FOURTH Love

第27話  日常ラブコメに馴れていく俺

 最近の俺の一日は、隣で美少女が眠っている描写から始まる。


 朝、目が冷めてゆっくりベットから下りると、まず部屋の灯りを付けた。

 最近になるとだんだん外も冷えてきて日の出の時間も自然と遅くなってくる。

 日本は四季を感じることができるので、俺はこの国を結構気に入っている方だ。


 いつものように七時に起きて、いつものように一階に降り顔を洗う。

 前と少し変わったのは綾間さんと朝食を食べて、綾間さんと学校に通うこと。

 たったそれだけなのに、俺の高校生生活がだいぶん華やかになった。


 リビングで学校へ行く準備をしたらスマホを突きながらアニメ鑑賞を始める。

 これが最近の朝のルーティーン。


 スマホを突いているのでアニメの内容はあまり頭に入ってこないけど、テレビの音が聞こえるとなんだか落ち着くような気がするから。


 ソファーでダラダラ時間を潰していると二階から階段を降りてくる足音が聞こえる。

 これが毎朝の綾間さんが起きた時の合図だ。


 綾間優香。その子は俺の許嫁件クラスメイトの元国民的アイドル美少女。


 綾間優香は芸名を綾間凪咲と名乗り『MIXトラップ』でアイドル活動をしていた。

 でも突然の芸能界引退を発表し業界から姿を消した。

 だが半年後、色んな奇跡が重なった結果、なぜか俺と綾間凪咲(綾間優香)は一緒に同じ家で同棲を開始することになった。


 傍から聞いたらまさにラノベの設定みたいな話し。


 そして今は付き合ってもいないし正式な結婚もしてはいないがイチャイチャなのである。


 この間まではリア充カップルが歩いているのを見つけたら『リア充、爆発シテシマエ』と呟いていたほど羨ましかったのに。

 今では毎日、S級美少女と楽しい日常ラブコメを展開しているおかげで、そんな邪念も一ミリもない。多分。


 カチャッ!


「おはよう幸太くん」

「おはようぉぉぉ僕のぷりんせすー」

「えっ、頭打った?」

「……いや、ごめん。ちょっと邪念が……」


 今の『えっ、頭打った?』の時の視線がじょうじを見るような目つきだったんだが。

 これをイケメンがしていれば許してもらえていたのだろうけど。


「あ、そうなんだ。それで今日は何が食べたい?」


 話しが変わり俺も安心して答える。


「えっと……。カツ丼?」

「なんで!?」

「なんとなくかな」

「朝からカツ丼って、今から自首でもしてくるの!?」

「なんの自首だよ」

「元アイドルの下着を盗んだ罪とか?」

「してないわ!!」


 朝から高速素人漫才がまたしても勃発する。

 こんなくだらない会話も、今となっては当たり前のことのように感じてしまう。


 それは俺と綾間さんがお互いに馴れていっている証拠なのかもしれない。






           ◆





 ――朝からカツ丼が食べれるわけもなく、今日の朝食は綾間さん特製のブルベリージャムがのったフレンチトーストになった。


 一口サイズに切ってホークで刺し口に入れると、卵が焼けた香ばしい風味とバターと砂糖の優しい甘みがマッチしてむちゃくちゃ美味しい。


 こんなにも美味しいフレンチトーストは今まで食べたことがない。


「綾間さん!美味しい!」

「だよね!この味お母さんに教えてもらったんだぁー」


 綾間さんのお母さんかぁ……。


 今まで一度も話に出てこなかったけど。


「綾間さんのお母さんは今は海外で暮らしてるの?」

「……いや、お父さんがアメリカに行くのと同時に別れたんだぁー」

「そ、そうなんだ……」


 今のって聞いたらマズかったんじゃぁ……。


「でもさ、二人はお互い納得して別れたの。だから喧嘩とか浮気じゃなくて、それぞれ新しい人生を生きてみたいって」

「……」

「でも私はちょっぴり寂しいかな」


 俺と彼女はやはり少し似ているところがある。


 俺の父さんと母さんの別れ方もそんな感じだったし。

 でも、彼女の方が相当俺より苦労してアイドルして十六歳という若さで芸能界を去った。


 そして今度は俺と許嫁生活。


 人生の転機が多すぎて、俺なら爆発して頭がおかしくなっていたレベルだっただろう。


 でも彼女は俺と暮らしてもいい、こんな俺と一緒にいたいと言ってくれた。

 だからここで彼女を後悔させたくはない。いや後悔させない。


「俺、綾間さんが夫だと認めてくれている間は、後悔なんてさせたりしないから」

「なにそれ……。そんな約束できるの?」

「うん。自信はないけど」


 すると綾間さんは晴れやかな笑声をもらして可愛く笑った。


「あ! 幸太くん、時間まずいって!!」

「あぁぁああ!!ほんとだ!!」


 後悔させない。そんな事は無理だろうと二人共理解しているのかもしれない。

 だけどそうさせる努力くらいはしても損にはならないだろう。


 陰キャ男子の俺はますます彼女に馴れ、ますます彼女に惚れていく。



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