英雄の過去 英雄語り
僕は孤児でした。
赤ん坊の時に施設の前に捨てられていた所を保護されたそうです。
両親については何も知りません。
今更、知ろうとは思いません。
でも、両親にもひとつだけ感謝していることがあります。
それは、桜に会わせてくれたこと。
僕を産んで施設の前に捨ててくれたおかげで、僕は桜に会えました。
白崎 桜。僕にとって、一番大事で大切な女性で、命を懸けて愛した人でした。
彼女の家も複雑な環境で、小さい頃から同じ施設に預けられていて、僕たちは一緒に育った同い年の幼馴染です。
いつも明るい彼女といると、嫌なことを忘れて疲れて眠るまで一緒に遊ぶことができました。
彼女とは人生のほとんどを一緒に過ごし、良い経験も悪い経験も、喜怒哀楽を共に分かち合い辛いことや苦しいことも二人で乗り越えてきました。
僕と桜は自然と当たり前のように、愛し合うようになっていました。
僕と桜は中学を卒業してからは、桜の母方の実家のお世話で、古い平屋の家を借りて一緒に暮らしていました。
二人とも昼は働いて、夜は学校に通う。
毎日を一生懸命に働いて学んで。僕は早く桜を守ることが出来る一人前の大人の男になりたくて必死でした。
金銭的には大変だけれど二人の生活はとても充実していて、二人で一緒に買い物に行ったり、散歩デートをしり、同じテレビを見て笑ったり、時には喧嘩もするけれど仲直りの方法も決まっていて、
「桜、大好きだよ」って言うと、
桜はいつも
「もう仕方ないな」と言って直ぐに仲直りをしてくれる。
毎日がとても幸せでした。
そんな二人の楽しみの一つに食後のスイーツがありました。
高い物は買えないけれども、二人一緒に食べるのがとても嬉しくて・・・。
今日はこれを食べたから、今度はあれを食べよう。二人で一緒に選んで、一緒に食べる。
そんな何気ない日常の一つ一つ僕にとってのかけがえのない宝物でした。
20歳の誕生日を迎えたその日、僕は貯めていたお金で指輪を買いました。プロポーズをするためです。実際の結婚はまだ先の事になるけれど、言葉にして形にして伝えておきたかったのです。
どうしても・・・どうしても・・・
僕はどうしても想いを伝えたかった。
(ずっと桜と一緒にいたいと)
僕はどうしても決意を伝えたかった。
(必ず桜を幸せにすると)
僕は桜の全てが欲しい、桜に僕の全てを受け入れて欲しいと。
今の僕には高価な指輪を買うことは出来ません。ですが、アルバイト先の喫茶店のマスターに紹介してもらった伊勢さんという方が作った、とても良い指輪を安く譲っていただくことが出来ました。
透明な宝石の左右から対の翼が羽ばたくようなデザイン、指輪の内側にはそれぞれに見たことのない文字が掘ってあり、「永遠」と「誓い」との意味を持つ言葉であるとの事でした。
準備が整い、僕は桜をデートに誘いました。テーマパークで遊んで、街を二人で歩いてウインドショッピングをして、恋愛映画を見て、最後にアルバイト先の喫茶店で夕食を取り、マスターと先輩のフォルさんが居るなかで指輪を捧げてプロポーズをしました。
ずっと一緒に居ましたが、この時ばかりは、緊張しまくりでした。心臓の鼓動高鳴すり、緊張、期待、不安、恐怖。感情がぐちゃぐちゃに交ぜ合わさり汗が吹き出してきます。
何度も何度も水を飲んで喉を潤しますが、すぐ口が乾いて、上手く言葉がでませんでした。
カウンターにはいつの間にか、お店の常連客の皆さんもいて、ボディーランゲージで応援や指示を出しながら僕達を見守ってくれています。
「桜」
(桜と二人、ずっと一緒に居たい)
(桜を必ず、幸せにする)
(桜は僕が守る)
溢れ出る感情をすべての思いを言葉に乗せて、
「僕のお嫁さんになって下さい!」
本番を格好良く決めようと、皆に相談してあんなに練習したのに、本番に焦って出てきた言葉は用意していたものではありませんでしたが、
でも、間違いなく一番桜に伝えたかった言葉。
僕の素直な気持ちでした。
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