東の果て編 その33 0.003mm
面接も終わり採用者は徒歩でヴィーゼン(東の果ての男爵領な)まで歩いてきてもらうことに。発表はしたので発送は個人でお願いします。
さすがに知らない人間を転移で連れて行くことはないのだ、悪目立ちするからね?
・・・いまさらそれを言うのかって?確かに。
ほら、採用者には地に足をつけて国内を見聞してもらいたいしね?
まぁエルドベーレ(東の港街)まではフリューネ候に送ってもらえるし、そこからはディアノ商会に連れてきてもらえば・・・いや、そもそもヴィーゼンじゃなくて増えた方の領地(元ラモー男爵領)で働いてもらうんだから商会で待っててもらったほうが良いか。
男爵の屋敷とかは残ってるだろ、だぶん。
てことで面接終了後、少し御令嬢の方々とお茶会のようなことをしてから帰宅・・・しようと思ったら
「閣下!実家と話を付けてまいりましたっ!」
サーラ嬢が元気に走って戻ってきた。いやいやいや、話が早すぎるだろう!?これ、本当に関係者皆殺しにしてきたとかじゃないよね?
尻尾でもブンブン振り回してそうな笑顔できれいな姿勢で立つサーラ嬢の回りを一周して確認。
着衣に乱れ・・・有り、衣服に血痕の付着・・・無し。走ってきたみたいだから気崩れてるのは仕方ないか。
「お、おう、おかえりなさい?随分早かったな?」
「はい!家を出ると言いましたら家族にとても喜ばれましたから!これ、この様にちゃんと絶縁状も受け取ってまいりました!でも今までの養育費を払えと言われましたのでその分が借金となっております!金額にして金貨2000枚です!借金の証文に拇印を押してきました!期限は半年です!」
ハキハキと元気な声で応答してるけどその内容は結構ハードだと思うんだけど?
面接の時の話も含めてまとめると『元々お前は必要なかったから直ぐに出て行ってもらって大丈夫。でも育ててやった分の金は払え』ってことだよね?
そして養育費金貨2000枚とか自分の娘に随分とふっかけやがったな。尚且半年で金貨2000枚ってどう考えても無理じゃん?
・・・てかこの証文に『半年で支払いが終わらなければこちらの決めた相手の側室に入ってもらう』って書いてあるぞ?
あれだろこれ、言い方変えただけで奴隷売買みたいなもんだろ?
娘を追い出すだけじゃ物足りずに売り払うとか・・・。
うちの親ですら孤児院に放り込む程度の良識はあったのに無茶苦茶だな。
そして何となくこう
「もやもやするな・・・」
3日も待ってやっと見つけたたった一人の逸材をよくわからない奴の側室に売り払おうとか。
そう、この子には『単独で迷宮探索、否、迷宮制覇』と言う崇高な目標があるのだ!!
「どこの馬の骨ともしれない奴の側室なんかに盗られてたまるか・・・」
てか娘が跡取り息子より腕が立つってだけでそこまで嫌われるものなのかな?
剣術師範の家系とか言うよく分からない世界だしそんなモノなのかも知れないけどさ。
うん、やっぱり早めに家族と縁を切れって言っておいて正解だったかもしれない。
金貨2000枚程度なら今日持ってきた魔水晶の売上金・・・の前借りでどうにかなるだろうし、ちゃっちゃと精算させるか。
でもこの子にとっとと辞められると丸損しちゃうよな・・・。別にお金はいいんだけどどうにかして恩を売って
「出来ればずっとそばにいてもらいたいんだけどなぁ・・・」
まぁそのへんは本人の気持ち次第なところが難点・・・。
あれ?どうしてだかわからないけど室内の温度が下がってる気がするぞー?
部屋の中を見渡すと表情の抜けた御令嬢方と顔を上気させたサーラ嬢。
えっと、言いにくいんだけど・・・サーラ嬢、ちょっと鼻血出てるよ?
「わ、私はいつまでも閣下のお側でお使えさせていただきましゅっ!」
「お、おう?なんかわからないけど程々でいいからね?」
本人にやる気があるなら大丈夫そうだな。
てかフィオーラ嬢に
「ハリスはその子を嫁に迎える気なのかしら?」って瞳孔の開いた瞳で問いかけられたから
「繰り返しになりますがそんな気はありませんよ?おねぇちゃ・・・リリアナ様に続いてどうして何度も同じ様な事を聞かれるのでしょう??」って答えたら御令嬢方とメルちゃんから
『こいつ、どうしようもねぇな・・・』って目で見られたけど・・・一体どうしろっていうんだ?
さて、コーネリウス様から先払いって形で魔水晶の代金の一部、金貨2000枚を受け取り目指すはサーラ嬢の実家のシュペール准士爵宅。
爵位的にはこちらが圧倒的に上なので普通なら相手を呼び出すべきなんだけど・・・ここのお屋敷、俺の家でも勤め先のヴィオラ嬢の家でもないじゃん?
そしてなぜか今日は御令嬢方の『肉体的接触(スキンシップ)』が妙に激しくていたたまれないので出てきちゃった☆
もちろんくっつかれるのとか大好物なんだよ?でもほら、押されると引いちゃうじゃん?
恋愛経験0.003mm(極薄、むしろ薄すぎ)を舐めないでもらいたい。
味付きとかあるらしいけど余計に気持ち悪そうだよね?何の話かは言わないけど。
てことで先触れを出した後、公爵家で馬車だけお借りして(何故かアプフェル伯爵家の家紋入りの馬車が用意されていた)サーラ嬢とのんびり揺られながらご実家に向かう。
俺に使用人なんて居るはずがないので(むしろ俺が使用人なんだけどね?)御者はもちろんジョシュアじーちゃんだ。「ごめんね?」「ええんやで?」。
てか新品の高級馬車なのにクッション敷いてても揺れが尻と腰に来る・・・。
ちょっとくらい緩衝装置(サスペンション)があってもゴムタイヤ(空気入り)がないとこの揺れはどうしようもなさそうだしなぁ。
俺は殆ど馬車には乗らないからいいけど普通の貴族様は大変そう。ヴィーゼンには驢馬しか居ないし、あるのは『馬車(荷車)』だし。
先触れがちゃんと到着していたようでシュペール准士爵宅と言うか町道場?の前にはずらっと出迎えの人員が並んでいる。
よく知らなくてもいきなり伯爵様がお越しとかなったら大慌てだっただろうな。少し悪いことをしたと反省。
でも娘を小太りのおっさんに売っちゃうような連中だからな。気にすることも・・・
なんかこう、思ってたのとちょっと『ふいんき(一度は使っておきたいお約束)』が違うんだけど?
もっとこう、『金に汚い金満道場』みたいなのを想像してたんだけど普通の町道場。むしろ少々小汚いというか何というか。
あと並んでる人間に大小問わずやたらと怪我人が多い。青痣赤痣白赤包帯。赤い人、それ出血してるよね?大丈夫なのか?
とくに門の近くで立っている青年、寝てなきゃ駄目なくらいの重症だよね?
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