第73話 不審1
ファウロスの呆れた行動にもう何も言う気が無くなり離れると再び訓練を始めた。
「もうユキに構うな。レベルを上げるために来たのであろ。」
まだ私に何か言いたげなファウロスをイーサンが連れて行き、カウンターの方へまわり手続きをするようだ。私が行こうとするとマルコが訓練を続けろと言ってくれ任せることにした。
手続きの済んだファウロスとイーサンが再び訓練場へやって来た。イーサンは上級、ファウロスは中級だ。二人共昇段試験を手伝ってくれていたから迷宮が変更になった今日、特別にレベル上げをする事になっているのだ。
イーサンは大丈夫な気がするが、中級へ向かうファウロスは少し気になる。それは求婚されているからではなく、自分も死にかけた中級にやたらと問題が起こっているからだ。
「ファウロス様、充分に気をつけて。何かあったらすぐに救援要請して下さいね。」
中級のドアを開きながらファウロスは驚いた顔をして振り返った。
「心配はしてますが結婚はしませんよ。」
すぐにそう続けたがニヤリと笑ってダンジョンへ向かった。
「今のは説得力にかける態度だったな。あれじゃあきらめないだろ。」
ライアンがなんとも言えない顔で言った。
「私の心配もして欲しいものだ。ファウロスより先に知り合ったのだがな。」
イーサンが少し拗ねたような口調でダンジョンへ向かった。
「イーサンは最近性格の悪さが目立ちますよね。もちろん心配してますよ、気をつけて行って下さい。」
面倒くさい二人がやっといなくなるとまた訓練を始めた。
あんなのに構ってる暇ないんだから。
二人が昇段試験の為にダンジョンに潜ってからしばらくして、冒険者がやって来た。上級への申込みだったがイーサンが行ってから既に一時間は越えている。すぐに手続きをして案内をした。
「あなたの様な女性も救援要請に応じるのですか?今は他の受付の方は?」
二人パーティの内の一人が不安そうに尋ねてくる。
「はい、レベルによりますが。基本的に私の担当は初級です。今もライアンがいますから上級へは彼が向かいます。」
私に来られても迷惑だって感じが見て取れる。今の時点で見た目の頼りなさは仕方ない。もちろん中身もとても上級には行ける力は無いだろう。
私の返事を聞いてホッとしたように二人は視線を合わせて魔法陣の上に立った。
「お気をつけて。」
魔物の強さがいつもと違う事を伝え彼らを見送った。
「ふぅ…」
戻って再びライアンに訓練の続きをしてもらおうとメイスを握ったがついため息をついてしまう。
「何だよ、もう疲れたのか?」
「違うよ、やっぱり私って頼りなく見えるのかなって思って。」
ライアンは私をマジマジと見つめるとフッと笑った。
「なに?」
「いや、最初に比べれば随分しっかりして来たと思うぞ。騎士達の間ではもうお前の事は知れ渡っているだろうし、冒険者の間に広がるのも時間の問題だろ。ここに来た事のある冒険者ならもう頼りないなんて思ってないんじゃないか。」
「そうかな、珍しがられてるだけだと思うし、さっきも救助に来るのは私じゃ不満だって顔された。」
ちょっと拗ねた子供のような気持ちになり愚痴ってしまう。それを聞いたライアンは驚いた後笑い出した。
「何よ、笑わないで!」
人が真剣に話しているのに笑うなんて。コイツはいつもそうだ。
ひとしきり笑った後ライアンは私の肩をポンと叩いた。
「あれだけスキルは秘密にしたいとか可愛くないのは嫌だとか言ってたお前がそんな事言うなんてな。成長したじゃないか、うんうん。」
「ウルサイ、ライアンて孫の成長を楽しむおじいちゃんみたい。ジジ臭い。」
ちょっと恥ずかしくて横をむいた。顔が熱い。
「大切な部下の成長を喜んでるだけだ、ジジ臭いって言うな。」
そう言って頭をクシャッとされドキッとした。
なんだコレ…
「ほら、さっさとやれ!遊んでる暇ないんだろ?頼りにされたくないのか?」
ハッとして気を取り直すとまた訓練を始めた。今はこれに集中しなきゃ。
午前中で受付けは締め切り、後はダンジョンに潜っている三組を見守るだけだ。
私の訓練中はマルコが見張ってくれていたが騎士の二人も冒険者の二人パーティも順調なようだ。
「ファウロス様は今回は順調そうですね。」
既にレベル20は越えて今はレベル25だ。
「この辺りから迷宮もより複雑になるし魔物の数も増える。結構初級レベルのゴブリンやスライムなんかが集団で現れて気持ちを削られるからな。踏ん張り時だろ。」
ライアンの説明を聞いて自分なら出来るのか想像してみた。
「お前はまず迷宮が無理だろ。そこの対策をしないとな、見てるコッチの気持ちが削られる。」
気持ちを見透かされたように言ってくる。
そんな苦々しい顔をしないで欲しい。確かにそうだけど。
「最悪は初級でやったように壁づたいに行くよ。」
「馬鹿、中級でそんな事やったら上級へ行くのに一体どれだけの時間がかかるか、考えたくもない。」
そう言われても方向音痴治すのと記憶力を鍛えるのってどうやるか知らないよ。
「随分と優秀な冒険者達だな。イーサンを抜いていったようじゃ。」
マルコが上級の地図を見ながら言った。その言葉を受けライアンも上級の地図に注目している。地図上ですれ違っている訳ではないが冒険者達が先に次のレベルに行ったようだ。
「う〜ん、少し気になるな。」
ボソッと言ってカウンターの方へ行くと二人の申込書を取り出し、地図を映し出している壁の下の部分埋め込まれている水晶にかざすと地図の脇に小さく申込書に書かれている者の名前、出身地、登録している街の名、レベルなどがズラリと並んで映し出され。
「王都の人間じゃ無いな。北の村出身か…待てよ、確か…」
ライアンは待機室の戸棚にある過去のダンジョンの申込書を綴った物を出すと何かを探し出した。
「何してるの?」
突然の彼の行動を不思議に思いマルコと私は書類を一緒にのぞき込んだ。
「あった、これだ。」
そこには三人パーティでこの前レベル50で自主的に脱出していった者達の申込書だった。それもさっきと同じく水晶に翳し情報を見た。
「やっぱり、登録の街は違うが同じ出身地だ。」
「そんな事わかるんだ」
「血の登録をするからな、どこの出身とかどの街で登録してるなんかがわかる。コイツらはイーサンが不審がっていた奴らだ。順調過ぎるって、迷宮に迷う事なく進んでいたってな。」
「つまり、今イーサンを抜いてった冒険者と一緒って事?優秀な冒険者じゃないの?」
「いや、不自然すぎる。迷宮の情報が漏れているかもしれん。」
マルコとライアンは腕を組んでジッと地図を観察し二人の進み方に不自然な所がないか探っているようだ。
「でも、前のはともかく今の迷宮は変更して今日が初日でしょ?」
「だから不審なんだよ。知ってる者が限られる。基本的には迷宮を作った魔術師と、」
「それをチェックしたカトリーヌじゃ。カトリーヌからの情報漏れはありえんからの。」
マルコが眉間にシワを寄せため息をついた。
「魔術師からか…」
ライアンも難しい顔をしている。どうやら毎月迷宮を作り変えているのは騎士団に所属している魔術部隊の者らしい。もちろん不正があっては正確なレベルが測れないので契約書を交わし機密とされている。
「じゃがカトリーヌの契約をかいくぐるとは、相当な力が働いておるようじゃのぉ…」
魔術で行う契約には関わった魔術師の力量によってその効力の範囲や強さが変わってくるらしい。希代の魔術師と呼ばれるカトリーヌの契約は強力だ。
「国内の者では無いかもな。」
「一応遣いを出しておくか、モーガンを呼んで脱出して来た時に事情聴取をしてもらわねばならんの。」
マルコはすぐに待機室から出て行きしばらくすると顔色を悪くして戻った。
「レブに遣いを頼みに行ったがカトリーヌにも知られた。ふぅ…ワシは巻き込まれたくないぞ。恐ろしかった。」
ブルッと身を震わすマルコ。
またチビッたの?気持ちはわかるよ。
「オレも嫌なんだがな。」
その時、待機室の明かりがチカチカと光った。
「救助要請?冒険者から?地図を知ってるんじゃないの?」
私の言葉にライアンはマントとベルトを用意しながら答える。
「迷宮の情報は仕入れられても実力が伴ってないとクリアは難しいんだろ。行ってくる。」
「待って、私も行く。怪しいんでしょ?一人じゃ何かあった時に困るよ。」
ベルトをつけメイスを手に取った。
「オレが困るか?そいつを試したいだけだろ?」
「ハハ、まぁそれもあるけど。心配なのは本当だよ。」
マルコも頷く。
「すぐにモーガンも来る。ユキも連れて行くといい。確かにひとりじゃ危険だ、ユキも使えるようになったんじゃ、きっと役に立つじゃろ。」
二人で待機室を出ると救助専用ドアを開いた。向かう先はレベル51だ。
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