第87話 秋深まる③
日南ちゃんは、ホクホクのサツマイモを、ふうふう言いながら口に入れる。両手で芋をつかむ姿は、リスのようにも見えなくはない。
「日南ちゃん、そんな恰好で食べてると、まるで……まるで……」
いっていいものかどうか悩んでいると、亜里沙ちゃんがズバリいった。
「わかった! リスみたいでしょう!」
「当たり! だって両手でつかんで食べてるし、前歯がそろってて、しぐさも、なんだかそっくり」
と突っ込む。
日南ちゃんは、目を白黒させて何のことかとぽかんとしている。自分が言われているのに、全く意識してない。
「そうかなあ……」
「いいんじゃない、かわいいから」
僕が可愛いといった瞬間、目が笑った。
「可愛い……の、私。ウフッ……」
またしても、面白い反応をして、頬が赤くなる。
「日南ちゃん嬉しそう」
亜里沙ちゃんにからかわれ、さらに顔が赤くなる。サツマイモを口いっぱいに突っ込み頬が含んでいるところまで、リスにそっくり。
「今頃リスは冬に備えて、どっさり木の実を食べてるんだろうね。寒い冬には食料が無くなってしまうから。せっせと取っては、地面に埋めて冬を待つ」
「うん……本当のリスは冬が来ると大変ね。リスじゃなくてよかった」
「へえ、日南ちゃんリスじゃなかったの? 冬に備えて、食料を部屋に蓄えていないんだ」
「な、何を言ってるの、夕希君ったら!」
「だって、スナック菓子をたくさん買って部屋へ持っていっただろ?」
「ああ~~、ばれてたんだ」
大きな袋を抱えてこそこそしているから、何を隠しているのかと、後ろから覗いていた。
亜里沙ちゃんがサツマイモの皮についた最後の一口を食べながら言った。
「秋の夜長に、部屋でスナック菓子を食べるのって最高よね~~、日南ちゃん。わかるわ~~~」
「えへへ……そうでしょ」
夜ごとスナック菓子をポリポリほおばる日南ちゃんの姿を想像するとおかしいが、笑ってばかりはいられない。
ここは、少し気を引き締めないと。
「日南ちゃん、せっかくマラソンで体を鍛えてスリムになったんだから、運動をやめて食べ過ぎると体型がもとに戻っちゃうぞ」
「あっ、そうだった」
マラソンが終わってからは、朝練はもうやめてしまっていた。
「寒くなってきたから朝練は大変だから、時々夕方走るのはどうかな」
「あっ、それがいいかも。また太ったら、彼らに馬鹿にされちゃうものね。それは、やだな……」
「それじゃ決まりだね。走り続けることっ!」
「わかった……ふう、美味しかったな、焼き芋。亜里沙ちゃん誘ってくれてありがとう」
「どういたしまして、気にしないで。おばあちゃんも友達が来てくれると喜ぶもん」
焼き芋パーティーは、無事にお開きになった。焼けた芋を持ってキッチンへ行き、テーブルの真ん中にメモをつけて置いた。よかったら食べてください、と亜里沙ちゃんの筆跡だ。
「さて、部屋へ戻るね」
僕は日南ちゃんと一緒に階段を昇りながらいった。すると日南ちゃんは、もじもじして僕のシャツを引っ張る。
「なにかな?」
「ちょっと、こっちへ来て」
「どこ?」
自分の部屋の前でまで来たところで、ドアを指す。僕の部屋は同じ並びの突き当りだから、すぐ手前の部屋だ。何をしようとしているのだろうか。以前一度部屋へ呼ばれてゲームをしたことがあったな。
日南ちゃんは黙ってドアを開けて中へ入る。僕はそのあとを黙ってついていく。
それから、自分の机のそばまで行き、大きな袋の中に手を突っ込んだ。そして取り出した袋を机の上に並べる。
「ああ、まだ入ってこないで。見ないでっ! 入り口で目をつぶっていて」
僕は言われた通り目をつむる。すると彼女は僕の両手を取り引っ張っていく。
これから何が始まるんだ!
まさか、日南ちゃんぼくに愛の告白?
そうなのかっ! 日南ちゃん。
早まるなっ!
「さあ、目を開けていいよ」
目を開けてみると、机の上にはチョコレート、クッキー、キャンディなど様々なスナック菓子が並んでいた。
「さっきばれちゃった……部屋にお菓子を隠していること。一つ好きなのを選んで」
「ああ……これがいいな」
僕は小さな袋に入ったせんべいを選んだ。
「じゃ、プレゼント。マラソンのお礼。何もお返しができなかったから。ちょうどよかった」
「そっか、そういうことか」
僕はその袋を持ってウィンクした。日南ちゃんは、目的を達成した喜びで満面笑みを浮かべた。
「もう一つ」
「なにかな?」
今度は僕の手をぎゅっとつかんだ。えっ、やっぱり付き合ってください、とかいうのかな、日南ちゃんも。
「ありがとう」
「おお、どういたしまして」
ぺこりと頭を下げている。
それだけ?
日南ちゃんは、もう一度満面の笑みを浮かべ手を握り握手した。僕もぎゅっと強く握り返した。
「これからもよろしく」
「よ~し、わかった!」
もう一回握手。まったく、握手ばかりしてっ! 最後に、じゃあね、っといい部屋へ戻った。
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