第109話 出陣まで4
レジナルドが帰ってから数日後、魔王が動き出したと連絡が来た。
「三日後に出るぞ。」
ライアンが会議から帰り私の訓練を終えた後言った。
「そう、決まったのね。」
「あぁ、既に騎士団は出発してる。魔術師達がいくつかの魔法陣を設置して、オレたちはそれを利用して前線へ一気に進む。」
訓練場で話しているとレブが手に木箱を持ち入って来た。
「ユキ様、ご要望の物が出来上がりました。」
「ホントに?間に合って良かった。」
私は木箱を受け取ると早速開けた。
「投げナイフか。」
先日城で大量の特注の投げナイフを発注していたが魔王戦に間に合った。
ライアンが除き込み一つ取り出すと手元でひっくり返したりして調べている。
「投げちゃ駄目よ、爆発するから。」
「はぁ!?」
ライアンが投げそうになって驚いて止まった。
私がレブに特注した投げナイフは、手のひらサイズの小さな物だが投げて刺さると爆発する火の魔石が仕込まれているものだった。
「一つ一つは小さいけど魔石の効力で破壊力増し増しよ。」
私は自慢気に胸をはった。レブによると誤爆防止のロックがありそのままでは爆発せず、戦いに参加する直前に魔術師にロックを外してもらい、ナイフが刺さると爆発するという仕掛けだそうだ。
「ユキにそんな細かい指示が出せるとはな。」
勿論そんな事はしてない。安全面はレブが考えたものだが黙っておこう。
「私って結構シューティングというか、投げる事が得意だと思ってずっと考えていたの。」
前に一人取り残され、一緒にイグナツィと戦ったシーリが持っていた投げナイフを使った時は外したけどいい感じだったのだ。
「ちなみにこちらは爆発はしない練習用と言いますか、普段使い用ですね。暗器としてお使い下さい。」
それはシーリがしていたように太ももにベルトで止めれるよう既にセットされてある物だった。
「わぁ、これいいなぁ。」
ベルトを装着し微妙な位置調整にもたついているとレブが手伝いかけたがライアンがサッと直してくれた。
「この辺りのほうが取り出し安いだろう。」
何度か取り出す練習をして実際壁に向けて投げる練習もした。
「良いようですね。やっとここまで来ましたか、もう大丈夫すね。こちらの起爆付きの方は意外と安価で作る事が出来るので、今も大量生産中です。きっと魔王戦に向け役に立ちますよ。」
レブが大袈裟に感慨深げに頷くとカトリーヌに報告すると言って下がって行った。
そんなにコレ作るの大変だったんだ。
その日はもう少し投げナイフの訓練をした後、ドマニとライアンと三人でゆっくりと食事をとり他愛もない会話で笑い合い楽しく過ごした。
しばらくはこんなにゆっくりと出来ないだろうなぁ。
あっという間に当日は来た。
夜が明けない内にライアンは城へ向かい、私も支度を整えるとドマニに見送られ最ダンを出る。
「ドマニ、何かあったら…」
「エリンとおじさんを連れて城のエクトルの部屋だろ、しつこいって。」
む〜、可愛くない!
嫌がるドマニをぎゅ〜っと抱きしめキスしてやった。
「うわっ、やめろよ!もう行けよ!」
顔を赤くして慌てるドマニに手を振りカトリーヌの屋敷まで走って行った。
屋敷に入り倉庫へ向かった。
カトリーヌが色々指示を出す声が聞こえる。倉庫に入ると彼女は振り返っていつもの女王様のような気高さで微笑んだ。
「来たね、準備は怠るんじゃないよ。行ってすぐ戦闘の予定だ。魔王へはなかなか近づく事が出来ないだろう。前線の魔物共を蹴散らすのが先だ、切り込んで陣を張る。」
私も一応、手甲やメイス、投げナイフを確認し最後にポーションをセットしているか見ているとレブが全部のポーションをハイポーションと入れ替えてくれた。
「戦場では細かい傷程度では確認して回復する時間が少ないですから、使う時はこれで一気に回復して下さい。躊躇してはいけませんよ。」
少しゾッとして頷いた。戦場では腕や足ぐらい平気で…って事か。
「ほらそこ、早くしろ!」
流石に今回は準備も大変なのか数人見たこと無い奴隷たちがバタバタと動き回り、物資運搬用の魔法陣へ荷物を運び込んでいた。
怒鳴り声に聞き覚えがある様な気がして振り返るとひとりの奴隷と目があった。
「久しぶり…あ、お久しぶりです。ユキ様。」
顔は見た事あるんだけど誰だっけ?
一瞬親しげに話しかけ、すぐに改まった態度で近づいてくる。
「お忘れですか?フリオです。」
「あぁ!!ホントだ、フリオ。久しぶり…フフッ、奴隷なんだね。」
ちょっと顔がニヤついてしまう。
「カトリーヌ様の、ですけどね。」
ドマニと一緒にプラチナ国に逃げてきたフリオ。
コイツもある種の変態か、カトリーヌに弟子入りを断られ奴隷になった奴だ。なんだか嬉しそう。
せっせと働くフリオにレブが珍しく舌打ちして気に入らない様子をかもしだしている。
「嫌いなの?使えない?」
「いえ、意外と優秀ですよ。私よりは下ですが、ただカトリーヌ様との距離感が少し近すぎます。」
あぁ、そういう事か。
私がプッと笑うとレブが視線をそらした。
「違います。」
「何も言ってないけど。」
「ユキ様が思っているのとは違います。」
「だから、言ってないけど、ヤキモチなんて。」
「言っているではないですか。」
レブが機嫌を損ねたのか離れて行った。
サイコパスの考える事はよくわからないけどレブはカトリーヌに好意があるのだろう。
冷静に結婚詐欺を繰り返して来たレブがそう簡単に捕まってしかも奴隷なんてならないだろう。
彼はかなり優秀だ、犯罪者の自分がカトリーヌの傍にいるには奴隷しかないと思ったのかも知れない。捕まった振りでもしたんだろう。
二人はそうまでしてカトリーヌの傍に居たいなんて彼女の何を気に入ったのだろう。圧倒的な力なのかな?今度聞いてみよう。
何度か魔法陣で荷物を転送した後、いよいよ私達が出発する事となった。レブ達が地下に下りて行きだし、マルコがやって来てカトリーヌの側に向かった。
今回はマルコは留守番だ。彼女はマルコを見るといつもみたいにちょっと嬉しそうにしている。
「ユキ、気をつけるんじゃぞ。向こうでライアンに会ったらちゃんと言う事を聞くんじゃぞ。」
「は〜い、先に下に行ってますね、師匠。」
夫婦二人だけで話す事もあるだろう。
私は階段を下りると魔法陣に乗った。ケイとレブは準備万端で側にいたが魔法陣から少し離れた所にフリオがいた。
「フリオは留守番?」
「はい、ここから物資を送る役目を申し付けられております。勿論、特注の投げナイフも順次送りますよ。」
すっかり馴染んでいるようで、屋敷内の事はほとんど任されているらしい。
しばらくするとカトリーヌが優雅に階段を下りて来て魔法陣へ乗った。
「行くよ。」
その声を合図に瞬時に目の前の風景が少し歪み、すぐに沢山の騎士達が行き交う場所に送り込まれた。
「来たか!カトリーヌ、早速やってくれ。押され気味だ!」
ライアンが少し離れた岩の上から大声で叫んでいる。側にはイーサンとモーガンがいた。
戦場はここからは遠く離れているが彼がいる高い位置からは見渡せ、戦況を伺うことが出来、指示を出しているようだ。
大きな岩が点在し荒涼として見通しが悪いその場所に騎士団が騎馬で攻め行っているようだが、思うような成果が出ていないらしい。
運ばれて来る怪我人を横目に、カトリーヌはライアンの所まで行くと彼と何やら指さしながら現場に指示を出していった。
すぐに味方からの伝令が伝わったのか一旦騎馬が下がる形になって戦場に敵だけの空間が出来ると、そこへカトリーヌが巨大な火球を投げつけた。
もの凄い爆発が起き、その勢いで離れた位置に居たはずの味方の騎馬もいくつか被害を受けたようだ。
やっぱり師匠は凄いや。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます