31.魔石はお手頃価格です
図書館で不安材料を追加された俺は、その足でショッピングモールへ移動した。
とりあえず、思った通りに作ってみよう。というわけだ。
なにしろ魔道具なんて作り方すら分からない未知の物だ。ただ、出来上がりを見て、これなら作れそう、と思えたサンプルは手元にある。ひとまず材料と工具を揃えて作成を始めてみよう。
やってきたのはホームセンターっぽい店だ。日本のホームセンターほどDIY用品が揃っているわけでもなく、それでも手芸屋よりは日曜大工向きな工具類を扱っている、そういう俺から見れば中途半端な店舗なのだが。まぁ、趣味レベルの彫刻工具は揃っているようなので文句もない。
必要なのは鑿と金鎚。鑿は大中小3種類揃えてみた。
次に向かうのは、魔石屋だ。
魔道具の動力源になるだけあって、魔石の扱いだけで1店舗経営が成り立つほどに需要があるようだ。
事前に学んでおいた常識レベルの知識によると、魔石というのは宝石と同じように鉱山を掘って得られる物であるらしい。石材の採石場のようにドーンと大きく切り分けて運び出し、発注に合わせて切り分けていくスタイルで、小型店舗で売られているのは切り分けの際に砕けて落ちた欠片なのだそうだ。魔石は砂状になっても機能は失われないものだから、どんな形でも需要はあるという。
魔石の値段は、生活必需品であることと屑石であることから、とてもお手頃な価格だった。充電乾電池とさして変わらないくらい。
今回の俺の用途からすると、親指の先ほどのサイズが欲しいのだが、店売りサイズとしてはボリューム層のようで、たくさんある石の山から形の良いところを選んで買うことができた。
店内には魔素充填機や中古買取窓口、削ってできた砂状の魔石を集めて使う用の箱なども売っていて、円柱形の箱も買うことにする。
さて、準備はできた。部屋に戻ろう。
「おや、リツくん」
声をかけられて振り返ったら、子連れのお父さんがそこにいた。もうほぼ大人な容姿のお兄さんが幼い妹の手を引いていて、そのふたりを従えているのが、お父さんなロベルトさんだ。ずいぶん年の差兄妹だな。
「ロベルトさん。こんにちは」
挨拶を返すと、連れのお子さんたちを紹介してくれた。うちの可愛い子どもたちです、だそうだけど、そこは見ればわかります。お兄さんは俺のひとつ下で、中学院の1年生だそうだ。人見知り盛りな妹はお兄さんの影に隠れたまま顔を見せてくれない。黒髪黒目の小さいお兄さんがそんなに怖いか。
俺の顔を見て思い出したのか、ロベルトさんはポンと手を叩いた。
「そうそう、思い出しました。リツくんが地球から持ってきていた乗り物、ジテンシャといいましたか、あれに興味を持った教授がおりましてね。是非借りて研究したいと。貸していただいていいでしょうか?」
そういえば預けっぱなしの自転車は、俺の意識から消えていたので、言われて存在を思い出す。日々の生活にひとりで遠出する機会もないし、それは構わないんだが。
聞くところによると、この世界、魔道具を含めてもひとり乗りの手軽な乗り物が存在していないらしい。いや、スケボー的なものならあるが長距離移動には向かないので、その辺は除外として。
そのため、完成した形のママチャリの構造を是非研究して乗り物開発に役立てたいとのことだ。何も無かったところにワゴン車がいきなり登場した弊害なんだろうな、これも。
良いですよ、と頷けば、ロベルトさんも安心したようににっこり笑った。
「では週明けにでも借用書をお持ちしますね。教室に伺って大丈夫かな?」
「放課後にこちらから伺いますよ。ロベルトさん有名人だから、教室に来られると大騒ぎになりそう」
そうですか、と怪訝そうなロベルトさんの隣で、息子さんが俺の方に同意してうんうん頷いていた。さすが、現役学院生。当事者よりわかってらっしゃる。
後ほどご連絡します、と言われて別れたところで、お兄さんに手を引かれて家族についていった妹さんがこちらを振り返って、小さく手を振ってくれた。手を振り返してあげると、恥ずかしそうにモジモジしてからパタパタと駆けていってしまった。
うーん。意外に、モテてたのかな、これ。女の子はよくわからん。
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