


「イズナ・シルバー・フォックスだ」


 銀髪ケモ耳の美女が語った名を聞いた一同は、突然の生きる伝説、大戦の英雄の登場に腰を抜かしてしまう。


  が、逆に直也は普段見ることの無い、凛としたイズナの姿に萌えを感じてしまうのだった。


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