第45話 ドキっ! 美少女だらけのお泊まり会! 1

「ごちそうさま。美味で素晴らしかったです」


「ほんと? 喜んでもらってよかった~」


 満足そうに口を布巾で拭くフェーミナ。

 光さんがニコニコしている中、フェーミナが今までにないくらい目を輝かせた。


「ええ、これほど素晴らしい料理があるとは初めて知りました。特にケーキの甘味が戦いの疲れを潤してくれて、ぜひとも推したく……」


 その瞬間、コメントしていたフェーミナとそれを眺めていた俺の顔が見合った。

 次第に彼女の耳が赤くなって、目つきが鋭くなって、


「何見ているのですか……?」


「ヒェ!? な、何でもないです……!!」


 声音も怖くなった!?

 俺はとっさに顔をそむけたが、未だに彼女がこちらを睨んでいる。視線で殺しそうな勢いだ。


「はいはい怒らないの。それよりも大事な話があるけどいいかな?」


「大事な話?」


 フェーミナの視線に晒されている時、光さんがそんな話を切り出した。


「実は隠し事とは別に用件があって。今日パパとママと恵美子さんが旅行に出かけるから、家にはわたしとフェーミナしかいないの」


 実は本日は土曜日。

 昼前あたりに《そろそろ勇美に話してみる? 美味しいアフタヌーンティー店があるからそこでしようよ!》という光さんのメッセージが届いたのだ。

 

 俺達を呼んだのはそれだけではなく、そのような話があるかららしい。


「それでこうして怪獣だとか巨人だとか話したじゃん? そこからさらに親交を深めたいと思い、何とわたしの家でお泊りパーティする事に決めました!」

 

「つまり光ちゃんの家に泊まっていいって事?」


「その通り! 泊まってくれたら皆で美味しい料理食べれるし、夜の女子会とかも出来るよ!」


 舞さんと光さんの話を聞いて、俺はハッと気付いた。

 

 もし泊まる事になったら、ここにいる全員と一緒に寝るというシチュエーションになる。

 ……そろそろ死んでもおかしくない。いや、そこが死に場所なのかも……。


「本当にいいの?」


「大丈夫大丈夫! あと舞には嬉しい報告かもしれないけど、わたし最近アルティシリーズ見るようになってさ、一緒に鑑賞会する予定なんだ。どう?」


「鑑賞会……。光ちゃん、私にそうさせたら結構うるさいよ? 色んな意味で」


 明らかに舞さんの目の色が変わった。

 ついでに口角を上げているので、だいぶ怪獣オタクとしてのスイッチが入っている様子。


「よし、上手く舞を取り入れた! 勇美もどう!?」


「ああ、私も大丈夫だよ。ジムの予定はないし」


「よし! 最後は悠二クン!!」


「……えっと」


 光さんを含めた美少女全員が、俺という一点を見ている。

 どうみても断れる雰囲気ではない。そもそも断る理由もないのだが。


「まぁ……俺も泊まろうかな」


「はいオッケー! じゃあ、一旦帰ってからわたしの家に集合ね! 2人とも初めてだろうから、あとで地図送るよ!」


 こうして俺達のお泊り会が始まる事になった。

 ただフェーミナがどう思っているのか分からないので、それを確かめる事に。


「フェーミナはいいのか? 俺達が泊まって」


「いいも何も、美味しい料理が食べられるのならそれで十分です」


「……そう」


 彼女はブレない方針で行くようだった。



 ********************************



 俺達はアフタヌーンティー店を後にして、各々の家へと戻った。


 そこから舞さんが上機嫌で荷物の準備をしていたものだ。

 友達の家でお泊りというのは確かに心躍る。……もっとも舞さんが躍っているのは別の意味もあるだろうが。


 ちなみに準備している途中、俺はスマホでネットニュースを見ていた。


 先日タイタンに襲撃された愛知県の防衛軍基地なのだが、それがようやく復興したとの事。

 相変わらずスピードが早すぎるのだが、この世界にはいわゆる特撮的都合(復興が早かったりぐんぐんカットが見えたりなど)が存在しているので、突っ込むのは野暮というものだ。


 それから光さんから送られた地図を頼りに、彼女の家に向かう。

 俺は家に向かうのは二度目だが、舞さんは初めてとの事。光さんの屋敷に着いた時には、それはもう珍しいものを見る目をしていた。


「ここが光ちゃんの家……私のより大きい」


「俺も最初見た時はビックリしたよ。時代劇かよって」


「あっ、でもお爺様の屋敷と同じくらいかも。ここだけの話なんだけど、お爺様の趣味で屋敷に大量のカラクリがあるんだよ」


「まさかのニンジャ……」


 それに金をかけているとなると、やはり祖父も富豪の可能性が高い。

 俺には富豪の考え全部を読み取ることが出来なさそうだ。


 そんな話は置いといて、舞さんがインターホンを鳴らしたら『来た来た。どうぞ入ってぇ』と光さんの声が聞こえてくる。

 門を通過して玄関に入れば、光さんがそこに立っていた。


「やっと来てくれた! 嬉しいな~♡」


「お邪魔します。勇美さんはもういるんだ?」


「いるいる! さぁさぁ、中に入った入った!」


 上機嫌な光さんの後を追う俺達。


 見慣れた彼女の部屋に入ってみれば、勇美さんとフェーミナが拳2つ作りながら向かい合っていた。


「やっと来たか。フェーミナさんと『いっせーのせ』やってたんだけど、この人なかなか強いんだよな」


「指の事前反応からある程度分かりますからね。これは簡単すぎます」


「うお、一枚上手だったのですか……勝てる気がしない」


 どうやらそういう秘密だったというのを今聞かされたようだ。

 敗北感を醸し出す勇美さんを「まぁまぁ」となだめた後、リモコンを手にする光さん。


「皆集まったところでアルティシリーズ見る? フェーミナに変身してから動画配信で見るようになってさ、これがまた面白くて」


「うん見る! それと光ちゃん、私これ持ってきたんだけど見ていいかな? 怪獣皇帝モンスター・オブ・カイザーって言うんだけど」


 舞さんが見せたのは人気怪獣映画『怪獣皇帝モンスター・オブ・カイザー』。その平成シリーズのブルーレイだ。

 かいつまんで説明すれば、主役怪獣『カイザー』とそれを取り巻く人間キャラと敵怪獣の物語……要は怪獣王と同じようなものだ。


「カイザーって、確か数年前にやったシン・カイザーの?」


「そうそう。……いや、別に強制はしないというか、一応持ってきただけで……」


「とんでもない! 実はカイザーの方も興味があったんだよね、そっち先に見ようか!」


 意外だ。俺としては「そっちはいいや」と言うと思っていた。

 それは勇美さんも同じだったのか眉をひそめる。


「光、確か怪獣は好きじゃないって言ってなかったっけ?」


「確かに好きじゃなかったんだけど、舞がこれほど愛しているならすごい面白いのかなって。だからカイザーを見てどういうものか確かめたい」


「光ちゃん……」


 舞さんが少し涙を浮かばせる。

 

 よかったな舞さん。同志が増えて俺も感激だ。


「じゃあ貸して、レコーダーにセットするから。……それとせっかくなんだし、舞がどうして怪獣好きになったのか聞かせてもらいたいなぁ」


「えっ?」


「あっ、それ俺も興味ある。舞さんがよければだけど」


 今まで彼女と一緒にいたが、何故怪獣オタクになったのか聞きそびれていた。

 俺がそう促すと、舞さんが考えるように目線を上げる。


「……あまり綺麗な話かというと微妙だけど」


「あっ……悪い、だったら……」


「いや、皆には話したいと思う。あまり溜め込むのも毒だしね」


 そう言って、舞さんが自分の過去を伝えてくれた。

 何で怪獣を好きになったのか、どういう日々を過ごしたのかを。

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