北へ南へ編 その20 家につくまでが遠征です
商国より艦での帰路、特に海賊や海魔に襲われることもなく二泊三日の、のんびりとした船旅でエルドベーレに無事到着。
まぁ海の上を高速で滑走する物体に襲いかかろうとする海賊なんていないだろうけどさ。見た目赤いし新種の魔物が出たとしか思えないからね?ソースはすれ違った王国商船、一応光の王国旗を出しておいたけど遠目からでもわかるくらい蛇行したり船上で走り回ってたり慌てふためいてたからなぁ。
そして海の魔物、海魔に関しては海が広いからいたとしてもそうそう遭遇するようなもんじゃないらしい。船に被害を出すほどに大きく育った奴はそれなりに用心深いし数も少ないだろうし。
海竜素材とかクラーケンの骨(軟甲っていうプラッチックみたいな奴)とか物凄い欲しかったんだけど?
いや、発見したらサーラが即時に魔導砲を撃ちこむだろうから弾け飛んで回収出来なさそうだけれども・・・。
てことで久々のエルドベーレ、キルシュバウム王国帰還なのである!
「海とはもっと危険に溢れた場所だとお祖父様より聞き及んでおりましたのに、これほど快適な旅が出来ますのね・・・」
「フッ、私が貴女をその様な危険な場所に誘うはずがないではありませんか」
「はい、まるでお家にいるような船旅でした。それに、その、二人きりであのような・・・」
「私はそこそこ放置されていたのだがなっ!?ハリス、世の中には順番というものがあると思うのだがっ!?そしてその女、大人しそうに猫をかぶっているがそこそこいい性格をしているぞ!!」
嬉し恥ずかし大好きなお姉さんと相変わらずご機嫌斜めの黒い皇女様であった。
あと『二人きりで』のんびりと夕焼けをみつめたりはしたけどエッチなことはしてないのであしからず。
『そもそも帰りは商国から転移で帰れたんじゃね?』って?
いや、さすがに距離が遠いしこの人数になると・・・無理では無いかもしれないけど、もしもの『魔力の枯渇』で全身から血を吹き出したくないじゃないですか。魔導板さんが警告してくれるとは言え怖いものは怖いのだ!
一度『一人でならどこまで転移出来るのか?』くらいは確認しておくべきだな。
まぁ商都からじゃなく『商国の北の山脈の麓(つまり南都の南の山脈)』まで出向いてからなら南都まで転移をすることも出来たかもしれないんだけどね?
そこまで陸路を行くなら間違いなく船旅より数倍の時間がかかるしいきなり消えたら商国人に大騒ぎされそうだし。騒がれても別に気にはしないけど。
いかん、最近『どうせいまさらさっ!』思考が染み付いてきている・・・自重の心はとても大切!(するとはいっていない)
ちなみにその場所(商国の北の山脈の麓)に広めの土地を確保しておくようにとサムサールに指示は出しておいた。
帝国方面と同じ様にそのうちトンネルと言う名の迷宮を開通させる予定だから。
トンネルなんて作ったら商国の船を持ってる商人が潰れる?いや、さすがに海運の大量輸送力と黒馬車(荷台牽引モード)の4tトラック程度の輸送量では比べ物にならないと思うんだ。
鉄道でも通さない限りはそれほどの大量輸送、流通革命とはならないはず。
まぁまだまだ先の話なんだけどね?
南都の発展が見えない――と言うよりもよくわからない居るだけの住民を増やすメリットがまったく見えないから。
畜産業の人たちの移送以外はまた家族会議でも開いて相談だな。家族会議に毎回お義父さん(国家の重鎮)が参加してるし。もちろん目的は会議ではなく晩ごはんである。
てことで入港後、エルドベーレの港からラフレーズ伯爵家・・・ではなく先にディアノ商会に移動。
港で金貸しの兄ちゃんを見かけたから手を振っておいた。何だろう?人足でも仕切ってたんだろうか?それとも明るいうちから後ろ暗い取り引き?
見た目がアレだから完全にそっち系の人にしか見えないからなぁ、あの兄ちゃん。
ダーク姉妹を気にかけてやるくらい親切さんなのに。何かの際にはうちの領地に引き抜きたい人材である。
商館での小売などはしていないのにバタバタと忙しそうなディアノ商会の受付。
顔見知りの副商会長のおっちゃんに来訪を伝えてそのまま奥の商会長室へ向かう。扉を開くと書類仕事がとても似合わない、上品な衣装を身に着けた女海賊、ペルーサと目が合った。
「ドレスで仕事をする姿がとても似合わないな?」
「大きなお世話だよ!無事のご帰国、お寿ぎ申し上げます閣下」
「慇懃な態度が気持ち悪っ!?」
「ぶん殴るよ!?」
元気そうなペルーサに商国から同行してる外交責任者のハフィダーザ、商首とかいうよくわからない地位についたサムサールの孫娘であるトゥニャサを順に紹介、ついでにかいつまんで商国での『土産話』もしておく。
「相変わらず侯爵様はどこに行ってもむちゃくちゃしてるねぇ・・・」
「本人的には自分からは特に何をしたってのは無いんだけどね?だいたいは勝手に絡まれて勝手に相手が自滅してるだけで。なっ、勇者様御一行?」
「弟がご迷惑をおかけしまして本当に申し訳ございません!」
その場で二人でジャンピング土下座をする月見里姉弟。さすが姉弟、なかなかシンクロ率が高い。
とりあえず知らない人(ペルーサ)がドン引きした目で俺を見てるから立ってもらえるかな?それでなくともこの街では俺に対する風評被害がキツイんだから!
もちろん帝国で広がってる『ロリコン疑惑』じゃなく『目が合ったら商会を潰される』と言う根も葉もない話なんだけどさ。
その後は商会の状況の説明を受ける。売上の方は順調に増えていってるみたいだけど人、とくに中間管理職がまったく足りていないみたいだ。
もちろんディアノ商会としても人員育成を急いではいるようだけど・・・義務教育が無い世界だからなぁ。
読み書き算盤が出来るだけの人間すらあまりいないんだから仕方がない。
王国内、王国と帝国、さらに王国と商国。陸運事業の本格的な着手にはまだまだ遠そうである。
「んー・・・商会についてはこれまで通り、しばらくは塩と鋼の商いがメインになりそうだな。そういえばハフィダーザはどこに拠点を据えるつもりなんだ?エルドベーレ?それとも王都?」
「出来ますれば閣下のお側でと思っておりましたがご都合のよろしい場所で腰を落ち着かせていただきます」
「ふむ、ならば国王陛下に挨拶が終わった後しばらくここで商国商人の取りまとめをしてもらうかな。そういえば商国からの手当はどうなっている?」
「月に金貨十枚と聞いておりますが受け取り方法は・・・」
「なんだそれむちゃくちゃだな・・・ペルーサ、ラポーム家への支払金の中から支度金として金貨二百枚、毎月の手当として金貨五十枚を払ってやってくれ」
「畏まりました侯爵様」
「か、閣下、さすがにその様な大金をまだお仕えして間もない人間が頂くなど・・・」
そもそもおっさん二号は俺に仕えてはいないんだけどね?
「ハフィダーザ、金の心配をしながらまともな仕事は出来ないだろう?それに俺はこれでも一応侯爵様だぞ?吝嗇だなどと噂になれば恥をかくだろうが」
「閣下・・・お気遣いありがたく頂戴いたします」
「ああ、それでいい。そうだな、王国駐在外交官殿の着任を祝って俺が屋敷を用意してやろう。ペルーサ、港から近い使い勝手の良い土地はあるか?」
「早急にご用意させていただきます侯爵様」
屋敷の建設は王都から戻ってからで大丈夫だろうしエオリア父ちゃんに挨拶だけしてとっととおうちに帰るとするかな!
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