東の果て編 その11 准男爵家の御用商人もそう捨てたものじゃないだろう?
「いや、さすがにその金額を借入するとそちらの商会がお困りになるのでは?」
「ふっ、別に商会って言ってもあたしが勝手に爺さんの後を継いで続けてるだけの道楽みたいなもんだからね。潰れたら潰れたでそっちのお貴族様の領地で畑でも貰えれば生きて行くくらいどってことないさ。あ、もしも嫁ぎ先がないときはあんたに貰ってもらおうかね?」
おう、まかせろ!・・・じゃなくて。
「だいたい何なんだよこの連中は、あんな子供が今にも泣きそうな顔で困ってるのに馬鹿にして笑うなんてさ!!あんたら、商人としてでなく大人として恥ずかしくないのかい!!」
「ふんっ、それとこれとは話が別でしょう?我々にも家族はいるのですよ?それなのに潰れるだけの弱小貴族に肩入れして何になるっていうのです?」
「そんなことわからないだろう?そもそもそこのお貴族様が新しい商品の優先権をくれるって言ってるんだよ?」
またまたまた場内にどっと笑いが起こる。
「あ、あなたは・・・そんな何の確証もない話に乗って商会を潰すと・・・ふっ、ははははははははははははは!!いやいや、あなたのような商人さんならこちらの思うように儲けさせてくださるでしょうに、これで潰れてしまうなんて残念でなりませんよ!」
なんなの?ここはお笑いライブ会場なの?ってほどの笑いに包まれる場内。
うん、お姉ちゃん、いい人だな。いい人なんだけど・・・ビジネスパートナーとしては
「はぁ・・・ホントに馬鹿な連中だねぇ。そんなんだから大商会、いや中規模の商会にもなれないんだよあんたたちじゃ。そもそもあたしたちは『誰に声をかけられて』ここに集まってるんだい?伯爵様の『あの』ご次男様だよ?そのご次男様が手を貸している相手が何の能力もない消えるだけの弱小貴族?はっ、あり得るはずないだろう?」
「おお?えっと、こちらの御令嬢に同情して資金を融通してくれるって話では?」
「うん、まぁそれも・・・ちょこっとだけあるようなないような?」
「それ絶対に無いやつの言い草だよな!?ふっふふふ、いやいや、なかなかどうして、わざわざエオリア卿にお願いして商人を集めてもらった甲斐がありましたよ」
・・・合格だな。
てか最初からちゃんとわかって計算してやがったなこの人。
もちろん幼女に同情したってのも嘘でも無いんだろう。少なくとも笑ってる連中にキレてたのは本心みたいだしな。
芝居がかった態度で笑いながらパチパチと拍手をする俺。
どう見ても切れ者のナンバー2である。
「無能な人間はいらない、感情だけで動く人間もいらない、情の無い人間は最もいらない。あなたなら相互に利益をあげながら上手く付き合っていけそうだ。あ、でもしばらくは嫁を貰うつもりはありませんのでそこだけはご勘弁を」
「そうなのかい?それは残念だねぇ・・・なら、そちらさんの御用商人はあたしで構わないんだね?」
「もちろんこちらからお願いするよ。・・・ハリスだ、これからよろしく」
「こちらこそ、末永くお付き合い願いたいね」
彼女の元へ歩いていきしっかりと握手を交わす。
女海賊みたいな外見だからゴツゴツした手をしてるのかと思ったら普通に女の子の手だった。まぁ商人だし剣とか振り回してないもんね。
「ふ、ふざけるな!!ふんっ、あんな何もない荒れ地に新しく産業を起こすなど無理に決まってるだろう!!」
「ああ、そう言えばまだディアノ商会に扱ってもらう商品を紹介してなかったな」
「ふふっ、そうだね・・・ああ、ちょっと待っておくれよ?そうだねぇ・・・場所的に木材なんて普通すぎるし・・・うーん・・・鉄か銅の鉱山なんてどうだい?」
「大外れ。正解は・・・これだ」
素焼きの容器を二つ取り出してペルーサの前に並べる。
「これは・・・焼き物かい?」
「いや、そんな細かいボケはいらないから。中身だよ中身」
「白い粉・・・あんた、これ・・・」
「ほら・・・そっと舐めてごらん?」
小指の指先にそっと白い粉を付着させて舐め取る女海賊(商人)。
ペロッ・・・これは・・・青酸カリ!せっかく見つけた御用商人殺しちゃ駄目だろ。
「塩辛い・・・あんた!これ塩じゃないか!?いやいや、塩はまずいよ塩は!!さすがに密売には手を貸せないからね!?」
「えー、不味かった?かなり旨いはずなんだけどなぁ・・・」
「あんたもそんなボケはいらないんだよ!いいかい?塩は国で管理されてて仕入れは『ヴァンブス公爵家が管理する塩組合』からしか・・・なんだいその紙切れ・・・はぁ!?いや、これ本物なのかい!?もし偽物なら縛り首程度ですむ代物じゃないよ!?」
「知ってるよ、てかヴァンブス公爵様本人に頂いたものだよ」
てかヴァンブス公爵直筆のお手紙は何通か貰ってるけど会ったことが無いどころか顔も知らないんだよね。
出来ればこの先も会いたくないけど・・・今回色々と手配してもらったお礼には行かないといけないしなぁ。
「どうすればこんな東の外れに住む准男爵様が西の都の公爵様からそんなとんでもない特権をいただけるのよ・・・」
「ちなみに准男爵様はあちらのヴィオラ嬢で俺はただの政務官な。ああ、ついでにもう片方の焼き物も空けて・・・やさしく舐めてごらん?」
「あんたはヒヒ爺かい・・・んっ!?あ、甘い・・・こっちは砂糖じゃないか!?!?」
「まぁ砂糖の方は生産が少し先になるんだけどな。塩は現状輸入してる量までなら量産の許可も貰ってるしそちらの商売としてはどうにかなりそうだろう?もちろんすぐにはそんな量は作れないんだけどな」
「いや、輸入してる塩の量って見当もつかないんだけど・・・」
広間にいる人間全員の唖然とした顔とざわつき。
「ふふっ、准男爵家の御用商人もそう捨てたものじゃないだろう?・・・本日は集まってもらいご苦労、ディアノ商会以外の者は帰っていただいて結構。この先のお互いの発展を願う!!」
「お、お待ちを!!ご無礼は謝罪いたしますのでどうか、どうかお話だけでも!!」
「ペルーサ、奥にお部屋をお借りしてるから詳しい話はそちらで」
「わかったよ。するのは話だけかい?」
「・・・当たり前だ!ではヴィオラ様、参りましょうか。エオリア様も宜しければご一緒にいかがです?」
「ん?ああ、そうだね、面白い話になりそうだしご一緒させていただくよ」
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