第33話 おじさん、ファンに出会う
しかし廊下を曲がって階段に出た瞬間、二十人くらいか。
中等部らしき先輩方が階段下で待ち構えていた。
「「「私たちが間違っていました!」」」
「ひぇ」
いきなりなんなのだろう。
「だ、な、誰ですか」
「名もなきファンです! 赤城先輩との関係性に萌えました!」
「は、はぁ」
「仲間に……いえ、ファンクラブ会員に加えてください!」
「……ダントさん。これはどういうことなんですか?」
「わ、分かったら苦労しないモルよ」
「説明が必要ですか!?」
「は、はい」
「では説明します!」
先輩方はこう語った。
彼女たちは、昨日からずっと私を監視していた紺・緑・赤それぞれの追跡チーム。
ただ、トップからの指示で私と赤城先輩の会話を盗み聞きしたところ、その関係性に萌えて、論理ではなく感情で動くと決めたようだ。
「でも、信頼出来る要素が――」
「なのでファンクラブを作って下さい! お願いします!」
「えええ!? ど、どうしましょうダントさん」
「僕に聞かれても……赤城先輩に聞きに行くモル?」
「むぅ、他に方法はないかぁ」
私は一度、赤城先輩のところに戻った。
「へぇ、ファンが出来たんだ。良かったじゃん」
「良くないですよぉ」
「まぁまぁ。ファンクラブ、作ってあげたら? 応援してくれる人が増えるのは良いことだし」
「でも味方かどうか分からないのに」
「それを確かめるためのファンクラブだよ。魔法少女ランキングで設立できるから作ってみなって」
「うう、はい」
言われたとおりにマジタブを起動し、ランキングを開き、ファンクラブ設立を行った。
『このファンクラブ機能は、魔法少女に耳寄りな情報を教えるための会員制チャットルームです。ここで悪口を言ったり、他人を騙したりする悪い人は『成敗』されちゃうぞ♪』
「成敗って言葉だけがやけに低い声」
「誹謗中傷したら永久BANするぞって意味だからね。この世から」
「殺伐としすぎる……作成、と。うわ」
するとあっという間に百人ほどのファンが参加する。
いくつかのコメントもついた。
『安心した』
『やっと正義の味方になれる』
「おー、大人気じゃん」
「そうなんですか?」
「あ、ルームへのコメントは控えてね。お祭りになるから」
「はい。で、どうすれば」
「私の魔法少女の心得でも聞く?」
「お願いします」
赤城先輩は軽く咳をしてから話してくれた。
「魔法少女の心得三カ条。一、何があってもファンを信じること。二、悪を許さないこと。三、敵にも慈悲を与えること。以上です」
「つまり、無条件で信じろということですか?」
「そうです。他人を信用するならまず自分が相手を許すことから始めましょう」
「どうし――」
「どうして? それは他人を疑っていたらきりが無いから。嘘を嘘と見抜けるようになるには、それだけ沢山騙されないとダメなのです」
「……なる、ほど」
「なので夜見ちゃん、二つ目の課題。もっと軽率に人を信じて、騙されてきなさい。その上で、正解を見つけなさい。君は自分が思ってるよりもずっと強くて賢いから、小細工なんかには負けないよ」
「や、やってみます」
「よろしい。では、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
再び赤城先輩に頭を下げて、階段前まで戻る。
「……戻りました」
「ファンクラブ設立、ありがとうございます。陰ながらサポートさせていただきます。……あの、その、できたら――」
「バカ。そういうのはファン感謝祭でだけだ」
「くっ、欲が出た……失礼。それでは!」
先輩方は朗らかに去っていった。
「これで良かったのかな?」
「ふむむ、でも、これで情報が集まりやすくなったと思うモル。僕にマジタブを預けておいて欲しいモル」
「どうぞ」
「ありがとモル。これでちゃんとサポート出来るかも、モル」
「ホントですか?」
「ホントだモル。ほら、これからチャイムが鳴るモル」
キーンコーン――
「ホントだ。でもこれくらいは私でも」
「じゃあこれが二限目開始のチャイムだとは?」
「知ってますよ」
「ふふ、早速ファンからの情報だモル。管制室は昨日付けで管轄が紺陣営に移っているため、チャイムの操作も可能。信じてはならない、モル」
「えええー……まだ休み時間なんですか? 長くないですか?」
「いや、僕が思うに普通に授業の開始を知らせるチャイムモル」
「嘘はやめてくださいよー」
「僕はファンから提供された情報を言っただけモル。夜見さん。いちいち疑問に思ってたら何も信じられないモルよ。赤城先輩の課題と、魔法少女三カ条を忘れずに、モル」
「それは、うん、そうですね……」
「続いての情報モル。監視員が第一校庭に集まるので、今のうちに急いで合流ポイントに向かうモル」
「わ、分かりました。とにかく向かいます!」
よく分からないがチャンスらしい。
その言葉を無条件で信じた。
「ダントさん先導お願いします!」
「任せるモル!」
私たちは階段を降りて、高等部校舎の裏口に出る。
そこから正門に向かって進み、第三校庭の端にある建物に入り込んだ。
「ここですか?」
「そうモル。提供された情報によれば、ここはエモ力を利用したアイテムを作る研究棟。いわゆるエモ技研の要塞らしいモル」
「なるほど。後方支援が主な緑陣営らしい合流ポイントですね」
「目的地はここの三階モル」
「了解です」
私は試作品らしき謎の装置やダンボールが置かれた廊下を通り、階段を登っていく。暗く、陰湿な雰囲気だったが、ダント氏を信じているので怖くなかった。
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