第25話 おじさん、オーバーワークのため一時休息する

 保健室の先生曰く、敵に奪われたのは『ダミーマリオネット』という争奪戦用の操り人形らしい。

 無人兵器に転用出来ることから、テロリストが強奪しに来たのだろう、とのこと。


「だから他の先生はみんな無事よ。君はベッドで休んでなさい」

「はい先生」


 今の私は、体が回復するまで保健室のベッドで休むことになっている。

 その間あまりにも青メッシュ先輩が懐いてくるので、保健室の先生からは、もはや恋人と同義に見られていた。


「まるで引っ付き虫ですね先輩」

「吾輩、君と結婚したいのだ。君となら一生無双出来るのだ」

「もーワガママまで言っちゃって――」

「失礼します! ここに緑陣営のリーダーが居ると聞いて回収しに来ました!」

「げぇ! ヒスイくん!」


 保健室に入ってきたのは、入学式で見た緑髪の先輩だった。


「あ、どうも」

「後輩ちゃんごめんね、リーダーが迷惑かけちゃって。これから連れて帰るから」

「うわあああ嫌なのだあああああ――――」


 しかし青メッシュ先輩は抵抗虚しく、ヒスイという名の先輩に回収されていった。

 代わりに帰ってきたのがダント氏だった。


「夜見さんただいまモル! 成功したモル!」

「流石ですダントさん!」


 ハイタッチしたあと、お互いの事情を知る。


「一年生は一時的にシェルターに」

「そうモル。なんでも、アクアラインに繋がる閉鎖された道路付近だとか」

「安全なんですか? そこ」

「赤陣営のリーダーさんが言うには安全らしいモル。理由はそこに副会長と会長が居るからだって」

「安全なのかなぁ」


 生徒会の強さを詳しく知らない私には疑問だった。


「それで敵の状況とかは?」

「貴方が知る必要はありませんわ、夜見さん」


 会話に割り込んできたのは、赤腕章で赤髪、聖獣がゴールデンハムスターの先輩だった。後ろには魔法少女に変身した先輩方が続いている。


「あ、どうも先輩」

「いいえ、お礼を言うのはこちらですわ。貴方の活躍があったから、中等部生を全員シェルターに収容出来ましたの」

「いえいえ。それで知る必要はない、とは」


 赤髪の先輩はスッと青い鍵を差し出した。


「このままシェルターに向かいなさい英雄ちゃん。そこで皆を守りなさい」

「生徒会長と副会長がいるから大丈夫だと聞きましたが」

「いいから。これはゲームじゃありませんの。あとは私たちに任せなさい」

「んー……」


 私はあえてこう聞いた。


「聞きたいんですけど、絶対に勝てます?」

「当然よ」

「一人も残さずに倒せますか?」

「余裕よ」

「だったら任せますね、戦うのは」

「いい子……なんですって?」

「私はマジカルステッキを奪還しますので、先輩たちは正面から敵を叩いて下さい。それだけ強く言い切れるなら出来ると思います」

「なっ……ななっ」


 その発言に、ハムスター先輩は真っ赤になって怒った。


「遊びじゃないって言ってるでしょう!? 実戦経験もないのに! 変身も出来ないのに! 死にたいの!?」

「先輩、はっきり言います。実戦経験が無いからここで積むんですよ」

「相手は実銃で貴方は生身なのよ!?」

「だから何だって言うんですか? まだ役に立てるこの状況で、大人しく指を加えて、正義のヒーローが助けてくれるまでじっと待てって言いたいんですか? それだけが正しいことなんですか?」

「それは……」

「良いですか先輩。私だって魔法少女なんです。中等部だからって舐めないで下さい」

「ッ……」


 そうして論破しきると、相手は涙目になってしまった。


「そ、そんなに、強く言わなくても……ふぇぇ」

「あ、あれ……?」

可憐かれんちゃん、変わって」

「うん……」


 すると会話相手が別の先輩に切り替わった。


「ど、どういう事ですか?」

「あの子、びっくりするぐらい小心者なのよ。だから強い言葉を使いがちで、さっきのは意訳すると『戦い続きで疲れてるでしょ? 少しシェルターで休むと良いよ』っていう意味なの」

「意訳が優しすぎる」

「でも、その様子だとまだ大丈夫そうね。頑張って」

「は、はい! 頑張ります!」


 グッとガッツポーズすると、ぽんぽんと頭を撫でられる。


 ドクンッ、グラッ――

「あ、れ」

「でもごめんね。まだ寝てなさい――」


 その瞬間、私の意識はブラックアウトした。



「――はん、夜見はん!」

「ん……」


 目が覚めると、私は暗い場所にいた。

 周囲からは同年代らしき少女の声が聞こえる。


「ここは……ぐぅッ……!」


 体を起こそうとして、酷い頭痛に悩まされた。

 ずきんずきんと波打つような痛みから、片頭痛だと悟った。


「あかんて! まだゆっくりしとき!」

「うん」


 私は言われるがままに体を寝かせ、枕に頭を乗せた。

 ここはベッドの上で、腕には点滴の針が刺さっていた。

 スタンドには栄養剤がぶら下がっている。


「夜見さん、大丈夫モル……?」

「この声、ダントさんですか」

「はいモル。夜見さん。どうやらギフテッドアクセルの制限超過起動、いわゆるリミットブレイクで、脳に負荷が掛かっていたみたいモル」

「そうですか。ここはシェルターですか?」

「合ってるモル」

「では、今は学校が占拠されてからどれくらいですか?」

「かれこれ半日くらい経過したモル」

「何時間気を失ってました?」

「だいたい半日モル」

「過労かなぁ」


 諦めのため息をつく。

 しばらく動けないと知ったからだ。


「ダントさん、どこに?」

「ダントはんはそこに居るやろ?」


 指さされた方角を見ると、オレンジのモルモットが浮いていた。

 目が霞んでいて見えていなかっただけらしい。


「何か思いついたモル?」

「はは、いや、ついに敵と同じように見えなくなったのかと思って」

「よ、夜見さんはそんなことにはならないモル! 敵みたいに見たいものしか見ない人間じゃないモル!」

「見たいものしか見ない、か。はは、気をつけないといけませんね……」

「夜見はん?」

「すみません、疲れたので寝ます……」

「ゆっくり休みよし」


 私はどっと押し寄せてきた疲労感には勝てず、再び眠り込んでしまった。

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