南の都編 その3 みんなでお墓参り

メルちゃん、サーラ嬢と2日続けてご実家にご挨拶、そしてその後宴会という流れで大量の人間に囲まれて非常に疲弊してしまった俺。

人が多いところで長時間とかやっぱり苦手だ。

今日は何もしないぞっ!!と心に誓いヴィーゼンのお家でゴロゴロする。

・・・いや、まぁすることはあるんだけどね?


何かって?もちろんヴィオラとドーリスのご両親にご挨拶である。

ヴィオラに関してはまぁ一緒にお墓参りだけなんだけどさ。

てか普通なら俺みたいな成り上がり者と結婚する娘の遠い親戚とかはこれ幸いと大量に寄ってくるんだけど俺に関してはそんな様子も一切ないんだよ。

そもそも実家の扱いがアレだからね?絶賛貴族社会から村八分中と言う。

関わるメリットよりも目を付けられるデメリットの方が圧倒的に高い人物と認識されているらしい。


まぁそんなことは置いといて・・・ドーリスである。

正直な所彼女との付き合いもそこそこ長くなっているのだが俺以上に家族の影が見えない不思議な存在。

初めて会ったときから准男爵邸で住み込みだったしさ。

てことでその辺の話をしようかと呼び出して


「・・・」

「・・・」


2人きりになってみたものの聞きづらいことこの上ない。

そしてエッチな目的で呼び出したんじゃないからそんな潤んだ瞳で見つめられても困ります。


「ドーリスはあれだよね?人魚姫とかそんな感じではないんだよね?」

「にんぎょひめ?と言うのはよくわかりませんがただのメイドですよ?」

「うん、メイドさんなのは知ってるんだけどね?」


逆にメイドさんなの以外何も知らないから困ってるわけで。


「えっとさ、ドーリスはもうすぐ俺の嫁になるじゃない?」

「はい・・・嫁・・・ふふっ、そうですね、ドーリスは御主人様のものになりますね」

「その前にほら、ドーリスのご両親にご挨拶をしておきたいんだけど・・・」

「両親に挨拶、でございますか?」


少し困った顔になるメイドさん。俺、特におかしなことは言ってないよね?


そして結果だけで言えば・・・ドーリスのご両親共に、既に亡くなられていた。

まぁあれだ、ドーリス、ヴィオラの腹違いのお姉さんだった。

お母さんはヴィオラのお母さんが嫁いでくる前に准男爵家で働いていたメイドさん。

ドーリス、最初に会った時とか警戒の仕方が完全に親猫みたいだったもんなぁ。

親猫ではなく姉猫だったとわけである。


「ちなみにお嬢様はお知りにならないことですのでなにとぞご内密に」

「うん、それは良いけど・・・別に言ってもよくないかな?むしろヴィオラも肉親が亡くなられたお父さん以外にもいたって知ったら喜ぶと思うし安心もするだろう?」

「私もそう思うのですがいまさら姉と名乗るのも恥ずかしいので」

「俺、一人っ子だったからあんまりその辺の機微はわからないけど・・・いや、そういえば俺にも兄が2人いたんだったな」


ちなみに日本にいた頃は姉と言い張るショタコンの叔母がいたのだが・・・俺がいきなり消えた後も元気にしているだろうか?

叔母のカレーの味が記憶をよぎり少し泣きそうになる。

・・・分かっているとは思うが叔母のカレーと言うのは叔母が調理したカレーのことだからな?妙な深読みはしないように。

胡椒と生姜以外の香辛料は買ったままで大量に在庫があるし今晩は異世界に飛ばされてから初のカレーにするかな!


てことでお昼からヴィオラとドーリスとミヅキと俺の4人で墓参りである。いや、別にミヅキはいらなくね?もちろん護衛の2人も付いてきてるから実質6人だけれど。

前の男爵とヴィオラのお母さんとドーリスのお母さんのお墓の前で手を合わせ、娘さんの面倒はしっかりちゃんと最後までみますと約束してきた。

どちらかと言えば面倒をみてもらってるのは俺の方なんだけどね?



そして屋敷に戻ってからはカレーの準備。

米はないので『野生米がありますが使用しますか?』えっ?

久しぶりに頭の中にこだました魔導板さんの声。


・・・

・・・

・・・


「えっ!?」

「おわっ!?・・・主よ、いきなり大声を出すのは止めよ!」

「ああ、悪い悪い」


あるの?米?買った覚えとかまったくない・・・いや、そもそも『米』じゃなくて『野生米』って言ったよな。


『湿地帯での植物の回収時に収納されたものがあります』


マジかよ!?

てか米って野生するんだ?まぁ植物なんだから最初は大概野生からなのは当然か。

いや、それ以前に食えるのかそれ?ふむ、食べられる・・・けど美味しくはないと。

ふふっ、しかし今の俺には出来ることがある!そう『品種改良』だ!

あ、改良してもそれ(今時空庫に入っている米と言うか種籾)が美味しくなるわけではないと、一度栽培しなければいけないと。


なんだこの上げて落とされた感じ・・・米・・・カレーには米・・・でもないや。

俺、カレーにはチーズナン派だったもん。チーズたっぷりで甘めのやつ。何の問題もなかったわ。


「てことでナンの下拵えー」

「相変わらずの百面相・・・主は年中情緒不安定じゃな」


よく言われる。


「てかミヅキはカレー、否、カリーって食ったことある?」

「なんじゃそれは?美味いのか?」

「・・・たぶん?」

「考え込まないといけないようなモノをなぜわざわざ作ろうとするのか」


いや、美味しい・・・よね?うん、美味いはず。


「ちなみにどんなモノなのだそれは?」

「んー、まず、見た目は茶色から焦げ茶色で」

「茶色から焦げ茶色で?」

「野菜が溶け込んでドロドロしてる」

「・・・我、ちょっと食欲が無くなってきたんじゃけど・・・」


いや、まぁ色味はね?聞いただけだとね?


「そして匂いは・・・強い刺激臭。鼻の奥がツンとするだけじゃなく目に来る」

「・・・それはあれか?本当に食べ物なのか?」

「むしろ国民食と言っても過言ではないらしい」

「どうして国民食なのにそこで『らしい』と一旦突き放したのじゃ・・・」


いや、嫌いではないしどちらかと言えば好きだけど毎日食うようなものでもないしさ。

毎日ラーメン食ってる人は聞いたことあるけど毎日カレーの人は知らないもん。

ちなみに俺が叔母さんと暮らしてた頃には週イチのローテーションで食べてた。


「最後に味は・・・辛い?苦い?」

「もうそれあれじゃろ!?完全にあれじゃろ!?我、それはたべない!!てか主はあれか!?幼女にあれを食べさせて喜ぶ感じの人か!?」

「おい、何となくお前が何を勘違いしてるのかわかるけどそれは禁句だからな!?絶対に口に出すなよ!?」

「シャーーーーーーッ!!」


出会って初めて蛇味(へびみ)を出したなこいつ!!

まぁ知らない人間(蛇だけど)が説明を聞いただけだと間違いなく実態は掴めないし調理も出来ない食べ物だよなカレー。

香辛料入れるから完成形が肉じゃがにはならないと思うけど。

いや、逆に中途半端に実態を掴めてしまうのが問題なのかも?


てことで魔導板さんに香辛料の配合をお願いする。

まったく食べたことがない人にいきなり辛すぎるのはきつそうだからフルーティな感じのチキンカリーにするか。


「・・・物凄い匂いが屋敷中に漂ってるんだけど・・・なんなのその得体のしれない・・・それ」

「確かに窓を開いていてもしばらくはお部屋の匂いが取れそうもないですね。いろいろな香辛料の香りでしょうか?匂いだけで汗がにじんできそうです」

「ハリス、お前のことは信じている。信じているが・・・」


「閣下、これはお食事でしょうか?それともプレイでしょうか?」

「シャーーーーーーッ!!」

「うん、全員一旦落ち着け。先に俺が味見しながら作ってるから何の問題もない、心配するな。あとサーラ、もしもプレイだったとしたらそれは受け入れてはいけないやつだからね?」


ドーリス以外、一斉に怪訝な顔をするメンバー。

それを無視していただきますする俺。

もちろんチーズナンだけではなくプレーンとガーリックナンも焼いておいた。


「久しぶりだからむっちゃうめぇ・・・チキンが口の中でホロホロと・・・」

「これは・・・何と言うか複雑な味ですね。香辛料にこの様な使い方が・・・いえ、そもそもこんな量の香辛料を使ったお料理、このお皿一杯でいったいどれほどのお値段に・・・」

「閣下!!辛いです!!あと甘いです!!よくわからないです!!」

「あんたたちは疑いなく食べるのね・・・って辛っ!?何これ!?物凄く辛いんだけど!?・・・おかわり」

「いや、ナンにつけて食えよ!どうして飲んじゃったんだよ!」


いきなり『カレーは飲み物』と言う真理にたどり着いた上で実践してしまったヴィオラ、語彙の少ないサーラ、そしてかかっている金額におののくドーリス。

その様子を見つめながら困惑するメルちゃんとミヅキだったが意を決した様に2人揃って目を閉じて口に入れる。


「・・・パンっぽいの?」

「・・・パンですね」

「いや、プレーンのナンだけ食ったらそりゃその感想しか出ないだろ・・・」


この後ミヅキとメルちゃん含めて全員で3杯づつおかわりした。


―・―・―・―・―


よし、紛うことなきカレー回だったな!!

てかバレンタインに何故カレー回・・・


ちなみに自分は匂いがなくても近所のインドカレーを想像するだけで発汗できます(笑)

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