東へ西へ編 その13 うちの妹が人格崩壊レベルで性格が変わっている
何故だかわからないが皇女様に物凄いジト目で見つめられて少々困惑気味の俺。
ああ、あれか、サイダーか!殿下は俺と同じで甘いものが好きだもんね?
うんうん、わかるわかると頷きながらお姫様にもそっと新しいグラスを差し出す。
「いや、そう言うことじゃないのだけどな?」
「もしかしてコーラの方が良かったです?」
てか皇女殿下の後ろでこちらを見つめるお嬢様方が完全に獲物をロックオンしたゴブリンとかオークのそれになってるんだけど・・・。
見た目もソレ(下級妖魔)に近い人もいるしさ。クッ、コロせ!!
「てか姫様はお貴族様との顔つなぎはもう終わった感じですかね?なら俺はそろそろ退出しようかと思うんですけど」
「ふむ、それはそちらの娘と共にということでよろしいのかな?」
「全然よろしくありませんけど?てか俺、圧倒的に歳下ではなく歳上の女性が好きなんですけどね?具体的に言うと姫様のお母様くらいの。宜しければ一度お茶会など」
「私は今、卿を母とは絶対に会わせないと心に誓った!いや、それはそれでそこそこ問題だと思うがな?むしろ世嗣ぎの事を考えれば歳下好きの方が健全なのでは・・・ふむ、あれか、私に対して遠回しな『歳上の女性でもぜんっぜん大丈夫ですから嫁に来てください』アピールか?」
いや、俺まだ15歳なんですが。歳下となると、下手しなくとも一桁年齢になるんですが。
あとアピールとかセールストークは一切しておりませんので悪しからず。
余計な事をすると帰ってから『奥さん全員での圧迫面接の刑』に処されるからな!
「まぁそれはそれとして退出は少し待って欲しい、どうやら兄が到着したようだからな」
「殿下が?ああ、それで先程こちらのご領主が慌てて広間から出ていったんですか。しかし帝都からお越しにしてはお着きが少々お早い様なそうでもない様な」
どうやら王国方面に向けて馬車を走らせていたらしい。
相変わらずフットワークが軽いというか忙しない人だなぁ。
「ここでみなに嬉しい知らせを伝えたいと思う!なんとヴィルヘルム皇子殿下が我が屋敷に御出でくださった!みな、大きな拍手でお出迎えを!!」
しばらくして戻ってきたご領主(伯爵様らしい)の大きな声での紹介の後、万雷の拍手に迎えられて広間に入ってくる第二皇子。
何だろう・・・少し痩せた?いや、旅の疲れかな?
化粧で隠してるみたいだけど少し目元がくぼんでる気がする。
後でポーション(シャンプー用のやつだけど飲んでも大丈夫!たぶん)でも差し入れするか。
「皆、心よりの出迎え感謝する。此度の国難と言えるような魔物、亜竜の襲撃にも関わらず最小限の被害で済んだこと、誠に嬉しく思う!!そして」
まぁ襲撃と言うかよくよく聞いてみると貴方の妹さんパーティに責任の8割くらいは有りそうな話でしたけどね?世間一般ではそれをマッチポンプと言うんだぜ?
もちろん他言は一切しないけどさ。そう、お姫様が奇跡的ななんやかやでこの街を救ったのだ!いいね?
てか皇子、帝国貴族の一切合切無視してどうして俺の前に来るのかな?
俺の手を両手で力強く握り
「侯爵、いや、義弟殿と呼んだほうが良いかな?此度のヒュドラ退治、そして妹姫の救援、王族として、兄として、そして友として心からの感謝を!!」
広間がざわついてるのはBL的な空気を感じ取った腐女子がいたからではなく『よく知らない皇女のエスコート役の子供』だと思ってた奴がやたらと皇子と親しげだから、そして『侯爵』などと呼ばれたからだろう。
あと義弟ではないです。
隣で皇女が「侯爵だと!?・・・ふむ・・・なら私との婚姻に何の支障もないな・・・」などと呟いているけど忘れないでもらいたい。
俺と貴女は『政略結婚破棄同盟』の盟友であるということを!!
「で、殿下、そちらの男性は皇女殿下の執事とか護衛とか身の回りの世話とかそう言う者では無かったのですか?」
会場を代表してホスト役のナンタラ伯爵が皇子にそう尋ねる。
「うん?いや、こちらは・・・ハリ・・・卿はもしかすると・・・隠密行動の旅であったりするのかな?」
「いえいえ、特に家名まで名乗るような機会が無かっただけで隠してたと言う訳でもありませんよ?」
隠密の旅ってなんだよ。夜逃げかよ。いや、水戸黄門的なやつかもしれないな。
てか隠密で他所の国にきちゃったらそれもうただの密入国じゃね?
「そ、そうか、ならよいのだが・・・では改めて私から紹介させてもらおう!おそらく皆も噂にくらいは聞いたこともあろう!むしろ御婦人方は大流行りの演劇で知っている方も多いのではないかな?そう、あの黒竜殺しの英雄!そして王国侯爵、近い将来私の義弟ともなる・・・ヨウナソウデモナイヨウナ・・・ゴホン!『ハリス・ガイウス・ルシメル・ラポーム侯爵』その人である!!」
皇子の口上とともに場内から先程の5倍くらいのざわめきが起こる。そして隣で皇女殿下が物凄く面白い顔をする。
てかあの妙な演劇って帝国でも上演されてるのかよ!
アレって(某お嬢様方により)某歴史ドラマレベルで不必要なロマンスを捏造された完全なる黒歴史だからな!
そして義弟にはならないです。
いや、紹介とかされても別に俺からは何も言うことは無いからね?
とりあえず感じが悪くならないように微笑みながらそっと貴族的な礼だけしておいた。
さて、皇子とは無事会えたし?特にこのままパーティに参加してる必要もないので明日のお目通りの約束を取り付けた後は部屋に戻ってイチャイチャするか!・・・と思って部屋に戻ったら
「いや、何でさも『当たり前ですが何か?』って顔で俺の部屋に居るんだよ。自分の小屋に帰って?」
「・・・クーン・・・」
「そんな捨て犬みたいな空気感出しても居座らせないからね?」
メルティスとサーラの『何してんだこいつ・・・』って視線を物ともせずに床でわん子が丸まっていたので追い出した。
あいつ、どんどん神経が図太くなっていくな・・・ああ、エオリアも一緒に居たのか。
「疲れたから出ていって?」
「いや、先にあれやこれやの報告とかして欲しいんだけど!?そもそも僕、何でこんなとこにいるの?婚約者に叱られるより大事になってきてるんだけど?」
「知らんがな、むしろパーティに強制参加させなかっただけでも温情だと思ってほしいんだけど?そもそもエオリアが婚約者に叱られるのも先送りしてるだけで無くなるわけじゃないしね?」
場面は変わってこちらは夜会後の王族の2人。
「兄上!ハ、ハリスがラポーム侯爵で私の婚約者とはどう言うことですか!?」
「どう言うっていわれても・・・そのままの意味だとしか言い様もなかろう?あと婚約者ではなく『婚約者を目標にお友達から』だと伝えたよな?」
「その様な細かいことはどうでもいいのです!そもそもどうして脂ぎった中年の○ゲ貴族があの様な性的な空気を一切まとわぬ美少年に変わったのですか!?」
「まったくどうでも良くないのだがな?むしろそこが本質的な部分とすら言えるのだがな?お前からの手紙でも読んだがそれはどこからの情報・・・いや、間違いなく皇国からの妨害、偽装偽報の類だな」
「なんですって・・・くっ、兄だけでなく私まで騙すとは皇国め・・・許さぬ・・・どんな手を使ってでも叩き潰してやる・・・」
「それを信じるお前も一国の王族としては少々問題なのだがな!ていうか今さらだがそのドレスはどうしたのだ?見たこともない高級生地に丁寧な仕立て、いや、ドレスもだがその首飾り・・・迷宮よりの出土品・・・いや、待て!!その大きな闇の魔水晶を飾り立てるのは金ではなくヒヒイロカネではないのか!?」
「ふふっ、これは・・・ドレスも首飾りも私を気遣ったハリスからの贈り物です。ああ、妙に赤味を帯びた金だとは思っていましたがこれがヒヒイロカネなるものなのですね」
「侯爵は信じられんモノを贈り物にするな!?普通にソレの奪い合いで戦争が起こっても不思議のない宝物だぞ!?その量のヒヒイロカネ、武具に添加するとしたらどれほどの性能になるか・・・」
「・・・差し上げませんからね?」
「当たり前だ!むしろ絶対に無くさぬようにな?・・・ふむ、そう言えば王国の習慣では婚約者となるものに対する贈り物として指輪、腕輪、首飾りを送ると聞くな」
「そうなのですか?指輪に関しては帝国と同じですが腕輪や首飾りも?」
「ああ、その中でも首飾りが最上、それも相手を連想させる色の付いたもの、そして自分の名を入れたものが一番だと言う」
「さり気なく贈り物に黒い首飾り・・・それはもう私、完全に求婚されているのではないでしょうか!?ふふっ、殿方から求められる・・・やはりこれこそ女の幸せ・・・」
「うちの妹が人格崩壊レベルで性格が変わっているのだが・・・まぁ普通ならそうなるのだがな、あれだ、彼は少々そういった所を軽視しがちと言うかまったく気にしない所があると言うか」
「それは・・・もしかして『帝国で髪飾りを送る』事の意味合いも知らないかもしれないと?」
「・・・無いとは思うのだが既にどこかの娘に髪飾りを送った、あまつさえ自ら髪に飾ったなどと言うことが・・・?」
「あります」
「あるのか!?」
「はぁ・・・」
「はぁ・・・」
とても遠い目をする2人であった。
―・―・―・―・―
ちなみに『メルティスとサーラが帝都で普通の対応をされてお手紙もちゃんと渡していた』としたら、ハリスくんが迷宮都市に寄り道をしていないので皇女殿下は高確率で死亡していたと言う・・・。
あと帝国での髪飾りの贈り物の扱いは『貴女のことが少し気になります』程度の微笑ましいイメージですが上級貴族から下級貴族の娘に対するそれは『妾に寄越せ』レベルの威圧になったりします。
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