第86話 潜伏2
レブが大騒ぎしたせいでライアンは何とか抜けたようだ。私達を最後に門は閉じられた。
街へ入ってすぐにライアンを探した。門の周辺にはさっき門を抜けたばかりの旅人達が客引きらしき者達に手を引かれている。
「ユキ様、ライアン様を助けに行ってくれませんか?」
レブが教えてくれた先に派手な女性二人に腕を引っぱられているライアンが無心の顔で立っている。私は急いで近づき一人の女性から彼の腕を奪い取った。
「待たせてごめんなさい、行きましょう。」
グッと腕を絡め体を寄せる。
「アラ…女がいたの、残念。」
女性達はあっさり引き下がりまた違う旅人の元へ行って腕を絡めた。
「何アレ、宿の客引きにしてはすごいわね。」
「娼婦だ…お前たちが遅いから捕まっちまったんだ。」
「あなたを助ける為でしょ。」
文句を言うライアンと腕を組んだままレブの所へ行った。
「三人で宿をとるのは危険ですのでお二人で部屋を取って下さい。私は別に取ります。荷物を調達して参りますから後で伺います、では。」
それだけ言ってすぐレブは二頭の馬を連れいなくなった。早口でよく分からなかった。
「なんて言ったの?」
「宿を取れって言った、行くぞ。」
そのまま歩き出したので腕を離そうとしたがさっきの娼婦がコチラを見ていた。
「まだ離すな、あいつ等は街の見張りも兼ねてる。」
「娼婦が?」
「あぁ、情報を兵士に売るんだよ。」
なるほど、怪しい男をいち早く察知できる商売なのか。
腕を組んだまま街の賑やかな通りを抜け少し静かな方へ行くと小ぢんまりした宿を見つけ部屋を取ろうとカウンターへ向かった。
「今日は満室でね、でもあんた達運がいい。大きいベットの部屋が一つ空いてるよ。少し値が張るがそこでいいね?」
「………あぁ、そこでいい。」
ライアンは数秒考え了解した。完全にカップルに見える私達を主人は広さのわりに大きなベットの部屋へ案内してくれた。
鍵を受け取り二人で中へ入る。
「わぁー久々のベット!今夜はゆっくり眠れそう。」
ボスっとベットに倒れ込みグッと伸びをした。
「お前は無神経でいいな。」
苦虫を噛み潰したような顔のライアンがベットに腰を下ろした。
「何が?久しぶりベットが嬉しくないの?」
「嬉しいってお前なぁ、オレは男だぞ。」
「知ってるわ、私は女だよ。それが?」
「それがじゃない。一緒の部屋に一緒のベットなんて何も思わないのか?」
ベットから起き上がるとライアンの顔を覗き込んだ。
「私に何かするつもり?」
「するか!」
「でしょ。だったら気にしない。」
「気にしないって…お前ちょっと油断し過ぎだぞ。レブの事だって、男なんだぞ、お前が意識してなくても。…ひっつき過ぎなんだよ…」
最後の一言はゴニョゴニョと聞き逃しそうな小さな声で言った。
「レブもライアンも絶対に私に酷い事しないってわかってるから気にしてない。だから私が女だって事を気にしなくていいよ。面倒臭いでしょ。まぁ、流石に着替えとかは後ろ向いてて欲しいけど。」
「当たり前だ!」
ライアンは頭をガシガシかくと立ち上がった。
「飯取ってくる。ここから出るなよ。」
「はーい、シャワー先に浴びときまーす。」
私は立ち上がりシャワールームへ行くとドアを閉めた…
イヤぁーー!!ライアンと一緒の部屋で一緒のベットなんて…なんて思えばいいの?
頭を抱えると座り込みギュンと一気に顔が熱くなる。
駄目だ、意識しちゃ駄目だ。どうせ向こうは気を使って言ってくれてるけど私を女として意識してるわけじゃない。私さえ意識しなきゃライアンもベットでゆっくり眠れる。
私が少しでも嫌がったら床で寝るか出て行くかって事になるだろう。ここは平常心でいよう、お父さんと一緒寝るんだと思えばいい。あ、私お父さんいなかったわ。男兄弟もいないわ、彼氏以外とベットに一緒なんて初めてだよ。どうしよどうしよ、落ち着け、まず、えっと、シャワーだ、シャワー浴びよう。
急いで服を脱ぐと頭から熱いシャワーを浴びる。
なーんでこんな事になってるんだ…落ち着け、飛ばされた中洲でも二人で引っ付いて寝てたけど大丈夫だったんだから大丈夫。何が大丈夫か良くわからないけど大丈夫!
ドキドキする鼓動を何とか鎮め、再び何も気にしてない顔で部屋へ戻った。
二人分の食事をテーブルに並べライアンが座っている。
「先に食ってるぞ。」
「どうぞ、私も食べよっと。」
向かいに座りスープを食べだす。
「レブってここに泊まってるってわかるかな?」
「わかるさ、この宿は条件がいい。静か過ぎず、賑やかすぎず、宿の裏は入り組んだ通りで二階建て、いざという時逃げやすい。」
「入り組んだとこじゃ逃げれないよ、迷う。」
「それはお前だけだ。オレもレブも迷わん。」
何故私だけ道に迷う運命から逃れられないんだろうか?不思議だ。
食事をしているとノックがしレブの声が聞こえた。
「入れ。」
ライアンの返事に少しドアを開けチラッと中を確認してからそっと入ってきた。
「まずは、着替えを。」
気が利くレブに感動しながら受け取ると二人に断り早速着替える為にシャワールームへ行った。
シャワーを浴びたのにまた汚れた服を着たのが気持ち悪かったので嬉しかった。
すぐに部屋に戻ると二人は明日以降どう行動するかを話し合っていた。
「出発の用意は出来ましたが、調べてみると漠然とした情報しか出回っていないようでした。男女の三人組が貴族の館に盗みに入ったというものです。」
「それ位の話ならほとんど誰も気にしないんじゃないか?」
「はい、ですからざっくりとした情報だけ集めて別口で手配が回ってるとか思われます。」
「装備が整うなら山岳地帯かデヴィラド国へ抜けた方がいいか?」
「いえ、山岳地帯はユキ様には負担が大き過ぎます。デヴィラド国へも距離がありますから予定通りエストート国へ抜ける方が早いのでは?」
「だが奴らはオレたちがプラチナ国の者だとわかっているから待ち伏せされる可能性も高い。」
「装備を整え裏道を抜ければそれほどの規模の追手はかからないでしょう。全ての裏道を抑える事は不可能ですから。」
距離的には山岳地帯を抜ける方が近いが私がいるせいで行けなかったのか。
「なんか…ごめんなさい。やっぱり引き返した私が邪魔みたいで…」
ここに来て二人の負担になっているのが心苦しくなって来た。
「気づくのが遅い、もう気にする時期は逸してる。落ち込むだけ無駄だ。」
「気にしなくていいという事です。」
ライアンがバッサリ切ってきた言葉をレブがフォローしてくれる。
「チッ、まぁそういう事だ。」
ニコニコしているレブを睨みつける。
「ハハ、そうだね。今更だね。それより資金は大丈夫なの?良かったらこれ使って、どれ程の価値があるかわからないけど。」
私はエリンのお土産用に取ってきていたピンクの石をレブに見せた。
「ほう…素晴らしい宝石ですね。」
レブが私の手からそれを手に取りじっくりと眺める。
「それはいい、お前気に入ってるんだろ。オレが出す。」
ライアンはポケットから何かを取り出すと雑にレブに数個の宝石を渡した。
「いつの間にそんなに?」
「いや普通盗るだろ。っていうかお前まさか一つだけしか持って来なかったのか?」
「だってコレ、エリンにお土産にと思って。一つくらいならいいかと。」
「まさかの自分の為じゃないのか!?お前の頭の中はどうなってるんだ?この借金持ち。」
「あぁ!?忘れてた、借金分だけでも持ってくれば良かった…えぇー、引き返したい!」
「無理だ馬鹿。」
ホントに馬鹿…
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