新しい年編 その19 五大精霊の守護者、王国の剣、そして王国の盾

対皇国軍との戦場、赤い鎧を身に着けた美女が慌てた様子で指示を出していた。


「ちっ、このままでは右翼が押し込まれるのも時間の問題だな、左翼は持ちこたえているが・・・別働隊は後方の反乱貴族どもの突破は出来そうにないか!?」

「相手方が攻勢に出てくれれば隙きも出来そうなモノなのですが・・・奴ら、重装兵を前に押し出してジワリジワリと押し上げてきておりまして・・・」

「嫌な攻撃だな。あやつら・・・王国の恩も王国貴族としての矜持も忘れおって・・・」

「中央!白い奴が暴れまわっております!このままでは前線が突破される恐れアリ!・・・どうか、どうか殿下だけでも左翼方面に転戦して下さい!!」


転戦だと!?今更そんな格好を付けて何になる、正直に尻尾を巻いて逃げろといえばよかろう!!

いや、妾を生かそうと懸命になる騎士に八つ当たりするなど・・・貧すれば鈍すると言うやつか。


はぁ、こんなことなら出征前に無理矢理にでもあやつを押し倒して抱かれておけばよかった。

ハリス・・・最後に会うたのは5日前か。

向こうは上手く捌けていれば良いのだがな。


「近衛!!密集陣を組め!!これより正面、あの白い奴に突撃をかける!!」


左右の軍もギリギリの所で持っているだけで援軍の期待は出来そうもない。

それなら残った近衛騎士団全軍をまとめての突撃、これでせめてあの白い奴だけでも仕留められれば敵の攻勢も少しは緩もうというもの。

はぁ・・・とため息を付いて空を見上げる。


せめて、せめてもう一度だけでも会いたい・・・そして抱きしめられたい。

女々しい?当たり前であろうが!妾は愛らしい女の子なのだからな!!

・・・うん?

何、だ、あれは?


空を飛んでいた鳥・・・いや、あれは本当に鳥だろうか?

空高く飛ぶ何か。

妾が見つめる眼の前で、いきなりその『ナニモノか』が大きく変化、いや、変身した。


例えるならば


『巨大な光の怪鳥』


いきなり姿を表したそいつが今まで聞いたこともないような大音響の破裂音と共に目が潰れそうになるほど眩しい光を放ったかと思えばその光の羽根が一気に弾け飛び・・・地上に向かい高速で降り注ぐ。


王国軍も、そして皇国軍も突然のその轟音と光景に言葉を失い立ち尽くす・・・いや、本当に何なのだアレは!?!?

どうやら降り注いだ光の羽は地上の兵士に降り注ぎ、その身を貫いているようだ。

いや、貫いている等という生易しいものではなさそうだな。

体中を穴だらけにし、その穴から血を吹き出させて倒れ込む皇国兵がそこかしこに見えた。


「全軍、ぼうっとするな!!防御態勢を取れ!!」


慌てて命令を出すも・・・盾を翳したくらいで果たしてあの降り注ぐ光の羽に対して何かの足しになるのだろうか?

敵味方問わず、何が起こったかもわからない、いきなりの天罰のようなその光景に全員が屈み込み、震え、そして祈る。

そんな中で立ち尽くすのは、その光を見つめ続ける人間は妾以外に何人いただろうか?


・・・あれ?あの光・・・下に・・・降りてきていないか?


皇国軍本隊と王国軍本隊、妾の指揮する中央軍の間にゆっくりと舞い降りる眩い光、そして戦場に響き渡る聞き慣れた声


『我々はキーファー公爵家の臣!ハリス・ガイウス・プリメル・アプフェル伯爵とその配下の騎士である!西の帝国軍を殲滅の上、只今見参仕った!これより皇国軍に吶喊する!卑劣なる侵略者に死を、そして王国に勝利を!!』


・・・ハリス・・・ハリス・・・ハリス!?

そう、この声は間違いなくあやつの声。出来ることならば最後にもう一度だけでも逢いたい・・・などとくだらぬことを考えてしまった妾が一番望んでいた男の声。


「ハリス!!」


駆けつけてくるのが遅いわ!!

もう少しで妾がこの身をどこの誰ともしらぬ皇国人に辱められるところだったのだぞ!?

ハリス・・・ああ、ハリス・・・妾の愛しい男(ひと)・・・。


「五大精霊の守護者ハリス!!王国の剣、そして王国の盾!!」

「ハリス!!竜殺しの英雄!!」

「ハリス!!光の体現者!!」

「ハリス!!光の勇者!!」


「ハリス!!」「ハリス!!」「ハリス!!」




・・・ビックリしたわー、超ビックリしたわー・・・。

子グマちゃんに


『なんかこう地上の皇国軍に向かって派手な攻撃かましたいんだけどいいのある?』


って聞いたら『がおー!!』っていつものやる気のない声とは打って変わった元気な声で叫んだ後いきなり爆発するんだもん・・・。

あ、別に自爆したとかじゃないからね?

子グマちゃんは鼻息荒く『むふー』とか言って俺の目の前で浮かんでるし。


もうね、意味がわからない。

もうちょっとで抱えてる2人、メルちゃんとサーラ嬢を落としそうだったんだからね?

ちゃんと反省して?そして・・・何あの地上の惨状・・・。


血を全身から吹き出しながら倒れる兵士が大量に量産されてるんだけど・・・大丈夫だよね?フレンドリーファイアとかしてないよね?

てかこのまま降りていったら味方にも弓で撃たれそうだな。

弓矢なんて特に効きはしないけど、取り敢えず名乗りだけでも上げておくか。


うん、何か聞き覚えのある声が『五大精霊の守護者ハリス!!王国の剣、そして王国の盾!!』とか色々と叫んでるけどそんなモノになった覚えはないから。

そして英雄とか勇者とか呼ばれるのは非常に遺憾である。

あとそれに釣られた王国軍が俺の名前の連呼してるけど恥ずかしいから止めて欲しい。なんなの?全米が泣いたの?


「2人とも・・・いや、大丈夫なのかそれ?生まれたての子鹿みたいに足がプルプルしてるけど」

「お、お前、いきなり空を飛ぶとか、馬鹿じゃないのか・・・」

「さ、さすがに少しだけ・・・怖かったです!!そして少しだけ粗相してしまいました!!」

「その報告は特にいらないかな?2人とも帰ったらじっくりと丁寧に俺が洗ってあげるから我慢しなさい。むしろまたそこに挟んで洗って下さい」

「わ、私は別に粗相などしていないからな!?」

「わかりました!!マーキングでありますね!!」


さっきの上からの攻撃で王国軍に対峙していた皇国軍がかなりの数倒れたし、これで王国軍の方も一息ついて少しは体勢を整えられるだろう。

もちろん現状は両軍ともにパニック状態なんだけどな!!


てかさ、あれだけの高度から正確に誘導して敵兵だけ狙い、撃ち抜くとか自由な感じの起動する兵器かよ。

そしてウサギさんに続いて子グマちゃん、回復も攻撃もこなせるとか万能すぎかよ。

この国が精霊様を信仰する理由がちょこっと理解できたわ。


「じゃあ先に行くから2人も落ち着いたら怪我しない程度に頑張ってついてきてね?」


・・・何度か軽くピョンピョンと跳ねて地面を確認した後はむしろ俺が置いていかれる勢いで駆け回る2人だった。

てか剣から放たれるブレスって炎とかじゃなく溶かす系なんだ?

素(もと)が黒竜素材だからなのかな?


『酸のブレス』とか正義の味方は間違いなく使っちゃ駄目なヤツだろう。

2人の見た目的にはジャストフィットだけどさ。

ちょっと皇国軍の死体が放送出来ない感じなんだけど・・・。



そこからは逃げ惑う皇国軍を黒い鎧の2人が追い詰めていくと言う相手にとっては地獄の様な掃討戦となった。

いや、味方の王国軍にとっても上半身が溶けた死体とか縦に真っ二つになった死体とか見せつけられるのは完全に悪夢だと思うけどね?

2人とも一旦覚悟を決めてふっ切れてしまえば俺がドン引きするくらい容赦がないから・・・。

恐らく精神面では俺より何倍も強いと思う。


うう、汗の匂い、血の臭い、内臓から溢れる汚物の臭い。

似たような光景は何回、いや、何十回、何百回と経験してるはずなのに未だに慣れないな・・・。


「・・・ハリス、窮地に颯爽と現れた愛しい男との感動の再開の場面でその相手が嘔吐しているとか妾はどう対処すべきなのだろうか?」

「笑えばいい・・・いや、素直に背中をさすればいいと思うよ?そもそも俺って都会人じゃないですか?こう言うのはちょっと・・・昔から臭いモノが苦手なんだよ」


皇国との大勢(たいせい)が決したと見て反乱貴族共が慌てて逃げ出し、それを追撃・・・するほどの余力も体力もないのでとりあえず体勢を整えなおす王国軍。

まぁ逃げたからと言って少数で自分たちの少領に逃げ込むくらいしか出来ないんだけどね?果たしてそれにどれほどの意味があるのかは不明だけど。


戦場に漂う異臭に完全にグロッキー状態で、キラキラの真っ最中だった俺に声を掛けてきたのはもちろんアリシア王女。

真っ赤な全身鎧は土埃にまみれ、いつもの凛とした佇まいとは違い少々弱々しく見える。

いや、王女以外にも知ってる顔が何人も近づいてきてるんだけどね?


「ちょっと・・・キツイんで先に帰ってもいいです?」

「逆にどうしてこの状況で1人だけ先に帰れると思うのか?」

「嫌だな、もちろん1人じゃないですよ?メルティスとサーラも一緒ですから」

「そこは妾もと言うべきではなかろうか!?」


いや、だってあなたこの軍の総司令官じゃないですか?勝手に帰れるワケないじゃないですか?


―・―・―・―・―


50話に一度くらい訪れる唐突なシリアス回

作品初のキラキラはヒロインではなく主人公だったよ・・・


そして自分でもわかるシリアス展開時のクオリティの低さと言うか文章の下手さ加減よ

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