33.持つべきものは心強い仲間です

 この世界にやってきたその時から俺の身近にずっとある「超古代文明」というのは、正しく歴史を紐解けば、異大陸からの入植者によって焼き討ちに遭い滅ぼされた文明だ。

 現在この大陸に住むのは、その時から順次入植してきた異大陸人と現地人との混血で、現地人の純血者はもういないそうだ。


 異大陸からやってきた入植者たちは、発見した新大陸に発達した魔法文明が築かれていて、自らのものよりも高度な文明であることに納得できず、感情に任せて力任せに文明を滅ぼした。支配者層は虐殺され、書物は焼き捨てられ、学者は監禁され、便利な道具は片っ端から接収され。

 残されたのは地位のない一般市民、それも農民や下町の庶民たちだった。彼らも簡単な魔術なら使えたのだが、教育者も虐殺もしくは監禁対象になったため、魔法技術は子どもたちに伝えられることもなく、代を重ねて廃れてしまった。便利な道具類も、形あるものはいずれ壊れるもので、修理できる人材を滅ぼされてしまったために直されることもなく次々に失われていった。

 そうして取り返しがつかなくなった頃に、ようやく入植者たちもその文明が持っていた技術力の高さが如何に有用だったかに気づいたが、時は既に遅く。

 個人の研究所や趣味人の個人宅に辛うじて隠されていた古い学術書は、教育を受けられなくなって文盲が増えてしまった現地人子孫たちには読めなくなってしまったわけだ。

 こうして、未だに細々と研究され続けている「超古代文明」が出来上がった。


「つまり文明破壊って、何かの大規模自然災害とかのせいじゃなくて、人災なんだ?」


「そう。現代人が過去の先祖を指して野蛮人と罵る所以だね」


 その文明破壊の過程で、文字数が多すぎて難しかった表意文字が捨てられて、表音文字もさらに簡略化され、古代語とは似ても似つかない現代語が生み出されたのだろう。

 日本だって文明開化の際に日本語が言語学として整理されてずいぶんと平仮名がなくなったからな、仕組みは理解できる。

 なお、現在その入植者たちの本国にも魔法陣を利用されている魔道具や魔術師が進出していて、それらの技術研究によってこの大陸の現代語は向こうの第二言語になっているそうだ。

 廃れてもまだ先をいくこちらの大陸の魔法技術の凄まじさよ。というか、その便利に使われている魔道具の大元は日本から便利技術を丸っと輸入したリョー兄ちゃんなわけですが。


 そんな超古代文明時代に使われていた複雑すぎて難しい古代語を、異世界からやってきた俺がすらすら読めてしまう絡繰りを、俺の方からも提供する。

 特にリョー兄ちゃんとの思い出話と、先日知ったガレ氏の俺関係の功績、つまり召喚魔法陣のコピーとリョー兄ちゃんの研究所の住所について。


「ガレ氏って?」


「魔法陣魔法中興の祖、ガレリアンデルシク氏。名前長くって、勝手に略してみた」


 勝手にって、と突っ込まれて笑われたが、いやだって、こっちの人たちの名前、長すぎでしょ。現代人たちだって略名で名乗ってるくらいだし、略して良いのかと。


「それでその残されていた住所の場所に行きたいのか?」


「うん。元々そこに行く予定だったんだし、一度は行ってみたいって思うよ」


 可愛い弟、と書き残してくれたお兄ちゃんが死ぬまで過ごした研究所だ。俺へのメッセージとか残っているかもしれない、と期待してしまうのはどうしようもない感情だと思う。何しろ、俺にとっては唯一の元の世界との接点だしな。


「その住所って?」


「古代文明の住所だから、今同じ住所があるかどうか。ライナレーデリエンデンテ辺境自治区ハールモンデセテ荘サントラ村番外地、らしい」


「……どこ?」


 ですよね。

 文明潰されて国家組織も一度崩壊しているだろうし、近所まで行けば地名に名残があるかもしれないが、世界地図では大まかすぎて分からないというものだ。

 ただ、歴史の観点から見て、この大陸のどこかであることは間違いない。何しろガレ氏は当時の魔法技術最先端なのだから。


「そこまで住所がわかってるなら、手分けして探したら良いだろ」


「ここまで首突っ込んだら、一緒に行きたいよな!」


「超古代文明時代の研究所か。楽しみだな」


「今度の長期休暇あたりで行けたら良いね」


 もうすっかり一緒に行く気で盛り上がっている仲間たちに、改めて意思確認なんて野暮すぎて口にできず、俺ができたのは嬉しさに弛む口許を覆って隠す程度だ。


「ありがとうな」


「なに、ちょうど良い目標ができただけのことだ」


「漫然と魔物狩ってるのもなぁって思ってたんだ」


「そうと決まれば、リツにはまずC級ライセンス取ってもらわないとな」


「そうだそうだ。それ無いと国外に出るのに余計な金がかかるんだ」


「リツなら簡単だから。頑張って!」


 何やら予定していなかった条件がぽっと増えたんだが。

 C級ライセンス?

 何ぞそれ?

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