第114話 混戦5
ふらつきながらゆっくり戻ると隣のライアンのテントの前に数人の騎士がいて彼を探しているようだった。
私に気づくと彼の居場所を尋ねられたが首を横にふる。何か言いたげだったが血まみれの服と、多分悪いであろう顔色を見た為かそれ以上は何も言われなかった。
静かにテントに入るとまだライアンは気持ちよさそうに寝息を立てていた。
寝てるからいいか。
私は着替えをそっとベットに置いて、汚れた服とビスチェを脱ぎ水筒の水でタオルを少し濡らすとベットに背を向け顔と体を拭き始めた。
ホントならシャワーを浴びたい所だけど無理だよね。
上半身だけでもキレイなってちょっとホッとする。ビスチェは替えがないから拭き取るだけにするしかないか。
洗濯出来ない事に苛立っているとテントの外で誰かが騒ぐ声がした。
「ライアンはいないのか。ここは誰のテントだ?ユキのか!」
ヤバい!レジナルドが入って来る。
「ユキ、入るぞ。」
「待って!」
慌てて叫びながら振り返りベットに置いた着替えを取ろうとしてライアンと目があった。
「お、起きてた…の…」
彼はベットから飛び起きるとテントに入ろうとしていたレジナルドを押し返し出て行った。
って言うかいつから起きてたんだよ!
恥ずかしさで叫びだしそうになりながらガックリ落ち込んだ。
彼がいるのに着替えようとした私が悪いのか…
なんとか自分を立て直し新しい服を着ると騒がしいテントの外へ出た。
「おぉ、ユキ。大丈夫だったか?」
顔だけは爽やかなイケメンのレジナルドが笑顔で手を振っている。
仕方ない…助けてもらったしな。
気乗りしないがレジナルドとライアンの方へ歩いて行った。
「お疲れ様、さっきはありがとう。助かったよ。」
ライアンとは目を合わさないようにしてレジナルドと挨拶をかわす。
「別にいいさ、大した事じゃない。それより結構な活躍じゃないか。ライアンにずっと引っ付いてるって?」
「まぁね、その約束だし。」
一度置いて行かれそうになったけどね。
「ここからどう戦いを進めていくの?」
今までは魔王のいる場所へ近づく為の陣営を設置する場所を探っていた感じだ。あまり近づきすぎて常に魔物と交戦していては皆の疲労が増すばかりだし、遠すぎても攻めるのに不便だろう。
「そこらを話し合わなきゃいけないだろうな。前回の魔王討伐に参加していたカトリーヌから詳しい事情をもうすぐ聞く予定だ。ユキも来るだろ?」
平民でなんの資格もない私が会議に呼ばれる事はないだろうし、聞いた所で何かの役に立つとも思えない。
「ユキは呼ばれないだろう。ゆっくりと休めばいい。」
ライアンがさっきよりも少しマシな顔色で話す。
少しは眠れたのかな。
「ユキが来ないんじゃつまらなそうだな。よし、会議が終わったらテントへ行くよ。」
「なんの為に?」
レジナルドは私の肩を抱くと顔を寄せる。
「そりゃ楽しく過ごす為さ。」
奴の顔をグイッと押し退けそこから脱出する。
「遠慮しとく。」
「何だよ、今のうちに楽しんでおかないといつ死ぬかわからないぞ。」
レジナルドがなんとも言えないちょっとマジな顔でそう言った。
悪い冗談だと聞き流そうとしていた私は一瞬ドキッとした。
そうだ、さっきだって死にかけたんだからこの戦いのなかで、いつかどこかで死ぬかも知れないんだ。
無意識にライアンの顔を見た。
彼も私を見ていた。
「だからさ、オレと楽しい夜を過ぎそうぜ。」
またレジナルドが私を引き寄せようとしたのをライアンが私を見ながら手で遮った。
「時間だ、行くぞ。」
レジナルドは仕方ないという感じで「後でな。」と手を振りライアンに引っ張られながら会議に向かった。
ライアンをひとりで戦わせたくなくてここまで来たが、私だけが先に死ぬ事だってある。彼は強いから生き残る可能性が高いがそれでも決戦となったらわからない。
突然別れが来るかも知れないんだ。
彼が貴族になったって生きていればまた会う事は出来る。でもここじゃ明日の保証もない。
急に死と隣り合わせの戦場にいるんだと意識してしまい身ぶるいした。
こんな気持ちのままで戦えるだろうか?
自分のテントに戻るとベットに寝転んだ。
「ユキ、起きろ。」
ライアンの声がした。
「うん…寝てた…なに?もう会議は終わったの?」
「さっき終わった。」
私の手を引っ張りベットから立ち上がらせるとテントの裏から外へ連れ出した。
「なに?急に…」
「レジナルドが来る。嫌じゃないなら戻ればいいが…」
忘れてくれてなかったのね。
「嫌に決まってる。どこにいけばいいかな?」
「オレのところはすぐに見つかりそうだ。カトリーヌの所に行くか。」
すっかり日は暮れ、戦場であまり明るく陣営内を照らす訳にもいかず薄暗い中ライアンに手を引かれテントのすきを縫って足早に移動した。
「ユキー、来たぞ〜。」
なんだかいい調子っぽいレジナルドの声が後ろから聞こえる。
「なにあれ、酔ってるの?」
「あぁ、途中で飲みはじめた。」
「それはしつこそう、逃げて正解だね。」
こんないつ死ぬかもわからない所で戦って、ましてレジナルドやライアンは重責を負わされてる。飲みたくもなるだろ。
気がつけばライアンが私とずっと手を繋いでる。先を歩く彼の顔は薄暗さも手伝ってよく見えない。
「もしかしてあなたも酔ってる?」
「まぁな。」
そこから歩調を緩めゆっくりと時間をかけてカトリーヌのテントまで送ってもらった。
「明日詳しく話すが、魔物に各個撃破の作戦を進める。体を休めとけよ。」
「今度は置いて行かないのね。」
「もう置いていかない…じゃあな。」
繋いでいた手を離すと私を見つめ頬をそっと撫でて自分のテントへ帰って行った。
えっと……寝よう。
一瞬思考が停止してしまったがなんとか再起動させ、カトリーヌのテントに入って行った。
「師匠、泊めて下さい。レジナルドから逃げたいので。」
中に入るとため息をついて首を振るレブとカトリーヌがいた。
「何かあったんですか?」
「いえ、焦れったさに若さを感じているところです。」
そう言ってレブが私用のベットを用意する為に出て行った。カトリーヌのテントは勿論、豪華な造りで、なかはいくつかに仕切られ個別にいくつか部屋がある。
「明日は師匠も参加するんですか?」
「いや、明日もゆっくりするさ。大物はあくせく働かないもんだからね。」
「早くその域に達したいです。」
「頑張りな。」
下がるように手を振られいくつかある仕切られた場所へ行った。やっぱりお疲れなようだ。
すぐにレブがベットを設置してくれた。
「師匠の調子はどう?」
小声でそっと聞いてみた。長い会議の直後とはいえ疲れた感じだった。
「休めば大丈夫だとは思いますが決戦には行けないかもしれません。」
レブも心配そうにひそひそと答えた。
カトリーヌが抜けるとなれば結構な戦力低下だ。ライアン達もその事を憂いでいるだろう。
彼女の代わりになる者なんていない。
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