北都・公爵館 その10 火と水が合わさって・・・
さて、精霊・・・様も無事に戻り(最初から何処にも行っていないが)一安心の公爵家。呼び出されたついでに昨日からお願いしようと思っていた話をする。
「あの、差し支えなければお姫ひぃさまのお風呂とトイレを見てみたいのですが」
「あなたはなぜそれを見るのが差し支えないと思ったのです!?そ、そんな未婚の女性が殿方に肌を晒す、あまつさえ排泄行為を見せるなど。いくら婚約者と言えども出来るはずがないでしょう!!」
「貴様、なんと破廉恥な・・・」
あれ―?何言ってるんだろうこの子達?
・・・
・・・
・・・
あ
「いえ、違います!誤解です誤解です、お姫さまの入浴姿とお手洗い姿を見せろと言ってるのではなくてですね!お屋敷にあるお風呂とトイレの魔道具を見せていただきたいと!魔水晶がどのように使われてるのかが知りたくてですね!」
わたわたと言い訳する俺。うん、風呂はいいけどトイレ姿を見せろって言ったと思われるのは・・・流石にド変態だからな・・・。
まぁ女の子に向かって『風呂はいい』などということも絶対に無いのだが。
「もちろん理解してますよ?」
「ならたちの悪い冗談は止めてくださいね?公爵令嬢にお風呂を覗かせろなんて面と向かって言うとか自分から十三階段駆け上がる自殺志願者ですからね?後どさくさに紛れて婚約者とか無茶苦茶な事言うのは止めてくださいね?」
「プクー」
「クッ、可愛く膨れても流されないですからね!?まぁ冗談はさておきですね、もういろいろやらかしてるのでぶっちゃけますけど自分のお風呂が作りたいんです!毎日入りたいんです!トイレも必要なんです!精神的にいろんなモノが削られるんですっ!!」
「わ、私も見せないからな!」
メルちゃん、その話はもう周回遅れなんだ。でも何を妄想してるのか真っ赤になって俯いてるの可愛い。あっ、ふんどしいる?
てことで特に問題なく(?)公爵家のお風呂とトイレの見学会である。
まぁトイレは魔道具でも何でも無く、原始的和式の上部が『穴の空いた椅子』になってるだけだったけど。それもツヤツヤした石製の。
個室用はその椅子の部分のみ。大人のおまるだな。用をたした後は内蔵されている壷の中身を捨てるタイプ。
てか冬場とかお尻冷たすぎない?あれか草履を懐に入れてた(と言い張ってるけど尻に敷いてた)秀吉みたいにメイドさんに『トイレで座る担当』みたいなのがあるとか?
何そのある意味拷問としか思えない担当。
湯船も部屋に置くタイプ(猫脚の付いてる陶器製のアレ)ではなく家族用の風呂場があるみたいだ。
ちなみにお風呂の見た目はモザイクタイルで装飾された『広さも内装も昭和の民宿の浴場』みたいだった。
浴槽の大きさは(日本の)一般家庭で使ってるヤツの三倍くらい?
「ふむ、この蛇口みたいなところとあの網目になってるカゴみたいな物の中に水と火の魔水晶をセットするのかな?」
「そうですね、水魔法か火魔法の使い手が魔力を通すとそれぞれの魔水晶が効力を発揮します」
「思ってたより手間がかかると言うか原始的と言うか。どうせ魔法使いを使うなら魔法でお湯を出したほうが早くないですか?」
「・・・水魔法と火魔法の両方が使えるような大魔道士にお風呂当番をさせろと?」
大魔道士?・・・ああ、二つの属性が使える人間はそんなに居ないのか・・・。
いやいやいや、前の(異)世界の魔法使いにそんな制限無かったぞ?個人の得手不得手はあっても全く使えないような属性は無かったし。
そして俺、属性別魔水晶を作る時に色んな魔法適正(魔法スキル)があるの全部フィオーラ嬢に見せちゃってるぞ?
「とりあえず試しにお湯を張ってみてください」
「お、俺、低ランクの土魔法使いですので出来ません?」
「私と出会う前まで遡らなければそんな戯言は通りませんよ?」
クッ、時魔法覚えなきゃ!てか『時空庫』も『空間魔法』も有るけど時魔法はたぶん無いんだよなぁ。
ちなみに転移魔法は『闇魔法』と『空間魔法』のランクを上げたら取れる。うん、まだ取ってないけどいつでも取れるんだ。
お湯かぁ・・・。
「しょうがないにゃぁ・・・いいよ?」
仕方なくお風呂にお湯を張ることに。
水魔法と火魔法と魔法合成で出来るからね?ちなみに氷魔法はあってもお湯魔法は無い不思議。
「魔法合成、水、火、42度のお湯、・・・100リットル?」
てかお風呂のお湯の量とかわかんないんだけど?何となくキリのいい所で100って言ってみたけどさ。
そう言えば俺、普通に(この世界のスキルで)魔法らしい魔法使うのって初めてじゃないかな?
なんとなく突き出した手のひらの先に浮かび上がりクルクルと回りながら大きくなっていく水(お湯)の玉。そっと浴槽に降ろしてみるも
「足湯どころか足首くらいまでしか溜まってねぇな・・・魔法合成、水、火、42度のお湯、1000リットル」
先程よりも大きな水の玉を浴槽に入れる。うん、ちょこっと(そこそこ盛大に)溢れたけどお風呂のお湯はなみなみと入ってないとな!
「ちょっと浸かりますので出ててもらっていいですか?」
「何故いいと思ったのですか?」
だって、お風呂、折角お湯入れたのに・・・入れたのにっ!
「うううううう・・・」
「泣くほどのことなのですか!?」
はっ、いかんお風呂への郷愁ノスタルジアで自制が効かなくなってた。
「まぁあなたも家族の一員なのですからここで入浴するのはかまいませんが」
「ご遠慮いたしますサー!寮でメイドさんと一緒に入らせていただきますサー!」
「メイドと・・・一緒に入浴?」
「一緒って言っても『一緒(のお風呂を使用する)』ってだけで『一緒(ピンク色漂うサービスタイム)』って意味じゃないですからね?」
「伝えたいことがまったくわかりませんが」
ちゃんと行間とか読まないと!いや、たぶんこのお嬢様なら分かってるはず。そして絶対に俺は家族の一員ではない。
『従業員は家族』とかそう言う意味じゃ無さそうだしな!そう、色んな意味で絶対にこの風呂には入ってはいけないのだ!
まぁ魔道具の確認は出来たしヨシ!水を溜めてから温める感じでシャワーも無い使い勝手の悪そうな風呂だったけど。
後は・・・体を洗うのはあの色の悪い石鹸みたいなやつかな?
クンクンクン・・・油っくさいなこれ・・・ちなみに俺はボディソープじゃなく石鹸派、それも牛○石鹸の赤箱派だ。
「あああああ、あなたは何の匂いを嗅いでるんですかっ!?」
「何って・・・石鹸ですよねコレ?」
「そうですけどそう言う意味ではありません!」
ならどういう意味・・・ああああ!?
「もしかして・・・コレ・・・公爵閣下がご使用の?」
「父は王都ですから違います!」
「なら大丈夫ですね」
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