北都・公爵館 その8 消えた精霊様!!

 特に寝間着などは着ていないので下着の上からフィオーラ嬢に買ってもらった上等な服を着込み彼女の元に向かう。

 文面だけだとちょっとした恋人同士の様だがただの雇用主と社畜である。いや、恋人同士ではなくヒモと駄目男に引っかかったお金持ちか。

 勝手知ったる他人の家――まぁ職場で迷うのはカッコ悪いからね?――お屋敷の奥、お嬢様の部屋の扉の前で待機しているメイドさんに到着の連絡と取次をお願いすると直ぐに室内へと通された。


「おはようございます御主人様。お呼びと聞き参上いたしました」


 今日のお呼び出しはお仕事なのでキッチリと跪き頭を垂れて挨拶、声がかかるまでそのまま待機する。

 てかチラッと見えたお顔がかなりお疲れ気味みたいだけど昨日はあんまり寝れなかったのかな?


「はやかったわねハリス。・・・大変なことが起こったのよ」

「言伝の方(Aさんだな)より精霊様の事で御用と聞きましたが」

「ええ、そうなの。・・・精霊様が・・・精霊様が・・・いらっしゃらないのよ!」

「居ない・・・ですか?お嬢様の頭の上に乗っていた精霊様なら昨晩より私の部屋で好き勝手されておりますが・・・」


 そう、壁をすり抜けておやつを食べてそのまま寝やがったからなあいつ!

 おかげで俺も抱き枕効果で疲れも取れて元気ハツラツだよ!


「えっ?」

「えっ?」


 そんなキョトンとした顔でこっち見られても『物凄く可愛いですね』くらいの感想しか無いよ?


「・・・えっと、あなたの部屋に」

「はい、私の部屋に」

「精霊様が?」

「精霊グマが」


「何故?」

「いや、知らないですけど。いきなり入ってきて光の魔水晶食い散らかして寝ましたけど」

「ちょっと情報量が過多なので待ってもらってもいいかしら?」

「??」


 簡潔に話したよな?情報量なんてむっちゃ少ないじゃん?


「精霊様は昨日の夜からあなたの部屋に居たのね?」

「はい、壁を突き抜けて現れたので物凄く驚きました」

「精霊様は扉が無くとも出入りできるのですか・・・」

「よくは分かりませんが精霊ですから壁抜けくらいは出来るみたいですね」


 だって『精霊』、霊が入ってるから壁とか屋根くらいはすり抜けそうじゃん?

 でも普通に触れるしな・・・やっぱり謎生物だな。


「そしてあなたの部屋にあった光の魔水晶を体内に取り込んだと?」

「取り込んだと言うかカリカリとかじってましたね」

「なぜあなたの部屋に光の魔水晶なんてあったのですか?」

「・・・最初から明かり代わりに・・・」

「置いてあるわけがないでしょう!!」


 そんなの何かの手違いで置いてあるかも知れないじゃん。


「それでその後あなたの部屋で寝ていたと?」

「口を開いて大の字で」

「そもそも精霊様は睡眠が必要なのでしょうか?」

「クマですしもしかすると冬眠もするかもしれませんよ?」


 あれだぞ?熊って冬眠からあけるとう○こが固まって○門が詰まってるらしいぞ?で、その詰まりを取るために蜂蜜を舐めるとか。舐めるより塗ればいいのに。

 ちなみにうろ覚えの話なので他所で自慢気に話すと恥をかく恐れがあるから注意な。


「あなたはどうしてそのまま一緒に寝ていたのですか?」

「見た目通りモフモフしていてとても気持ちのいい肌触りでしたので」


「・・・」

「・・・」


「さ、昨晩いきなり精霊様が祀られている部屋からいらっしゃらなくなり今まで大騒ぎだったのですよ!?」

「そ、そりゃ犬や猫でも散歩くらいはするでしょうし・・・」

「精霊様は愛玩動物ではありません!!」


 えー・・・見た目ペット以外の何物でもないじゃん・・・。


「公爵家存亡の危機と言っても過言ではない状況であなたは・・・。私がこんなに精神を擦り減らして精霊様の探索をしていたと言うのに呑気に一緒に寝ていたと・・・」

「いえ、その、寮の方にはまったく情報が伝わって来ていませんでしたので」

「当たり前です!精霊様が消えたなど国家規模での秘匿情報ですよ!?」


 いや、ダブルの意味で知らんがな・・・。てか朝からメイドが伝えに来たじゃん。居なくなったとは言ってなかったけど。

 あのクマ、そこまでの重要人物、いや、重要精霊なのか。

 お疲れ気味でも気丈な感じで立っていた体勢から崩れ落ちるように椅子に倒れ込むフィオーラ嬢。


「よ、よかったですね、精霊様が見つかって」

「・・・」


 ジト目頂きました。


「・・・私はとても疲れました」

「ご、ご苦労さまであります!」

「なのにあなたからとんでもないことを聞いてしまいました」

「あー・・・な、何か・・・言いましたかねぇ?」


 さらっと話したことなんだからそんなに気にしなくていいんだよ?

 ほら。「てゆーかーカラオケ行かね?」みたいな感じで流そうよ?


「とぼけても無駄です光の魔水晶ですなぜあなたの部屋にその様なものがあるのですかそもそも精霊様が視えることだけでも驚きですのにあなたはどれだけ私をビックリさせれば気が済むのですかそれに長年の付き合いがあるはずの私より精霊様と仲が良いのは納得いきませんあともう絶対に逃しませんよ?」

「早口過ぎてちょっと何言ってるのか聞き取りにくいです。それと最後の方に不穏当な発言があったような・・・」


 一晩夜ふかししただけでヤンデレ化とか勘弁して欲しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る