第16話久しぶりの
結城絵里子は、結婚したが名字は、そのままであった。久保真奈美は、夫の田村へ変わったが絵里子は、一人っ子なので夫に結城を名乗ってくれる人を選んだらしい。「本当に苗字を替えても良い人だから選んだんじゃないわよね?」「当たり前でしょう?勿論結婚を意識したときに私は、苗字を替えないけど良いですか?って聞いたわよ?後で揉めるのやだもの」「それでダメになること無かったの?」「別姓有りの考え方もあったわよ。でも夫は、自分は三男だし仕事上は、旧姓のままだし問題ないからって言ってくれたの」「良い人に出会えたのね?」「わからないわよ?文野みたいに急に離婚する事もあるから」「私の事は忘れて下さい。もう結婚しないから」「バカね逆よ。」「えっどこが?」「早く再婚して幸せになって欲しいのよ、私達は」「…。ありがとう。ごめんね」文野は大事な友人にただ謝るだけしか出来ない事が情けないと思った。「責めているんじゃないのよ?心配なだけ。私達は、結婚して幸せに過ごしているのに、文野が一人で居るのが心配なだけなの。」「別に結婚だけが幸せだと決まってる訳じゃないけれどずっと1人でいるの?文野ならその気になれば必ず見つかるよ?」絵里子と真奈美は、文野に再婚、恋愛を勧める「ありがとう。私も、ずっと独りでいる気はないのよ。でももう子供を産むのは無理かなぁと思うと相手に悪い気がするの。」文野の本心である「子供居なくても良いって人沢山いるわ。」絵里子は、しばらく子供を作らなかった。夫婦だけで暮らすのも良いと考えていたからだ。ある日、母親に言われた「それなら結城の名前に拘る必要あったの?あなたが結婚して先方の名前になったって困ることないじゃないの」「ただ結城の名前が好きなだけよ」「今時どっちなのったって良い時代なのだからね、折角結城になっても良いから絵里子と一緒に居たいって人が現れたのよ?子供を望まない訳じゃない。産むのは少しでも早いほうが体は楽よ」母親は、相手を信じる、いや、もっと自分を信じなさい。と言った。お互いに自分の選んだパートナーを信じる気持ちがないと夫婦は、家族になれないと…。「文野、子供欲しいのはあなたの方ね。だからそう言う子供要らない前提の人を好きになるわけがない」そう思ってる「…そうよ。自分勝手だとわかっているから気持ちが前向きにならないのね」「こりゃ負のサイクルだぁ…」「でも病院で診てもらったの?」真奈美は、心配そうに尋ねた「ううん、実は私、流産したの。」「流産って…。何時?」「昔。…」「あの頃?まさかそれで身を引いた?」「違う。流産したのは家を出てからしばらくしてから」「じゃあ高野さんの子供…。」「もう昔の事、気付いてなかった私が悪い」「遅れてると思わなかった?」「家を出たショックで不順になっていると思った。行き先の旅館で倒れてわかった。もうタブルパンチで暫く起き上がれなかった」「何で独りで行くかな?」「だって、どうしたら良いのか判らなかったのよ」「何のための親友?」真奈美は、怒っていた「咲子さんの事考えた?」絵里子が尋ねる「正直、突発的に高野の家を出たからあの時は、二人に連絡する事すら浮かばなかった。」「でも離婚届書いたんでしょう?冷静じゃないの?」「高野と縁を一切切る事ばかり考えてた。」「携帯電話も解約されてて驚いたわよ。事件に巻き込まれたんじゃないかって。」「本当にゴメンなさい」「責めてるんじゃないの。まぁでも友達って他人なんだと意識したわ」「返す言葉が見つからない。」シュンとする文野を見て絵里子と真奈美は苦笑をして「もう良いわ。これでお仕舞い」「絵里子、真奈美。許してくれる?」「最初から責める気はなかったのよ?でも何も聞かないのも変だし、ちょっとは、不満もぶつけとこうと二人で相談したの。親友としては」「ありがとう。」「そう言えば、咲子さんと話した?」絵里子が思い出した様に文野に尋ねる「いいえ、まさか。とんでもない」文野は両手を振って否定した「本当は、今日呼ぼうかと思ったのよ。咲子さんもかなりショック受けてたし、話したいことあるんじゃないかって」真奈美も頷く「でも離婚は二人の問題だし。咲子さんには文野が来ていること知らせてないわ」絵里子は、文野の手を握り安心させる「とても顔向け出来ないわ。」「文野が悪いとは思えないのよ?咲子さんもそう言ってた。息子に落ち度があったに違いないって」「もう良いのよ。私が子供だっただけなの。外の誰も悪くないわ」「いつか話せる日が来る?」「いいえ。誰にも聞かせる気はないわ」「文野は強いねぇ。学生時代からこれって決めたら絶対だった」「うんそうだった」頷く二人「酷い。まるで私が頑固者みたいじゃない?」抗議する文野に「頑固者だよ」二人は声を揃えて即答した。三人で顔を見合せて笑った。しばらく笑った後「せめて頑なだったとか…。」「頑なは、頑固と同じ漢字じゃないの?」「聞こえ方が柔らかいでしょう?」「同じだよ❗」またしても二人に即答される文野だった
美味しい食事を頂いて昔話に華を咲かせ三人の時間は過ぎた。」「今度は私達が文野を尋ねるわ。覚悟しておいて❗」「うちの敷地に道場があるの。その2階に宿泊できるの。みんなで来てね」「文野、剣道教えてるの?」「父が都合悪い時は、私も指導するわよ。一応師範代だし」「へぇ格好いい❗」「そんなんじゃないから」「昔から姿勢が良かったものねぇ」
楽しい再会が済んで再び横浜駅にたどり着いた文野は今朝寄ったカフェへ向かった散々昔話をしたせいかまたモカが飲みたくなった「今晩はまだ開いてますか?」ドアを開けるとコーヒ―豆の香がする「いらっしゃいませ」今朝の女性が出迎えてくれた「お客様。また来て頂いてありがとざいます。ご注文は?」「ごめんなさい、モカをお願いします」「ありがとうございます。」しばらくしてモカが届けられた「どうぞごゆっくりお楽しみ下さい」「ありがとう。」一口、飲んであれっ?さっきと違う。懐かしい味がするわ。そこへ「いらっしゃい。」ゆっくりと近づいてきた男性は「マスターお久し振りです。お元気でしたか」文野は思わず立ち上がって手を延ばす「おかげ様で元気ですよ。」文野の手を優しく握り返して「お客さんも久しいなぁ。長いこと見かけんから引っ越したのかと思ったよ。」と声を掛けてきた「ええ。なかなか伺えなくてスミマセン。」「なんのなんの。良く一緒に来てた人はどうしていなさる?」「あちらもお元気の様ですよ。」「?てっきり一緒になったと思っていたが」「ええ結婚してたんですけど残念ながらうまく行かなかったんです。」「悪いこと聞いてしまったな」「いいえ。もう昔の話ですわ。それよりは久しぶりに頂いたモカが美味しくて」「そうですか。ありがとうございます。久しぶりにお会いできて良かったですよ。」懐かしい人物にも会えて文野は楽しかった。
横浜駅西口からホテルへと歩きだした文野を呼び止める声がした「文野さん、待って。」私の事?でも振り返っては行けない気がした。何度も呼ぶ声についに振り返った先には咲子が立っていた。「咲子さん」今更逃げる訳にも行かない。立ち止まって待つことにした。やはり、彼女だったか…。黄色信号が、点滅してたのよね。何を話せば良いのかしら?短時間に考える「文野さんなのね。元気だった?」「はい。咲子さんもお元気でしたか?」「色々有ったからね、ショックも大きかったから落ち込みもしたけれど今は、元気にしているわ」「その節はご迷惑をおかけして申し訳無いとおもっています」「文野さんは、悪くないわ。愚息をあなたに薦めた私が悪いの。嫌な思いをさせてご免なさい。傷つけてしまって…」「あの、咲子さん。一体…。」「薄々気付いているの。でも考えたくなくて、信じたくなかったけれど。でもそうなんだろうと思っているわ。」「咲子さん。勘違いなのでは?」「文野さんは本当に優しい人ね。どうしてこんなことになったのかしら」「どこかお茶でも?」「私、車なの。駐車場に行きましょう」「わかりました。」文野は咲子の車に乗り込む。「どこか行きましょう。」「私、山下公園の近くに泊まっているのでその周辺へ。もし良かったらホテルに行きますか?」「そんな図々しいしいこと出来ないわせめて送らせて頂戴」ホテルの近くのファストフードで温かい飲み物を買ってホテルの近く止めてもらった「あの娘のせいでしょう?」「咲子さん、いきなり何ですか?」「わかっているの。文野さんにどう言ったかはわからないけれど文野さんが、家を出るように仕向けたんでしょう?」「咲子さん。あの、」「どうしてもわからなかったのよ。あなたから離婚届けと鍵が届いとき。何が起きたかわからなかった。でも誠は海外だし、主人は帰りがずっと遅いし、話したくてもあなたの携帯電話は、繋がらないし。」「…」「主人は会社の経営については一切話してくれなかったから経営が、危ない事も私は、全く知らなかった。お恥ずかしい話よね。文野さんが家を出て誠が帰ってきてから分かったの。誠はこの事は知らないわ。私も主人から聞かされたの。誠が出張へ出た頃、下請けが急に納期が遅れるとか納品が出来ないって言い出したの。それも三社よ。うちの主力だった下請けなのに。まぁ在庫が有るから直ぐに困ることは無いのだけど」「まぁ…。」「でもあなたが離婚届を置いて家を出た話があの家に聞こえてきた頃に援助を申し入れて来たの。誠は文野さんと離婚する事を承知した頃よ。突然、納期内に全て納品してきたの。三社とも」「…。」「そのうちの一社がね、主人に謝りながらどことは言えないけれど取引先の金融機関に圧力を掛けてたらしい。納品したくても出来なかったって…。」「何故そんなこと…。」「直接じゃなくても、間接的に影響を与えたかったんでしょう。そして困っているところにさりげなく現れて自分の価値をあげる」「でもね。文野さん、あの娘、紀久子さんは、知らないわ。親がしたこと。あの、両親は、以前から私は苦手なの。だから、誠と結婚なんて考えてもいなかった。誠にもその気がなかったしね」「でも勘違いなのでは?」「主人が、言ったの。文野さんを追い出す為に仕組まれたんだって。今もそう思っているわ」「そんな気持ちでは紀久子さんとの再婚は大変だったのでは?」「ええ。複雑だったわ。紀久子さんは、良いとしてもあの、両親と親戚になりたくないから。」「考えすぎです。そんなこと有りません」「文野さん。かばう必要は、無いのよ。人も分かっているわ」「でもお孫さんも生まれたし可愛くて可愛くてしょうがないでしょう?」「確かに孫は可愛いわ。無限にね。主人も猫可愛がりしてる」「そうしてください。」「文野さんは真実を話してくれないの?」「今更真実を聞いても波風が立つだけでしょう?折角誠さんが幸せならわざわざ荒らす必要は有りません。私のわがままだったんです。それだけです」「文野さん。あなた…」「もう終わった事です12年経っているんです。私も思い出すのは辛いです。どうか仲良く暮らして下さい」「文野さん。ご免なさいあなたの気持ちも考えないで私ったら。」「さぁお話はこれまでにしましょう」「連絡先教えてくれる?」「不味くないですか?」「?どうして、友達でしょう?」結局文野は咲子と連絡先を交換した。「前の番号と一緒なんですね?」「覚えていてくれたの?」「何となくですけど。でも名前は登録しない方が良いのでは?」「違う名前にするわ!」「お気に入りのお店とかが良いかも。」「文野さんの好き人は?」「いません」「いませんにしよう」「?何ですかぁ?」「お店にありそうな名前でしょう?」「おまかせします」「文野さんは、私を本名で登録するの?」「ええ。そのつもりです咲子さんで」「時々連絡しても良いかしら?」「その為に交換したんでしょう?」「嫌々じゃない?」「うーんノーコメントで」「文野さん。」「時間のある時は、返事します。返事がないからって余計なこと考えないで下さい。ではこれで。送っていただいてありがとうございます」文野は車を降りてホテルへと向かって歩きだした。「文野さん」咲子が車を降りて向かってくる「?咲子さんどうして」突然咲子が抱きついた「咲子さん?」「大事な友達だからバグしたの。」そう言って咲子は、車に乗り込み走り去った。
何も無かった様に文野はホテルへ戻った
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