第28話 口の悪い妹が久しぶりに帰省
「幸太くーん。私、今日服買いに行くから、戸締まりよろしくね!」
「うん、行ってらっしゃ……。綾間さん、なんで顔だけ出してるの」
キッチンで卵焼きを切る俺の目線の先には、引き戸からひょっこり顔だけだした状態の綾間さんが見えていた。
まるでひょっこりはんみたいだ。
「それは……。お風呂から上がってまだ裸だからです」
「えっ……。えぇぇええ!!?? いや!ちゃんと服着てから伝えてくれる!?」
「だって思いついた時に言わないと忘れちゃうんだもん」
「可愛く言ってもダメだ!!」
最近、まったく俺に警戒していないこの裸の天使は、大人気アイドル『MIXトラップ』の元メンバーの綾間凪咲だ。(本名は綾間優香)
彼女は色々あって俺の家で同棲することになって、色々あって何故か俺と許嫁をしている。
そして今日も彼女は、服に着替えて買いに出かけるようだ。
「それじゃあ行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい」
ドアの閉まる音が鳴ると静かな無音の時間が訪れる。
「はぁ……」
綾間さんは、定期的に休みになると買い物に出かける。
そして今日も俺はこの静かな一軒家のリビングに独りぼっちだ。
だが俺は、飼い主を家で寂しく待つ犬とは違って、この時間を有意義に使おうとする。
まず最初に、テレビをつけて動物の可愛いハプニング動画を流す。
これは最近ハマっていることなのだが、穴にハマったり椅子から転げ落ちたりする犬やネコをみてバカだなぁーと思いながら笑うのが最高なのである。
勿論、可愛いとも思うのだけど。
そして二つ目の有意義に暇を充実させる方法は……。
サーッ! シュッ ボフッ。
全裸である。
俺は基本的に布をまとうのが好きじゃない。
服の肌触りも苦手だし、少しスースーする方がいいのだ。
これは流石に綾間さんに知られてしまうと拒絶されそうなので隠している。
ソファーにバスタオルを敷き裸のまま座って動物動画鑑賞を続ける。
なんて自由で清々しいのだろう。動物たちと優雅に草原を駆け抜けているようで心地よい。
綾間さんに裸は良くないと言っておきながらも、これは俺の密かな楽しみなのでやめられない。止まらない。
あ、コーヒー注ぐの忘れてたっけ?
ピーンポーン。ピーンポーン。
「はぁ、宅配?」
ガチャッ! タッタッスー
「お
「なんで勝手に入って来るんだよ!?」
「だって鍵開いてたから」
俺のことをお兄と呼ぶこの口が悪い小娘は、妹の
今は千花が通っている中学校がこの家から遠いため、千花は学校から近い祖父母の家で暮らしている。
「だからって、帰って来るなら連絡しとけよ」
「いいじゃん。ここ私の家でもあるんだし」
流石に妹とはいえ見られるのは恥ずかしいので、俺は一旦洗面所に駆け込み服を身につける。
リビングに戻ると千花は勝手に冷蔵庫からコーラを出してソファーで寛いでいた。
流石、
「それで最近学校は楽しいか?」
「は? お父さんみたいなこと聞くなし。それにしてもお兄以外に部屋綺麗にしてるんだ」
「まぁな……」
それもそのはず、綾間さんがいつも家事や掃除はしてくれているので、いつでも部屋が綺麗なのだ。
それに頼り過ぎるのも悪いので、俺も最近は時間があると手伝ったりしている。
「まるで誰かと暮らしてるみたい」
「そ、そんなわけないだろ」
「でもさ、前のお兄はこんな綺麗好きじゃなかったし。なんか部屋も女子の部屋みたい」
ん? ていうか千花は俺と綾間さんが同棲してること知らないのだろうか?
「なぁ、千花。父さんとは最近いつ話した?」
「一ヶ月くらい前だと思うけど」
「それじゃあ、最近俺の話しとかしたか?」
「なにそれ、するわけないじゃん。どうしたの?」
「いや、ならいいんだけど」
この様子だと多分俺に許嫁がいるということは知らないのだろう。
そうであれば千花にバレると面倒も増えるに違いないので悟られないよう気をつけないと。
「それで千花は何時に帰るんだ?」
「え、なに? お兄は私に帰ってほしいわけ?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
もしも今、綾間さんが帰って来ると何かと都合が悪いので、千花にはなるべく早く帰ってもらいたいのだけど、そう言うこともできない。
そして頭を抱え考え込む俺の横で、コーラを一気に飲み干し満足そうな表情をする千花。
「まじ陰キャ男子って謎だわぁ〜」
「おい、バカにしてるだろ。陰キャ男子は誠実で紳士なんだぞ」
「そんな感じだから彼女もできないんだよ」
許嫁ならいますけど!!?
恋人の一つか二つレベルの高い恋愛をしている俺には彼女なんて必要ない。
だって日本一可愛い許嫁が俺にはいますから。ハハッ。
「お兄顔キモ。ニヤつくなし」
はぁ、お前の口の悪さは誰に似たんだか……。
綾間さんを見習ってもらいたいものだ。
ガチャッ、ガチャ
「ん? お兄、誰か来たんじゃない? 玄関の方で音するけど」
「あっ……」
リビングのドアがゆっくりと開き、大きな荷物を抱えて入ってきたのは、日本一可愛いと俺が絶賛していた許嫁だった。
「幸太くん、この人誰?」
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