34.冒険者のランク分けはお約束です

 改めて言うまでもなく、この世界は魔物がそこら中に蔓延っている危険な世界だ。

 そのため、国家行政は国民を魔物から守るために多くの制約を課している。街村以外での住居建設、つまり野中の一軒家の禁止だったり、魔物管理地への侵入にはライセンスの携帯を義務化していたり。

 その制約の中に、未成年者の国境を越える移動の制約というのがある。18歳が成人年齢なのだが、それ未満の未成年者は、冒険者発行のC級以上のライセンスを所持していること、もしくはB級以上のライセンス所持者の護衛を伴うこと、というものだ。表向きも実情も、未来を担う若者を魔物に殺されないように守るための制約である。

 街や村という生活集団を作って人間の生活域を大きく確保する都合上、街村から離れた国境付近は相対的に間引きされずに強い魔物が集まっていく傾向にある。その危険な国境を越えようというのだから、最低限の身を守るすべを持つ事を義務化するのは、何らおかしなことではない。


 翻って俺の都合はというと、学生の身分で学院に養われている立場上、余計な出費には相応の理由説明が必要になって、正直面倒くさい。そのため、護衛費用を捻出する面倒くささと天秤にかければ、自分がレベルを上げれば良いという結論は当然の帰結だ。

 ひとり除いてみんな平民な仲間たちの金銭感覚も似たようなもので、そのため護衛の検討すらされず、俺にライセンスを取れという指示が出たわけだ。

 なお、学生が本職な彼らは全員C級ライセンスを持っている。実力だけで見ればB級でも良いとギルドからのお墨付きはあるそうだ。ただ、冒険者仕事に専念できない分評価が差し引かれているらしい。


 この世界の冒険者ギルドにも、ランク分けという考え方はある。登録したてのEランクからはじまって、D、Cと上がっていき、最終的にはAランクを目指す。Sランクも区分けとしてはあるものの、余程の特筆するべき実力を伴わなければ認められず、ほぼ幻のランクだ。

 ライセンスというのは見習いを卒業したD級から発行される公的な身分証のことを指す。ランクと同等の評価なので、CランクならC級ライセンスが発行されるわけだ。このライセンスには、S級という区分がない。Sランクというのはギルド内だけに通用する名誉ランクといえる。


 で、取得指示されたC級ライセンスだが。

 Cランク指定されたギルド斡旋依頼を指定回数こなすことで認められる。Dランクで初心者、Cランクで一般、Bランクで上級者、Aランクだと特級者、Sランクは人外と言いかえられるそうだ。つまり、Cランクは冒険者ギルド員のボリューム層だ。従って、Cランクに上がること自体はさして難しくない。ただ、時間がかかるだけだ。

 そのかかる時間が問題なんだけどな。


「せっかくそこに管理森林があるんだし、平日の放課後とかに片手間で片付けたら良いさ。携帯持ってるなら楽勝楽勝」


 簡単に言ってくれるものだ。未だに魔物なんて実物を見たこともないんだけど。


「本当にさ、何を根拠にその過大評価出てくるの」


「先週の戦闘訓練の成果だけど?」


「長年訓練を受けてる学生を相手に剣1本で4人抑えてくれるとか、評価しないわけないだろ」


「いや、防御力低めの後衛に物理攻撃かけたら有利に決まってるし」


「最初にはっ倒していったの、向こうのアタッカーな」


 あれ。そうだっけ。


「最下位クラスの所属とはいえ、世間から見たらエリート学院の中での最下位であって、十分に上位なんだよ。学院生全員が士官候補生だ」


「それをあれだけあっさりいなすんだから、実力は十分だよねぇ」


「リツに実戦経験がないとか、嘘だろって思うぜ」


 そんなものかねぇ。俺にはよくわかりません。

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