第54話 それにしてもこのショタ、相当モテモテである
「あ、あの……! 助けてくれてありがとう……!」
振り返ると先ほどのOLさんが立っていた。逃げていなかったらしい。
俺は肝を冷やした。
もしかしたらあの戦闘を見ていたかもしれないし、どう弁明したらいいのか全く分からなかった。
「い、いえ……あのお怪我の方は……」
「私は大丈夫! それにしてもあなたすごいのね! 一瞬なんか火柱が上がった後、化け物を倒したんだから!」
火柱……≪サルファーブレス≫の事か?
発言から察するに、その熱線を俺が発したものと認識していないはず。
ここが暗くてよかった……。
「どうもあの火柱、怪人が発したものみたいでして……目くらましのつもりだったのかも」
「それでも倒したって事なんだよね!? 本当にすごいわ……一体どうやって格闘習ったの?」
「いや、その……」
「……暗くてよく見えなかったんだけど、あなた可愛いんだね……。ねぇ、もしよかったら家に来る? うんとお礼がしたいんだけど」
俺の手を握って、恍惚とした表情をするOLさん。
一体どんなお礼をするって言うんだ……!!
別に嫌という訳ではないが、ここで応じたら舞さんや光さん達に申し訳が立たなくなってしまう。
俺は彼女を傷付けないよう、そっとその手から離れた。
「い、いえ……お礼は嬉しいですけど……それじゃ!」
「あっ、待ってボク!」
そのまま逃げるように逃走。ビルの陰で隠れて一息吐いた。
少し冷たい対応だっただろうか。
かと言って連れていかれてたらチョメチョメされていだろうし、何よりフェーミナにまたゴミを見る目をされそうだ……。
「でもまぁ、人助け出来てよかった……」
被害が出なかったのは良い事。改めて自分は正しい行いをしたと実感した。
――だがそう思った後、誰かがいるような気がした。
「誰だ!?」
俺の警戒しながらの問いかけに、ビル影から現れる謎の存在。
その正体は…………スマホを持ったマレキウム姿の玲央ちゃんだった。
「どもユウ君。さっきの戦闘お疲れやした」
「……どうも。何してんの?」
「怪人を退治しに急行したら、ユウ君とOLさんのおねショタが展開されてたから動画撮影してた」
「……消して」
「やだ」
さりげなく消去をお願いしたのに、あっさりと断われてしまった。
仕方なく彼女に近寄る。
「貸して。自分で消すから」
「やだ!! じゃあ1万渡すから許して!!」
「金の問題じゃないよ!! とにかく恥ずかしいから消して!!」
「むう……そこまで言われたら……」
仕方がないといった感じで動画を消す玲央ちゃん。
その執着心は一体どこから来るのやら。
「とりあえず出てきた怪人はユウ君が倒しちゃったみたいだし、私はそのまま帰るとするよ。じゃあお休み」
「ああお休み……じゃなくて待った! 玲央ちゃんに聞きたい事があるんだけど、あれから波留ちゃんどうなった?」
「波留ちゃん? あー、今までと変わんないと思うけど、何か悩んでいるって感じはしてたかも。何が原因なのかよく分かんけど」
「……そっか」
やはりあれから悩んでいたようだ。
彼女に余計な心情を与えてしまったと思うと、心が痛みだす。
「ありがとう玲央ちゃん。あとは自分で何とかするから」
「……? まぁいいや。じゃあお達者で」
玲央ちゃんが人間には無理そうな跳躍力で場を去る。あたかも俺のようだ。
怪獣、巨人、そして変身ヒロイン。
俺の周りに個性的な仲間が集まった。それはいいとして波留ちゃんの事が気掛かりだ。
何とかしないと思いつつも、俺は舞さんの待つ家へと戻っていった。
********************************
舞さんはOLさんとの会話を聞いてなかったみたいだ。その際にすごく安心したのは言うまでもない。
またソドムのプロフィールを見たのだが、
勇猛怪獣 ソドム
(以下中略)
2本角と鋭い爪、長い尻尾で敵を薙ぎ払い、さらに息を吸い込む事で『サルファーブレス』と呼ぶ超高熱の熱線を吐ける。
また相手に爪を突き刺す事で能力を奪う他、素早い地中潜行、尻尾を倍以上に伸ばして槍のように突き刺す技を得意としている。これらの能力は人間形態でも使用可能。
かなりぎゅうぎゅう詰めで、もはやweb小説の最強主人公のスペックを見ているかのようだった。
まだまだ追加できるというのだから……マジで最強主人公になりそうでちょっと怖い。
そんなこんなで翌日。
俺は舞さんが学院に行っている間、家じゅうに掃除機をかけていった。
なかなかに広いので全部やるのは骨が折れるが、舞さんの負担が減ると思うとやる気は出てきた。
そんな時にスマホが鳴り出したので確認したところ、光さんからラインが来た事が分かった。
ただ正確には光さんではないようだ。
《これ光ちゃんのラインになっているけど、実際は舞だよ》
《突然ごめんね。実は自分のスマホ忘れちゃったみたいで、だから光ちゃんの借りて連絡したの。スマホは私の机に置いてあるはずだから》
《警備員さんに悠二クンの名前と写真を見せてあるから、言えば通してもらえると思うよ》
メッセージの後、オレンジ色の犬のようなキャラが「マッテルヨー」と言っているスタンプが貼られていた。
何となく怪獣王シリーズのAIキャラを思い出してしまった。あの子、めちゃくちゃ可愛くてかなり推してたな……。
ちなみに舞さんのスタンプは、あのダサシャツに描かれていたキモカワ怪獣が中心となっている。
デザインがアレだが、本当に彼女はあのキモカワ怪獣を気に入っているご様子。
それは置いといて、すぐにスマホを届けなければならない。
舞さんの部屋にあったスマホを手にしてから、俺はまっすぐ本多駅へと向かっていった。
大戸学院に向かうのはこれで2回目だ。
あの時は無断で侵入して引け目を感じたが、今回は堂々と入れる。あわよくば以前よりも学院の事が分かるのかもしれない。
駅を経由して、数分後に大戸学院に到着。
門近くの警備員に自分の名前を出したところ、案外快く門を開けてくれた。
「ああ、宝田舞さんから話は聞いているよ。可愛いお姉さんの為に持っていきな」
なんてカッコいい警備員さんなんだ……俺は彼に礼してから中へと入った。
俺の前に広がる大戸学院の庭園。
前にも思っていたが、ここに入ると本当に異世界に転移したかのような感覚に陥る。それだけ外と中の差があまりにも違いすぎた。
「あの男の子、何だろう?」
「さぁ、転入生じゃね?」
「バカ。あんな見た目で転入生はあるかよ」
外にいた男子生徒達の視線が俺に集まる。普通小さい子がこういうところに入らないか。
そう思っていると俺の元に声がした。
「悠二君、こっちこっち」
「舞さん!」
昇降口の中に舞さん、そして光さんと勇美さんが立っていた。
「えっ? あの宝田さんと仲良し?」と男子生徒の声が聞こえたものの、俺は昇降口へと入っていき、舞さんにスマホを渡した。
「はいこれ。次から気を付けてほしいな」
「うん、どうも。本当に悠二君は偉いね」
舞さんが俺の頭をなでなでしてくれた。
いやはやショタは辛いな……(別の意味で)。
「頭撫でられる悠二君尊いな……撮影しとこ」
「もう勇美がショタコン振り切ってるね。これも悠二君のフェロモンのせいかな、フェーミナ?」
『私に振らないで下さい。そもそもショタコンとフェロモンに何の因果もありません』
フェーミナはアルマライザー状態になって、光さんのポケットの中にしまっているようだ。
俺は彼女に尋ねたい事があった。
「フェーミナ、例の機械目玉どう? 見つかった?」
『いえ、あれから影も形も見ておりません。そもそも怪獣と違い気配がほとんどしないのです』
「マジか……」
となると隠密がものすごく強いタイプか。
探すのも手間がかかりそうだ。
「……まぁ、それは追々何とかするか。じゃあ俺は帰るから」
「あっ、その前にお礼させて。今日は夏休み前だから午前授業なんだけど、食堂が一応使えるからご馳走してあげるね」
「食堂でか……じゃあお願いしようかな」
「よかった。私達はまだ授業があるから、警備員さんの待機室で待っててね。私が言っておくから」
舞さんの提案を呑む事にした。
名門学校の食堂がどうなっているのか興味あるからな。
「えっ、あの子何? めっちゃ可愛い……」
「何だろう……噂で聞いた宝田さんの弟?」
「やだ……すごくタイプ……」
するとその時、俺達の周りに女子生徒達が集まってくる。中には頬を赤らめた子もいた。
これはまた……大騒ぎになるな、多分。
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