第8話 ソドムVSタラスク 2

「何だこれ!? 宝田さん、テレパシー使えたの!?」


『いやいや! そこまで万能じゃないよ!?』


 俺が突っ込みを入れたら、逆に宝田さんに突っ込み返された。

 その瞬間にタラスクの剛腕が振るわれたので、慌てながらも回避する。


「危なっ!! じゃあこれって……」


『怪獣を描いたタブレットだよ! ここから怪獣に声を送る事が出来るの!』


 なんて便利な機能なんだろうか。

 これなら宝田さんと離れていても会話が出来る。


『それよりも聞いて。ソドムは人間形態の変化だけじゃなく熱線が使えるの。≪サルファーブレス≫って言うけど』


「≪サルファーブレス≫? 超振動波じゃなくて?」


『ちょうしん……? とりあえずそれを出してみて!』


「そんな急に出せって言われても……ガア!!」


 タラスクの腕が俺の首をガッシリ掴んだ。そしてあろうことかギリギリと力を込めてくる。

 形は違えど、握られるという意味では自分の最期の再現だ。全身に悪寒が走ってしまう。


「や、やめ……」


『思いっきり息を吸い込んで吐いて! そうプロフィールに書いておいたから絶対に出るはず! 大丈夫、あなたなら出来る!』


「…………」


 さっきまで死の予感を感じた俺だが、その激励を受けて冷静になった。それに期待をかけてみた。

 言われた通り、大きく息を吸い込んで腹を膨らませる。すると胃の中から熱いのが伝わってきた。


 これがそうなのかもしれない。俺は躊躇いもなくそれを吐き出した。


 ――ゴオオオオオオオオオオ!!


 喉の奥から出てきたのは、一直線になった金色の熱線だ。

 まるでホースの先をつまんだ水のように勢いよく放たれ、タラスクの顔面に命中。タラスクは俺を離して後ろにのけぞった。


 ――グアアアアアアアアアアアアアア!!


 一旦熱線を止めると、タラスクの顔面が酷く焼け焦げているのが見える。

 顔面を押さえてもがき苦しんでいる様子から、相当ダメージが入ったはず。


「喰らえッ!!」


 しかし遠慮は無用。もう一度≪サルファーブレス≫を叩き付けた。

 顔面に当てるとタラスクが悲鳴を上げつつ、さらに後ろに下がる。


 その顔面が溶けるようにぜる。続けて身体に当てると熱を帯びるように赤くなっていき、景気よく爆発四散。

 身体を溶かしてしまったので、残ったのは立ち込める黒い煙だけだ。


「……ハッ、怪獣らしい最期だな」


 あまりにもテンプレさに俺は皮肉ってしまった。それに得られるものがあった。


 自分を殺した怪獣を倒せた達成感。


 俺は恐怖に打ち勝って、タラスクに仕返しする事が出来たのだ。

 嬉しさが込み上げてくる。と同時に疲れが出たのか、強制的に人間形態に戻ってしまう。


「ハァ……ハハ……ハハハ。何というか、怪獣になるのも悪くないな。というか熱線を吐く感じ、意外にサラサラとしてて出しやすかっ……」


「悠二君!」

 

 愉悦感に浸っていたところ、背後の瓦礫の山から宝田さんがやって来る。

 俺は疲れていたので、地面にへたり込んだままにした。


「何とかタラスクは倒した。宝田さんのおかげだよ」


「ううん、私のおかげじゃないよ。全部あなたの実力。それと……」


 宝田さんが俺に近付いて腰を下ろす。

 

 そうして両腕を首に回し、ギュッと抱き締めてきた。


「!!!? !?」


 美乳が顔に! いい香りが鼻に! 柔らかい肌が全身に!


 前世で味わった事すらない感触という怪獣が、俺に襲いかかっている!


「……た、宝田さん……?」


「本当に頑張ったね……。怪獣相手して怖かったのに、あそこまでやってくれて……」


「……お、俺は別に……自分がやらないといけないと思って……」


 俺はあの時、暴れているタラスクに対して衝動的に動いていた。そういう勇気があったのかと自分でも正直驚いている。

 そう思っていると、宝田さんがゆっくり首を振った。


「最初は私、悠二君に辛い事をさせてしまったのかなって罪悪感があったの。それに……隠していた事もあって」


「隠していた事?」


「うん、これはあなたにとって良い事ではないと思う。だから否定してもいいから」


 宝田さんが俺と向かい合った。その目に宿るだろう意志はどこか強く感じられる。

 俺にとって良い事ではないと聞かれ、少し身構えてしまうが、それでも彼女が告白してくれるというのだ。


 ならば最後まで耳を傾けるのが礼儀というもの。


「言って。ちゃんと聞くから」


「ありがとう。実はね、私……




 悠二君とタラスクの怪獣プロレスを見て脳汁が出そうになったの」


「…………………………はい?」


 フリーズ。

 恐らく今、俺はポカンと間抜け面になっているはずだ。


「何かね、怪獣同士が荒れ狂いながら戦う様が芸術って感じしたの! だからスマホで何度も撮影して、でもあとになって『これ、命かけて戦っている悠二君に失礼じゃない?』ってなって! 本当にごめんね! 私ハァハァしながらさっきの戦い見てたの! これ最低だよね!?」


「……それが隠し事?」


「う、うん。いや、私も自分がやらないと被害出ると思っているよ!? そこまで冷血じゃない! でもやっぱり悠二君カッコよかったよ! 咆哮を出しながら暴れ狂い、そして熱線でトドメ!! まさに怪獣!! うんやばい、尊い!!」


「…………ああ、そう……喜んでもらって何よりです……」


 これで宝田さんの事が1つ分かった。

 彼女はかなりの『怪獣推し』であるという事を。


「……ところで宝田さん気になったんだけど、サルファーって何?」


「ああ、ソドムとゴモラを滅ぼした『硫黄』だよ。街を滅ぼした硫黄の炎ってのが怪獣の熱線っぽいからさ」


「へぇ、そうなの」


 硫黄云々は知っていたが、その硫黄の外国語読みは初耳だった。

 そしてそのネーミングセンスに、ますます怪獣推しというかオタクっぽさが増したと感じる俺だった。

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