第103話 魔王候補の行方
誰にも邪魔されない二人だけの空間にちょっといい気分でいるとレブが私達を呼ぶ声が聞こえた。
「ユキ様、ライアン様、返事をして下さい!」
パラパラと小石が崩れてきて外の光が差し込むのがわかった。
「ここだ!」
ライアンが大きな声を出し耳が痛い。
次の瞬間、私達の上にあった物が蓋を開けられたように退けられぽっかり空間がひらけた。
「チッ、早く出な。まったく面倒ばかりかけるねぇ。」
口ぶりとは裏腹にホッとした表情のカトリーヌが魔術で瓦礫を取り除き助けてくれたらしい。
せっかく小さな幸せを堪能していた私は顔をしかめて体を起こした。
「気の所為ですか?不満気な様子ですね。」
レブがニヤつきながら手を貸して引き上げてくれ、怪我の確認をする為か顔や肩に触れながらあちこちチェックし始めた。
「急に明るくなったからよ。」
尖るくちびるも眩しさのせいにして立ち上がりまわりを見て驚いた。
「よく生きてたもんだ。」
ライアンも立ち上がりながら首をまわし、縮こまっていた体をほぐしていた。
一階部分の床は完全に崩壊してそのまま建物の天井は突き破られ、見上げると晴れわたった空が広がっていた。
あたり一面瓦礫の山で魔法陣も崩れているようだ。
「イグナツィと龍は逃げたんですか?」
カトリーヌの不機嫌な顔が答える。
「急ぐよ、こいつから情報を聞き出さないとね。」
そこには一人の魔術師が横たえられていた。側に私のメイスがある。
「ユキ様達を掘り起こしている途中にいました。メイスが刺さったままだった為目を引きまして。」
ケイがそいつの首にかかっている鎖を持ち上げついている石を見せた。
「今度は殺されない様に契約の石をカトリーヌ様の魔術で封印しました。これでゆっくり事情が聞けます。」
前回のイグナツィの奴隷は奴の契約のせいですぐに殺されたが、今回はカトリーヌがいるおかげで死なずに済むが、脅され何もかも吐き出さなくてはいけないだろう。
レブが私の体を調べて細かい傷を治してくれている間に、ライアンとカトリーヌが次の行動を話し合っている。
「とにかくアレクザンダーに魔王級の魔物が現れると知らせないとね。」
「オレはエストート国のレジナルドに知らせてくる。直接話さないとこんな事信用出来ないだろう。」
周辺の国へ魔王出現の可能性を広めなくてはいけないだろう。皆が協力して討伐へ向かわなければ大変な事になる。
「ここらの勇者はエクトルだけだが、あいつももう年だ。わかってるね。」
カトリーヌの言葉にライアンが黙って頷く。
「私も一緒に行くから。」
私の言葉にカトリーヌが面白そうな顔をした。
「駄目だ、レベルが足りない。」
ライアンはこっちを見ようともしないでケイを連れて瓦礫の中を歩き出した。
慌てて私もついて行く。
後ろからレブがイグナツィの奴隷を連れて、カトリーヌは黙って付いてくる。
「もう次は上級だもん。」
「まだ無理だ。」
足を早める彼を必死に追いかけながら話す。
「大丈夫よ。」
「師匠の許可がないと無理だろ。」
「エクトルは良いって言ってくれるわ。私の頼みは何でも聞くって言ってくれたもの。」
「チッ、だがお前の師匠は駄目だって言うんじゃないか?カトリーヌは無駄が嫌いだ。すぐに死ぬかもしれない現場にお前を行かせるわけない。」
そう言われ振り返ってカトリーヌを見た。
「駄目ですか?だったら弟子の契約解除して下さい。」
私の言葉に彼女は肩をすくめた。
「優秀な弟子を手放したくないからね、契約解除はしない。勝手にしな。」
「カトリーヌ!!何考えてるんだ!?」
ライアンが驚いて立ち止まった。
「命令して止めればいいじゃないか。」
「こいつとの契約では命に関わる決断は自分で出来るように設定してある。でないと無駄に死んだり殺されたりするからね。情報の為の拷問なんかで死なないようにする為さ。今回の事はユキの命が絡んでる、私の出る幕じゃない。」
「そのせいで死んだらどうするんだ!」
「それもユキの選択だ。弟子とはいえ人生の全てを預かるわけじゃない。やりたい事をやれずにいた結果、後悔して残りの人生腑抜けの様に生きられても使い物にならない。」
カトリーヌが説得出来ないとわかって、ライアンはまた黙って魔法陣へ向かって歩き出した。
黙り込んだまま、来る時に使った魔法陣へ皆で乗ると転送され、経由地でライアンがケイだけを連れてエストート国へ行く為に別れた。
「今は知らせに行くだけだ、遅くとも明日には戻る。ちょっと考えたい事もある。」
私も付いて行こうとすると真剣な顔でそう言われ、仕方なく一旦引き下がった。
「戻って来なかったら探しに行くから。」
ライアンを睨みながらそう言うと私達が先に転送された。
カトリーヌの屋敷の地下へ戻って来るとレブが大きくため息をついた。
「もういいでしょうか?カトリーヌ様。」
疲れた顔で奴隷を引きずりながら階段の方へと歩きながら指示を仰ぐ。
「そろそろだろうね、決戦も近い。上手く行けば間に合うだろ。どいつもこいつも面倒ばかり押し付けてくる。」
不機嫌なカトリーヌはさっさと階段を上がっていく。
「何かあるの?」
そのやり取りを不思議に思いレブに尋ねた。
「有事の時の為には国をあげて勇者を育てる事が必要です。その大変さを身にしみている所です。」
「ライアンはちゃんと勇者になる為に頑張ってると思うけど。」
充分強いし、国の為に尽くしてる。
「えぇ、そうですね。ですが…エクトル様もカトリーヌ様も、やはりなんと言うか。私はそこまでのモノはよくわかりません。人は人を利用するものだと思っていますから。」
「ちょっと何言ってるかよくわかんないけど、そんな突き放したコト言ってもレブは充分優しいと思うけど。」
「それは私が奴隷契約してるからですよ。」
「命令だけではない感じがする。レブも本当は損得だけで動くたちじゃないんじゃない?」
レブが驚いた顔をした。
「そんな事、初めて言われましたよ。私に好意があるのですか?」
半分笑いながら私に近づき顎にそっと触れ顔を近付けてきた。
「死にたいなら協力するけど?」
「いつももっと体に触れているではないですか。」
「怪我を治すのと手を出すのとは違うでしょ。ごまかそうとしてるよね、何を隠してるの?話して。」
「その命令は聞けません。カトリーヌ様にお尋ね下さい。」
レブはつまらなそうに私から離れるとまたイグナツィの奴隷を連れて上がろうと階段を上り出した。
私は奴隷の首根っこを掴むと持ち上げ地上まで持って上がった。
「ありがとうございます。」
何事も無かったようにレブは奴隷を引きずって下がって行った。これから尋問するのだろう。
レブが話さない以上カトリーヌに聞いても無駄だ。
仕方なく私は一旦最ダンに戻りドマニを探した。
近々大変な事になりそうだから色々な事を話しておかなきゃいけない。
部屋には見当たらず私もお腹がすいた。
もう夕食時なのでエリンの所にいるのかもしれないと思い、シャワーを浴びて着替えると外へ出た。
日が沈み薄暗い空を見上げてぶるっと身を震わせた。
ライアンに付いて行くと決めたが足手まといにはなりたくない。その為にももっとレベルを上げたかったが間に合わない可能性が出て来た…
こんなに早く魔王と対決する事が迫って来るなんて。
ついて行くと言うのは彼が心配なせいだが、私が行く事によって危険にさらされるなら諦めなければいけないかも。
でも私の知らない所で命をかけて戦っているなんて嫌だ…ついて行きたい。
小さくため息をつくとエリンの店に向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます