第3話 前向きになります!
「召喚ってラノベのアレ?」
「アレです」
「日本に戻る方法は?」
「ありません!」
父さんと2人でアルバロを締め上げた。
料理人の父さんとパティシエールの私は力自慢だ。毎日何十キロもある粉や砂糖を扱うため自然と鍛えられた。
「苦しい…離して…」
「てめえ、勝手なことして許されると思うなよ」
「その代わりに出来ることはします…」
「本当に?」
「はいー」
「出来ることはなんでも?」
「はいー」
父さんと目を合わせた。
「願いの期限や制限は無しだろうな?」
「…出来ることなら」
「制限無しってことは願いの回数も無限ってことよね?」
「出来ることなら…」
「家ごと召喚だから家電製品も召喚されたようだな。これらは使えるんだろうな?」
「はいー、こちらに召喚された時点で自動的に魔道具となりましたが使用可能ですー」
「テレビも?」
「映りますー。インターネットも使えますがメールや電話は出来ませんー」
「電子書籍で新刊を購入したり、定額制の動画配信サービスも利用できる?」
「出来ますー」
「インターネット通販は?」
「使えますー」
「インターネット通販で買えないものはある?」
「モノによっては自動的に変換されます。車はこちらでは馬車になりますー」
── そういう文化レベルか。
「ガスや電気は使える?」
「ガスも電気も上下水道も水洗トイレもお風呂の自動お湯張りも床暖房もクーラーも全部使えるようにしますー」
── 必要な環境はおいおい整えていけばいいか。
「父さん、こうなったら腹をくくって生活していこう。知らない世界で再スタートするのは悪くないよ」
「カナ…」
父さんが勤務していたリゾートホテルのホテルマンと付き合っていたが、半年くらい前に宿泊した女子大生を彼が妊娠させたことが発覚して大騒ぎの末に別れたのは3ヶ月前。
妊娠したという女子大生がホテルに現れてフロントで大騒ぎしたため勤務中のあれこれが原因と全従業員が知ることとなり、田舎町なのですぐに噂が広がった。
リゾートホテルを解雇された彼は解雇の理由も理由だったので次の仕事も見つからずお腹の大きな女子大生を抱え、友人からも距離をおかれ、地元で辛い毎日を送っているようだが、私は私で腫れ物を触るように扱われることにうんざりしていた。
「戻れないのは確定のようだしね」
父さんがもう一度アルバロを締めあげた。
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