第3話

 何度彼が死ねば良いと願っただろう。彼は娘の父親では無い。私の配偶者でもない。

 高校を卒業して、カラオケ屋でバイトをしながら一人暮らしをしていた私は、客で来た男性に声をかけられ付き合う事になった。

 彼は住んでいたアパートを解約して、私の部屋で一緒に住むと言ってくれた。

 まだ若かった私は、このまま彼と結婚するんだろうと、漠然と思っていた。

 親はあまり乗り気では無かったが、私には将来幸せになるという確信があった。

 だから、彼のする事は一切拒む事はなかったし、そうする事で更に愛して貰えていると感じていた。

 そんな時間が数ヶ月たった日、私は妊娠した。彼に告げると喜んでくれた。

 親は良い顔をしなかった。妊娠した事が分かっても、彼から籍を入れる話しがないからだ。

 でも私は知っていた。以前よりも不規則な仕事に忙殺されていりのは、私たちの為だという事を。籍を入れていない事にすら気が付いていないくらい頑張っているのだと。だから、彼の仕事が落ち着いたら私から話をすれば良いと思っていた。


 ある日、彼は帰って来なかった。彼が何と言う会社で働いているか私は知らない。それどころか、共通の知り合いもいない。

 その時になって私は、彼の事を何も知らない事に気が付いた。

 娘を出産した私は、夜間保育に子供を預けて働いた。費用は高かったが、背に腹を変える事が出来なかった。

 その仕事先で出会ったのが、今同棲している彼だった。私の境遇を呆れる事もなく、真剣に聞いてくれた。この人とならやり直せると思った。幼い子供と二人きりで生きていけるほど私は強くなかった。誰かに必要とされたかった。誰かに支えて欲しかった。


 彼は娘が鳴き声を上げるたびに不機嫌になった。その都度私は、娘が泣き止むまで近所の公園などで時間を潰し、部屋に戻る。

 そのうち彼は私を罵る様になった。高卒でシングルの私なんて、誰ももらってくれない。出会って直ぐの男と同棲する様な女は汚れている。デブ。

 彼は酒を飲むとすぐに寝て、翌日にはその時の記憶を飛ばしてしまう。

 私は、少しづつ自分が存在してはいけない人間なのだと、思い始めていた。

 それでも、こんな生活でも生きて行こう思うのは、娘が私のたった一つの希望だったからだ。

 私の顔に全く似ていない彼女が笑うたびに、せめて中学を卒業するまでは頑張ろうと思えるのだった。

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