なんにもならない

@akmacl

なんにもならない

朝目が覚めて。宙を見ました。正確には天井を見ました。低めの天井。6畳程度の部屋。備えつけの家具もあるから4畳程度かもしれない。そういう時に狭いけど1人だなあとじんわり思うのです。私の朝の決まり事はまずテレビをつけます。くだらないコメンテーターが世の中に迎合するような、あるいは一部にのみ迎合するようなコメントをつらつらと述べています。このコメンテーターという生き方は自分を切り売りしているようで嫌にならないのかなと思いますが、彼らも仕事でやっているのでしょう。致し方ないことなんだと思います。テレビをぼんやり眺めた後は食パンを食べます。本当はトースターで焼けばおいしいけれど、開け閉めしたりするのが面倒でたいてい生食です。チョコクリームを塗りたくるか、マヨネーズを塗りたくってスライスチーズを乗せるの選択肢はありますが、今日はチョコクリームにしました。甘ったるさで口を満たしていないと、どうにもやりきれないような気がしたからです。安い1リットル120円のアイスコーヒーも飲みます。これも安い200円程度のプラスチックで透明なカップに氷をこれでもかと詰め込み、冷え冷えのアイスコーヒーを飲みます。砂糖もミルクもいれません。アイスコーヒーでは気持ちをキリリとさせたいのです。食パンを食べ終わった頃にタバコを吸います。マルボロのゴールドです。ここ1年はすっかりこのタバコばかりです。赤いマルボロよりはきつくなくて、かといってライトほどは弱くなくて、ここのところののんびりした日常には妙にマッチしているからです。タバコを1吸。アイスコーヒーを2口。くだらないコメンテーターの話をぼんやり聞いて。タバコを1吸。慣れたものです。タバコをやめられないのはこうして日常に溶け込んでいるからだと思います。吸い終わった頃に小便に行きます。場合によっては大便もします。事をし終えたら、あるいは事をしながら、歯磨きをします。事をするってどうしても卑猥に感じてしまうのは私だけでしょうか。どうしても性的な、いやらしい匂いを感じます。トイレとバスルームが一緒になっているつくりなので、そうした芸当が可能なのです。そして寝巻を脱ぎます。パンツも肌着も脱ぎます。そうして洗濯をし終えた新しいパンツを身に着け、仕事用に6連ハンガーにかけて連ねているワイシャツと肌着を来ます。ボタンは大概1つ2つ外れているので…ああ、やっぱり、1つ外れているのでつけなおします。ワイシャツを吸い込ませるようにスラックスを身に着けますたるんだ腹を少しへこませてベルトを閉めます。さあ、仕事に行くかとテレビを消して。タバコを消し忘れちゃあいないかと確認をして。財布を持ってスマホを持って。イヤホンをつけて。そんな朝でした。いつもの朝でした。

 いつも通り、いつも通りと思えば思うほどに、めまいがしてきそうなほどに、いつも通り事は運ばないものです。少し急な階段を降りきった頃に気づきました。ああ、目をつけるのを忘れた。どうりで世の中を正しく認識できないわけだ。嫌なことどころか素敵な未来も見えやしない。しかし、目を探そうにも私には目がないのだから見えやしない。どうしたものかと途方に暮れます。朝なのに。ああ、仕事に間に合う電車は8:40なのに。もう間に合わない。急がなきゃならない。急がなきゃならないのに私には目がない。まさに視野狭窄。さっき見たテレビはなんだったのだろう。そもそもどうやってここまで来たのだろう。私はなんなのだろう。へこませた腹も、外れたボタンも、部屋が広かろうが狭かろうが、目がなくちゃわからないじゃないか。そんな世界でも、アイスコーヒーの味はわかるし、マルボロはゴールドがいいし、くだらないコメンテーターの話はくだらないし、それには意味があって。外れたボタンをつけることにも、対外的には意味がある。そしてやはり天井の低さには辟易する。

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