第18話  学校と家ではやはり俺への接し方が違う

「えへぇー。今日も幸太くんと一緒に登校だぁー」


 数分前まではそう言って無邪気な子猫のようにデレデレしていたのだけど。


「綾間さん、今日の日直は僕らの係だから黒板一緒に消してくれないかな?」

「あ、うん。そうですね……」


 何処かそっけないのが、今現在の綾間さん。


 家での綾間さんと学校での綾間さんは相変わらず違うな。

 それに家では敬語なんて使わないのに『そうですね』と距離を取っている感じ。


「いいなぁー。お前、今日も綾間さんと日直なのかよ……」


 隣からコソコソと、陽太が言ってくる。

 いつも恥じらいなく教室というパブリックな場所で問題発言を連発しまくっている奴のくせに。


「お前って、誰か好きな人とかいるのか?」


 少し気になったので聞いてみた。多分、ソシャゲのおっぱいデカいキャラか夢美恵ゆめみめぐだろうと思うが。


「それお前、前にも聞いてこなかったか?」

「ん? そうだっけ」

「俺の好きな女の子は、この前引退した綾間凪咲だよ」


 そういえばそんな話もしたような気がする。


「まぁ、そんなことはどーでもいんだ」


 すると陽太は唾を飲み込む素振りをし喉を潤してから話し始めた。


「幸太はいいよなぁー。俺、知ってんだぞ? お前がたまに綾間さんと一緒に楽しそうにして帰ってるの」

「は!? お前、帰り道逆だろ! なんでそんなこと知ってんだよ!」

「いや、たまにお前のこと着けてたからな」

「それバリバリの犯罪だからな?……」


 俺と綾間さんが二人で帰っているところを陽太に見られていた?。

 もしかしたら許嫁のこともバレているのかもしれない。

 もしそうだったら俺はなんて説明したらいいのだろうか。


 俺は一応確認をとっておくため、恐る恐る陽太に聞いた。


「お前、何か俺を疑ってたりすることとかってあるか?」

「いやねーけど。お前が綾間さんと付き合ってたことを、俺に今まで教えなかったってことに腹が立ってるけど」

「いや、付き合ってはない」

「は? じゃあなんで昨日も一昨日も一緒に下校してたんだよ!」

「いや、……アニメの話が合ったからたまに話しながら帰ってるんだよ」


 俺がそう苦し紛れになんとか誤魔化すと陽太はそれを信じてくれた。

 これからは今まで以上に注意していかないと何処でバレてしまうかわからない。


「なぁ、お前がアニメで仲良くなれたって事は、俺にも友達になれるチャンスがあるってことだよな?」

「いや、まぁ……。そう、なのか?」

「そりゃぁ、お前みたいな陰キャオタク男子でも仲良くなれてんだからな」

「陰キャオタクは余計だ」


 俺は仕方なく綾間さんにも相談して陽太対策を考えることに決めた。


 陽太には悪いけどここでバラすわけにはいかないんだ……。

 それに陽太は結構、口軽いから。





           ◆





「ええ! 嘘ついちゃったの!」

「うん……。ごめん」


 綾間さんが家に帰ってきてすぐに今日のことを全て話した。

 流石に俺一人では抱えきれないし、これは夫婦ふたりの問題でもあるから。


「まぁ、仕方なかったのはわかるよ。でもどーしよぉ……。私、男子と話すの得意じゃないんだけど」


 結構勝手なことをしてしまったことに罪悪感を感じる。

 それでも文句一つ言わず一緒に考えてくれる綾間さんはほんとに女神のような人だ。


 まぁ、夫婦だからなのかもしれないけど。


「それじゃあ私は幸太くんとアニメで仲良くなったって設定にすればいいんだね」

「うん。そうそう」


 すると綾間さんは大きく息を吸って吐いた後、こっちを見て言った。


「あぁ、なんだかアイス食べたくなってきたなぁー。チラっチラっ。今日は色々あって疲れたしなぁー。チラっチラっ」

「えっと……。買ってこようか?」

「いいのぉ!それじゃあ、ホーゲンダッツのチョコね!」


 今のは明らかに俺が『買ってくるよ』というのを分かっていて待っていたやつだ。

 でも今日は俺のミスで綾間さんに嘘をつかしてしまうことになったので、仕方なくスーパーでアイスを買ってくることにした。


「いってらっしゃい!」

「いってきます」


 その言葉を交わした時の綾間さんの表情には、先程のことを気にしているようには感じられなくて。俺の気持ちに心配はなくなっていった。









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