東の果て編 その32 ハリス・ガイウス・プリメル・アプフェル伯爵

「はぁはぁはぁはぁハリス!はぁはぁやったぞ!はぁはぁはぁ」


いや、一旦休憩しろ。必死過ぎてちょっと怖いから。

あと『面接の為の手合わせ』だって完全に忘れてるよね?相変わらずポンコツ可愛いすぎてキュンとしちゃいそうだわ。

ちなみにキュンとしたのは運動をした事により女の子の汗の匂いがしてるからだとかそんな理由では断じて無い。


・・・この国で体操服(ブルマ)流行んねぇかなぁ。


「・・・申し訳ありません閣下」

「いや、十分だったよ」


両手剣をだらんとぶら下げてショボンとしているヅカの人。こっちもこっちでなかなか良い。

ついつい耳元で「そもそも君が得意なのは盾を使った片手剣でしょ?」と囁いてしまった。彼女からはもちろん甘酸っぱい匂いがした。

そこそこのセクハラだなこれ。うん、驚いた顔も可愛い。

男爵家家臣というか俺の嫁候補に欲しいくらいである。


「採用で」


だからどうしてあなた達はそんな『ぐぬぬぬぬ』って顔をしてるんですか・・・。

なぜかメルちゃんがショボンとしてたので頭を撫でたら満面の笑顔になった。



てことで『ヅカの人』改め『サーラ・ジリウス・バーム・シュペール』、歳は18歳。

名前からわかるように一応貴族様・・・と言っても准士爵(所謂お金で買えるエセ貴族だな)家のご長女だ。

そしてシュペール家、『シュペール流』と言われる剣術の道場主らしい。それでも歳の割に強すぎるのは彼女の才能なんだろう。


面接会場(待合部屋)に戻り志望の動機を聞いたところ『竜殺し様をひと目で良いので拝見したかった。願いが叶うならば弟子にして欲しい。あと家の跡継ぎの長男を稽古でボコボコにしたら追い出されそうなので住み込み希望』とのことだった。


ああ・・・この人、ぼちぼちミーハーで脳筋なんだな・・・。

出会い頭から妙に好感度が高いのは『ドラゴンスレイヤー』に対する憧憬だったか。

英雄譚さながらに剣とか槍とかで倒したと勘違いしてそうだけど遠距離からドーンだからね?尊敬する要素ゼロだからね?


たぶん『竜殺しと美姫の恋歌』とか言ういつの間にかシリーズ化してる嘘八百の詩(本、演劇)が元凶なんだろうなぁ・・・。

異世界でメディアミックス作品を生み出すとか流石に元勇者だな!(乾いた笑い)


てかまったくの余談だけど、現在の俺の名前は『ハリス・ガイウス・プリメル・アプフェル伯爵』だったりする。

領地とか無いから地名は住んでる(住んでないけどさ)プリメルだな。そして利用はさせてもらってるけど伯爵という意識は全く持って・・・無い。


実家から絶縁されてるので父親の名前のところが寄り親のキーファー公ガイウス様のお名前になっているのが少々恐れ多いところ。

もちろん寄り親だからと言ってもお名前を使うなんてご本人の許可がないと絶対に出来ないからね?


そして名前を許されてるとか他の貴族から見れば完全に公爵家の紐付き通り越して身内扱いなんだよなぁ・・・。

さすがに親切で使わせて頂いてるのに断るとかもってのほかだし『父親いませんので無いです!』とはいかないから結局何処かの(上級)貴族様にお名前を借りないといけないしさ。


『寄り親以外に名前を使わせてもらう』イコール『そこの家の娘さんと婚約(何があっても結婚)します!』って意思表示になっちゃうし。

うん、まったくの余談だったな。続き続き。


「いやでも、これだけ有能な人間を追い出すとかシュペール家おかしくね?むしろ馬鹿じゃね?」

「それを言うならあなたを追い出したポウム家以上におかしな家はないと思うわよ?」


とフィオーラ嬢。

うちの元実家は仕方ないんだよなぁ。

ハリス君、当時は本当にお家の足引っ張って一緒に沈めようとするくらい無能だったんだから・・・。


「んー・・・追い出されそうならいっそ後腐れなく(後々身内とか弟子とか押し込んでこられるのも面倒だし)絶縁にでもなればなぁ・・・もちろん俺が最後まで(最低でも男爵家の家臣として)面倒見るのに」

「えっ・・・閣下が・・・私の面倒を最後まで見て(嫁に貰って)くださるのですか!?」


『ちょっと実家に絶縁されてきます、大丈夫です、いざとなれば族滅させてきます』などとウイットに富んだジョークを残して部屋を出ていったサーラ嬢。

うむ、行動的なのは良いことだな。目がちょっと狂気に染まってた気もしないでもないけど。・・・大丈夫だよね?

血腥いのは止めようね?そこそこの大事件になるからね?ちゃんと拳や剣じゃなく言葉でご家族と話し合おうね?


いきなりリリおねぇちゃ・・・リリアナ嬢に


「ハリスちゃんはあの子をお嫁さんにする気なのかな?」って瞳孔の開いた瞳で問いかけられたから

「違いますけど?むしろそんな話一切してませんよね?」って答えたら御令嬢方とメルちゃんから

『こいつ、マジで言ってんのか?』って目で見られたけど・・・何故なんだぜ?


その後の面接で(見た目も内面も少々濃い感じのサーラ嬢に続いて)目に止まったのは・・・うん、文武の両方ともに突出した感じの人材は特にいないな。

まぁ普通に村役場で使えそうな人間を10人ほど見繕っておけばいいか。

やってほしいのは押し付けられた元ラモー男爵領の管理だし。


まさに右から左に受け流すとはこの事だな。

てかあれだな、兵隊も居ないしサーラ嬢に道場から優秀で従順そうで紐の付いてない人材(そんな都合のいい人材がいるかどうかはわからないけど)を見繕ってもらえばよかったな。


とりあえず下級の妖魔しか居ない迷宮制覇を『サーラ嬢と愉快な仲間たち。またはサーラ嬢ひとりぼっち』に任せられればいいなぁ。

迷宮探索と言うか延々と歩き続けるのほんともう勘弁して欲しいもん。

あれは中に居たゴーレムが外に出てきてたからすることが無かっただけだってのはもちろん理解してるんだけどね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る