第120話 決戦へ1
数日は魔物の根城へ行ってはそれらを倒し、魔法陣を壊すという事を繰り返していた。
初日以来、出発前の打ち合わせ時点で隊を移りたいと言う者はいなくなった。はじめに異動を申し出た騎士はあれ以来見ていない。
ライアンの隊の方が生存率は高いようだった。モーガンは勿論、全力で戦っているがライアンは勇者に準ずる者だ。そこは仕方がないだろう。
何度か根城へ向かい戦っていると段々とライアンとの連携もスムーズになって来ていた。
「今回も油断するな。」
最近ちょっと余裕が出て来て調子に乗りそうな所を指摘され気持ちを引き締めた。
朝から打ち合わせをし、いつものように魔法陣へ乗ると転送された。
今回は沼地か、沼には嫌な思い出しかないなぁ。
木々の間から見えた沼地にヒュドラ討伐の事を思い出しなんだか顔が引きつる。
沼の淵まで来るとすぐに戦闘開始となり向かって来るオークを数体メイスで倒し、振り返ると見慣れない魔物が次々と現れた。
「リザードマンだ気をつけろ!」
誰かが叫ぶとリザードマンが一気に攻め込んできた。
爬虫類を思わせる見た目に沼の中を自在に動き回る奴らは、集団で囲うように私達の周りに散開すると計算された動きで連携をとり攻撃してきた。
「こいつら、作戦とか立てられるの!?」
私の驚きを無視するかのようにリザードマンは手にした槍のようなもので突いてくる。
それをメイスでかわし一歩下がると投げナイフを放った。上手く腹に命中し爆発、そいつはバッタリ倒れた。
それを見たせいか他のリザードマンが私を警戒し攻撃が集中してきた。
「わ、待って。集中とか酷い!」
奴らの急な攻撃に驚いていると隣のライアンが次々と私に襲いかかるリザードマンを斬り倒していった。
「相変わらずいいオトリだな。」
「オトリじゃないし!」
腹が立ちながらも投げナイフでライアンのすきを突こうとするリザードマンを攻撃した。
「やるな。」
彼はニヤリとし、またリザードマンを斬り倒した。
やはりここでも次々と魔物の追加が現れ切りがない。魔術師たちが探ってくれているはずだが、敵も見つかりにくい場所を選んでいるようでなかなか見つからない。沼の付近である事は間違いないようだが…
「ねぇ、沼の中じゃない?」
リザードマンが次々と沼から出てくる様子を見て言った。
「どうやって沼の底に魔法陣を書くんだよ。」
「書かなくても良いんだよ。書いた物を沈めればいい。」
それを聞いたライアンが皆を下がらせた。
「行くぞ!巻き込まれるなよ!」
雷鳴が轟き鼓膜が破れそうなほどの轟音をたて沼に向かって剣を振り切った。
ヒュドラの時のように一瞬沼の水が斬り裂かれて割れ、水底が見えると魔法陣が現れたが沼の水と共にパックリと破壊された。
「良し!皆、後はこの場の奴らを片付けるだけだ!」
魔法陣を破壊した事によってこれ以上魔物は増えない。騎士たちもあとひと踏ん張りだと気合を入れたようだ。
「ユキの発想のおかげで今回もなんとか片付いたな。」
ブレイクが側に来るとちょっと褒めてくれた。
「たまたまですよ。でも良かった、被害も少なく済んだようで。」
騎士達は回を追うごとに連携がより上手くできるようになり、最近では死者もかなり少ない。
「ユキもどんどん強くなっている気がするな。」
「そうですか?」
実は自覚はあった。きっとスキルのレベルがまた上がったのだろう。今度、鑑定し直してみようかな。
「引き上げるぞ。」
残党の確認をし、怪我人も治療して本陣へ順次帰って行った。
今日もこれで無事に終了だ。
ライアンと魔法陣で転送され、騎士団長のテントの前まで来た。迷子になって以来そこからブレイクに私のテントまで送ってもらう事になっている。
「流石にもうひとりで帰れるよ。何度目だと思ってるの?」
同じ道を五回も通れば、いくら方向音痴の私でも覚える。
「いいから、一緒に帰れ。」
面倒くさそうにライアンが話したその時、テントの中から騎士が出て来た。
「今日はユキも来い。」
私とライアンは顔を見合わせた。
「何かしたっけ?」
「今頃エストート国に行った事を知られたか?」
確かにそれは叱られる可能性が高い。
テント内に入ると騎士団長セオドアが先に帰っていた騎士から今日の報告のあらましを聞いていたようだ。
黙ってそれが済むのを待っていた。
「詳しくはここに。」
騎士は書類を置いてテントから出て行った。
「本日も活躍したようだな。」
セオドアは少し笑みを浮かべながらライアンを見た。
「皆が協力して、無事に討伐出来ました。」
「其方の指揮のおかげだろう。大分、板について来たようだな。そう報告が上がっている。」
「いえ。」
俯き加減のライアンは親子の会話とは思えない厳しい表情だ。私はチラチラと二人の様子を伺いながら、なぜここに呼ばれたのか不思議に思っていた。
「ユキ、其方の活躍も聞いておる。今日も機転をきかせ皆の手助けになったようだな。」
作った笑顔でセオドアは私を見た。
「いえ、大した事ではありません。」
急に呼ばれた事にどんな意図があるのかわからないが、ここでは大人しくしておいたほうが良いだろう。
「ライアンが貴族になった暁にもよく仕えてやるように、頼むぞ。」
それを聞いてライアンが顔を上げセオドアを見た。
あぁ、なるほど。ライアンが私のテントに来ている事を耳にしたんだろう。
「勿論です。魔王戦も、彼が貴族になり勇者になっても一緒に戦う事を決めておりますから。」
あくまでもパーティとして、魔物を倒す時のパートナーとして側にいるのだと強調して答えた。
あれから数日、エストート国側でも順調に散らばっている魔物の根城を撃破しているようで、予定通りだともうすぐ決戦となるはずだ。
陣営は少しずつ魔王へと近づき、ある日遠くにどんよりとした何とも言えない雰囲気の岩山が見えてきた。
どこがどう違うのかわからないがとにかく見ていて寒気がする。それは周りの騎士たちも同じなのか、皆、出来るだけそちらの方角を見ないようにしているようだった。
「あそこにいるんだね。」
私は寒気がするのを堪えながら岩山を見ていた。
気温は下がり風も冷たく、時折激しく吹き付ける。
「どうしてこんな所に巣をつくるんだ。」
ライアンが隣に立ち、まるで何でもない山を見るように言った。
「行くぞ、会議だ。」
「私はまた入れないんじゃない?」
この前一度、私に釘を刺すために呼ばれて以来また騎士団長のテントには入れていない。
「今日はカトリーヌがいる。」
なるほど、それなら入れるか。
ライアンの後についていき、騎士団長のテントに入って行った。
会議にはカトリーヌ、モーガン、イーサンもいた。その他にも数人の騎士やあらゆる部門の責任者が集まりこの会議がいよいよ決戦へ向けてのものだと知らされる。
セオドアはいつもより厳しい顔で話し始めた。
「カトリーヌの結界は設置された。後は魔王討伐へ向かうばかりだ。よってこの場で今回、決戦の場に行く者を選抜する。呼ばれた者たちは直ちに出立に向けて準備しろ。」
この場に呼ばれた騎士達はピリッとして顔に緊張が走った。
隊の中でもエリート達は決戦へと行く為にここまでやって来たのだ。魔王と対峙出来ればもしかしたら勇者に準ずる者になれるかも。それとも一気に勇者になるかもと意気込んでいるのだろう。
私はカトリーヌの後ろに立ち発表を待っていた。隣にはレブがいてなんだか変な顔して私をチラッと見た。
当然ライアンは行くだろうし、私もついて行く。モーガンはどうだろ?イーサンは無理かな。
そんな事を思いながら皆の顔を見ていた。
騎士団長が口を開く。
「決戦に向かう者は勇者に準ずる者ライアン、モーガン、それから…」
次々と名前が呼ばれ、その者たちは口を引き結ぶと決心を固めていった。
「…以上だ。呼ばれた者は準備にかかれ!」
『はっ!!』
その場の騎士達がバタバタと慌ただしくテントを後にした。
…え…私は?
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