王子(変)

柊さんと談笑した後、俺は部屋の奥で捕まっている最後の一人の元へ向かう。


ちなみに、RIZINのメンバーは4人だ!

元々は5人いたのだが、一人が病気になり辞めてしまったので、それ以来誰も入れていないそうだ。


俺は、出来る事ならばそのまま放置して置きたいバカの縄を仕方なくほどくと、バカは俺を見てすぐに立ち上がり


「やあ木村君。久しぶりだね!」


と俺の前で片膝をつく。いわゆる王子様ポーズだ!


クソッ!!

もの凄くムカつくが、残念ながら本物の王子のように見える。


俺は嫌々ながら挨拶をする。

「久しぶりだな有栖川」


この男の名前は「有栖川千尋」19歳

長い茶髪と中性的な顔立ちが特徴的の男だ。

有栖川は、RIZINの中でリューに次いで歌が上手く、ダンスやトークなんかも一流で、よくバラエティーや音楽番組なんかで司会なんかを任されている。そんな有栖川に俺も最初は楽曲の提供をしたかったのだが、コイツと会ってからその考えは消えた。


何故ならば・・・



「もう、そんな他人行儀な名前じゃなくて千尋って呼んでくれよ!僕はいつだって君にならば、この体を差し出しても良いと思っているんだから!」


と言いながら、指で俺の首筋をなぞって来やがった!


ゾク!!


俺は全身に鳥肌が立ち、反射的に有栖川を突き飛ばすと有栖川が


「京君は可愛らしいね!ほら僕の胸に飛び込んでおいでよ」


有栖川はそう言いながら両手を広げている。


ほらこれだよ・・・


コイツは、男だろうが女だろうが自分の気に入った人ならば、容赦なく喰ってしまうヤバいやつだ!!

かくゆう俺も、初対面でいきなり「僕と一晩の熱い夜を過ごさないか」と言われて、有栖川を本気で投げた。

そしたら今度は、俺に投げられた事でMに目覚めたらしく、出会うたびに俺の貞操を狙ってよくホテルや自宅なんかに誘ってくるのだ!


本当に勘弁して欲しい!!


いくら見た目が良くても俺にそんな趣味はない!!


「・・・」


基本俺は、有栖川と話すとき必要最低限の事以外では沈黙を貫く。


すると有栖川は


「黙ってしまうなんて、さては照れているのかな?ふふふ、恥ずかしがり屋だね君は!それより、今日のライブが終わったら一緒にホテルに行かないっグハッ!!」


有栖川が話していると、途中で柊さんが思いっきり腹を殴り、有栖川は膝をついて悶絶している。

俺は、そんな柊さんに対して


「ありがとうございます柊さん」


お礼を言うと、柊さんが


「気にしないでくれ木村。こっちこそ本当にすまん!」


逆に柊さんに謝罪させてしまった。

すると、立ち上がった有栖川が


「なにをするんですか昇さん!せっかく京君を誘おうと・・・あっ!まさか昇さんも京君を狙って!?ダメですよ!いくら昇さんでも京君は譲りませんからね!」


と検討はずれの事を述べ始めたので、柊さんは


「おい有栖川!お前これ以上木村に迷惑をかけるんじゃねぇよ!大体お前はいつも手当たり次第に男でも女でもちょっかい出そうとしやがって!少しはこっちの事も考えやがれ!」


そう、有栖川が暴走した時は基本的にマネージャーの香取さんか、柊さん辺りが有栖川を抑えているのだ。


(でもまぁ、何気に有栖川の奴も最後の一線は超えないんだよなぁ。俺の貞操は奪おうとしてるけど)


柊さんに叱られている有栖川の元に、今度は加賀美さんが近づいて話しかける。


「ほら千尋ちゃん!昇と木村君を困らせたら、め!だよ!分かった?」


加賀美さんは、有栖川の前で人差し指を立ててながらそう言うと、笑みを浮かべている。


「はっ、はい!すいません照さん。気をつけますから、その笑顔はやめて下さい!お願いします」


有栖川は慌てて正座になって謝る。


なんで有栖川がここまで加賀美さんにビビっているのかと言うと、実は加賀美さんは見た目に反して、高校生の時に空手の全国大会で何度も優勝しており、ジュニアオリンピックで世界2位になったほどの人だったりする。


なので、リューが言うには怒るとメッチャ怖いらしく、一度有栖川が加賀美さんの拳を受けて、5メートル程吹っ飛んだらしい。

幸い内臓は無事だったが、骨を2本骨折して以来、有栖川は加賀美さんに頭が上がらないそうだ。


正座している有栖川を見て、みんなで笑っていると、扉がノックされた。


コンコン!!


「失礼しまーす!お時間になりましたのでお願いしまーす!」


と、スタッフが入ってきてそう言うと、先程とは打って変わって、緊張感のある雰囲気になった。


俺がリューの方を見ると、リューはさっきまでの笑顔と違って、その顔はまさに真剣そのものだった。


(これがプロか・・・)


俺がそう思っていると、香取さんが俺の肩を叩いて


「それでは木村さんも観客席の方へ行きましょうか!」


「ええ、そうですね」


「ではご案内しますね」


俺は香取さんに促されるまま、観客席へと向かう。


するとそこは、ステージの目と鼻の先でいわゆるVIP席だった。


周りを見ると、ファンの女性達が今か今かと待ち望んでいて、何だか俺までソワソワして来る。


そして、ライブ開始を告げるクラッカーの音が響き、リュー達がステージに現れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【RIZIN】メンバーあだ名(非公認)

ファンが勝手に付けたあだ名で、ライブでファンが自分の推しに向かって、あだ名を叫ぶ事がある。


氷室龍一  → 「龍様」


有栖川千尋 → 「王子」


柊  昇  → 「昇兄」


加賀美 照 → 「照君」


香取さん → 「お父さん」(龍一が考えた)

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