第97話 買い物

「ユキ起きろ!」

 

 ドマニの声がし頬をムニッとつままれた。

 

「ん…なに?まだ寝てたい…」

「買い物に行く約束だろ。」

「そんな約束したっけ?」

 

 えっと、昨日無事に帰ってきて…あれ?

 

 私はベットを確かめた。昨夜ライアンを引き込んだ気がする。

 ガバっと起き上がり自分を見た。

 

 大丈夫か…あんまり覚えてないけど。ま、向こうはそういう感じで私を意識してないし。

 

「早く支度しろよ、キッチンで朝ごはん用意してやる。エリンのとこからもらって来たんだ。どうせ何も無いだろ。」

 

 ドマニは昨夜、エリンのところで店を手伝いそのまま泊まらせてもらったはずだ。

 すぐに部屋から出て行ったので仕方なく着替えを手にシャワールームへ行く。ライアンの部屋に通じるドアをじっと見た。

 

 いつ帰って行ったんだろう。ドマニが何も言わないって事は私が寝てすぐに出て行ったんだろうな。

 

 そのドアに鍵をかけシャワーを浴びた。

 支度をし、キッチンへ行くとドマニがライアンにスープを出していた。

 

「おはよう、起きてたの?」

「あぁ、通りかかったらこいつが美味そうなもん作ってたから。」

「エリンのとこのスープだからな、美味いに決まってる。仕方ないから分けてやったんだ。」

「お前が作ったんじゃないだろう、生意気だな。」

 

 二人でケラケラ笑いながら楽しそうに食べてる。

 

 良かった、元気そうだ。

 

 私も一緒に食事をとった。

 

「今日はどこに買い物に行く?オレの物を置く棚が欲しいな。それと武器も!冒険者が武器無しじゃしまらないだろ。」

 

 張り切っているようだがそれはどうかな。

 

「まだ早いんじゃない?どこか街の外へ出るならともかく街中で子供が武器を持つのは危険よ。」

「えぇ!嫌だ。オレは剣を持つんだ。金はあるんだから。」

 

 ドマニが口を尖らせた。

 

「無駄にお金がある弊害ね、誰かに預けたほうがいいわ。子供のうちは決まった金額を毎月もらって生活しなさい。」

「オレは子供じゃない!冒険者だ。」

「子供じゃないならもっと冷静に考えるはず。」

 

 私はドマニをたしなめる。

 

「そんな、オレも早く強くなりたい!」

「ま、そうだな。ダンジョンへ行くなら良いだろ。」

 

 駄々をこねるドマニにライアンが助け舟を出した。

 

「ちょっと、まだ子供よ。」

「オレがこれくらいの時はもう剣を握ってた。他と比べて確かに少し早かったがそこまでおかしくもない。剣を扱う場所を最ダン内に限定すればいい。誰か大人がいる時だけだ、守れるか?」

「守れる!だから剣を買いに行こうぜ。」

 

 目を輝かせ嬉しそうにライアンを見るドマニをもう止めることは出来ない。

 

「もう…心配だな。」

「早く強くなってユキを守ってやるよ。」

 

 ドマニは剣を買ってもらえる嬉しさを爆発させていた。

 

「そうだな、早く強くなってくれ。こいつはどうも警戒心が薄い。」

 

 ライアンが呆れたような目で私を見てる。昨夜の事を言ってるに違いない。

 

「だ、大丈夫よ。ちゃんと警戒してるもん。」

「ならあんな事はもうするな…結構大変だったんだ。」

 

 何が大変だったか詳しくは教えてくれなかったがため息をつかれた。

 

 

 食事を終えると私とドマニは早速日用品の買い物に出かけた。武器の事は私ではわからないので後日、ライアンと買いに行く約束をした。

 

「エリンにオススメの店の場所は聞いたんだ。」

 

 この辺りの地図が頭に入ってると言った通りドマニは迷う事なく色々な所へ行き乗り合い馬車にも躊躇無く乗ると、私が知らない店を次々に巡って行った。

 

 着替えの一部や食料などは持って帰り重い寝具や棚などは配達してもらう手続きをし、お昼すぎには大体の要件は済んだ。

 

「そうだ、役所に行かなきゃ。ジェイクさんが待ってる。」

 

 遅めの昼食を取りながらドマニに登録手続に行かなきゃいけない事を告げた。

 

「面倒だけど仕方ないな。これ食ったら行こうぜ。」

 

 ちょっと血の登録をするだけだからと気軽な気持ちで役所のジェイクを訪ねた。

 彼は私達に気づくと奥の部屋に通し色々な書類と登録用の水晶を机に並べた。

 

「ではまずこの書類ですが、」

 

 ジェイクが出した書類はドマニの後見をする人物を決めるものだった。

 

「彼の身元はユキさんが保証するという事でいいですね?」

「え、そんなのいるの?」

 

 ドマニはそもそもデルソミア国の子供だ。

 もしかしたら生まれた時にデルソミア国で出身地の登録がなされているかも知れない。そうなると未成年のドマニをこの国のこの街で登録し直すには養子縁組しなければいけないそうだ。

 

「養子縁組って、私独身なんだけど。」

「既婚未婚は関係ありません。成人で働いていればいいのです。」

 

 ドマニを見ると不機嫌な顔をしてる。

 

「オレはユキの子になるのか?」

 

 どうやら私が親では気にいらないようだ。私もいきなり子持ちになるのはちょっと抵抗がある。

 

「では誰に養子縁組をするのかは後で決めましょう。とにかくこの街に住むという事で血の登録を済ませましょう。ヒモづけは後でも出来ますから。」

 

 水晶にドマニの血をたらし登録を完了して役所を後にした。

 なんとなくお互いに気まずくて無言で並んで歩いていた。

 

「ねぇ、誰に養子縁組したい?」

「誰でもいい、ユキ以外なら。」

 

 う〜ん、嫌われてるわけじゃないだろうけど私では頼りないのだろうか?確かに即答は出来なかったけど。

 

「一応私が知ってる人に聞いてみるけどいなかったら私で我慢してね。」

 

 ここまで連れてきた責任を感じるしドマニが家族になるのは嫌じゃない。結婚には縁が無さそうだし。

 

「ユキの子にはならない!」

 

 ドマニがムスッとした顔でどんどん先に歩いて行った。

 

 ここまで嫌がられては無理かもしれない。これは本当に真剣に探さなきゃ駄目だな。

 

 最ダンまで帰って来るとイーサンが店の前に立っていた。

 

「イーサン、どうしたんですか?仕事はありませんよね。」

 

 彼は私が持っていた荷物をさり気なく持つと路地へ向かった。

 

「いや、ユキに用があったんだ。少し話せるか?」

 

 私の部屋に荷物を置きキッチンへ行くとお茶を入れた。機嫌の悪いドマニは荷物を片付けると言って部屋にいる。

 

「何の話ですか?」

「もちろんライアンの事だ。」

 

 今回の事件はやはり父親が跡継ぎをライアンにすると言い出した事が発端らしい。

 

「正妻のヴァレリア様は既に投獄されているがどれほどの処分が下されるかはまだわかってない。当然騎士団長のセオドア様は随分お怒りだが、まわりの親族の者達はヴァレリア様に同情的だ。」

「ライアンが平民の子だからですか?」

「そうだ…今回の事は異例中の異例だ。普通ならいくら優秀でも平民の子を跡継ぎになんて慣例ではありえない。騎士団長ほどの地位の者がそれを押し切る事となればいままでのことわりが崩れる。」

 

 彼は苦々しい顔をした。

 

「別にいいんじゃないですかね、理が崩れたって。大体同じ人間なのに身分で分ける方がおかしいんですよ。イーサンも貴族社会に平民が入るのがそんなに嫌ですか?」

 

 私はムッとして言った。

 

「いや、私は…だがこれまでの流れを変える事は難しい。そう簡単では無いだろう。派閥の関係も崩れてくるだろうし貴族にかかわる平民の安全確保も大変だろう。」

「ライアンなら自分の身は自分で守れますよ。」

「…確かにそうだな。」

 

 イーサンは笑って一口お茶を飲んだ。

 

「こういう話は昔から表沙汰にはなっていないが幾度となく起こっている。その度に平民が殺されたり貴族間でも派閥を追い出されたりと色々な事が起こってきたのだ。勇者エクトルの時も平民が犠牲になりかけたらしい。」

「エクトルの時って?」

「勇者エクトルが今の地位になってすぐに婚姻を結びたいと国王に申し出たんだ。相手は平民の娘だ。」

「エクトルも平民ですから問題ないのでは?」

 

 イーサンがため息をついた。

 

「平民だが勇者だ。その権限は騎士団長を上回る。慣例では貴族からお相手を選ぶ事になっていたんだ。」

 

 これほど平民を入れるのを拒否しながら勇者には強制的に婚姻を勧めるなんておかしすぎる。力を欲する貴族らしいやり方なんだろうか?

 ファウロスも父親に私の有効性・・・を説明したって言ってたし。

 

「でもエクトルは独身ですよね。」

「あぁ、結局恋人と別れたが貴族との婚姻も退けた。その時、恋人の命が狙われたりとゴタゴタがあり、エクトルが身を引いた形になった。」

「そうだったんですね。その後彼女の安全は確保されたんですか?」

「あぁ、しばらくは秘密裏に警護をつけていたが彼女が別の男との結婚を期に解消されたようだ。」

 

 彼女が結婚してもエクトルは独身を貫いたのか。

 

 

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