第25話 彼女なんだから
「えへへー、雅君雅君」
「な、なんだよ朝から」
「んーん、呼んでみただけー」
昨日、リアラと復縁した。
でもその日は泣き疲れたのかリアラは俺が風呂に入ってる間に寝ていて、結局付き合ったことへの余韻に浸る間もなく。
そして翌朝目を覚ますと、笑顔でリアラが俺を起こしてくれた。
「リアラ、俺たちのことなんだけど」
「え、もしかして婚姻届出しにいくとか? で、でもそれはまだ早いというか」
「……そうじゃなくて、親父さんにきちんと説明しておいた方がいいんじゃないか?」
俺たちの関係は婚約者ということで通っていて、親父さんを含めた周囲の人は皆、俺たちが恋仲だと信じて疑わない。
でも、実際はそうではなかった。
嘘の関係を続け、周囲を騙し続けていたわけで。
まあ、嘘から出た真というか、晴れて復縁できた今、そんなことを謝罪しても意味がないけど、せめてもの誠意として俺たちがちゃんと仲良くやっていることを話したいと俺は思っている。
「んー、でも今は嘘じゃないんだからいいんじゃない?」
「そうかもだけどさ……ほら、前は嘘ついてるからろくに話もできなかったからちゃんと挨拶したいんだよ」
「雅君真面目だねえ。別にうちの親はいいのに」
「そういうわけにもいかないんだよ。聞いてみてくれ」
「わかった、言ってみる」
今日のリアラは浮ついている様子だったが、それでも機嫌がよくて助かる。
早速実家に電話をかけるリアラは、実に嬉しそうだった。
そんな姿を見て、俺はようやく彼女と復縁したことを実感する。
「なあ、俺たちって付き合ったんだよな?」
思わず訊いてしまった。
昨日はあまりにもぐちゃぐちゃで、もちろん付き合ったことに変わりはないはずなのに夢か勘違いじゃないかとか、そんなネガティブなことを思ってしまう自分もいて。
でも。
「え、そうだよ? 私は雅君の彼女だもん、えへへっ」
そう言って笑う彼女を見て、俺の中の弱気はどこかに消えていく。
リアラは俺の彼女で、今までみたいに余計な気を回したり我慢したりしなくていいんだと。
そう思うと気持ちが軽くなると同時に、変な緊張感が漂う。
「……」
「どうしたの雅君?」
「い、いやなんでも。それより明日から学校だけど尊にだけはほんとのこと言っておきたいなって」
「尊君は私たちの事心配してくれてたもんね」
「ああ。ま、言ったら言ったで惚気るなって怒られそうだけど」
「だね。でも私も惚気たいなあ。明日みんなにいっぱい雅君とのこと話しちゃお」
「お、おいそれは」
「ダメっていってもダメだからね。女の子達には雅君に近づかないように釘刺すの」
「ヤンデレかよ」
「ヤダ?」
「……いいよ」
前だったら少しイラっとしたかもだけど、今は俺を独占したがるリアラが可愛くて仕方ない。
結局、前の俺はリアラを見てなくて、勝手に俺が作った彼女の理想像を好きになっていたんだと。
本当の彼女はそんな立派な人間じゃなくて、可愛い以外はめんどくさいことばかりのやつだけど。
それでも俺をずっと見てくれて、一緒にいて楽しくて、他の誰かと彼女がいるのが嫌だと俺は思ってて。
結局好きってそういうことだと。
だから今は彼女のわがままも愛情だと思えるようになった。
「……さて、今日は何する?」
「んー、ご飯までまだ時間あるし。のんびりしたいな」
「じゃあテレビでも見るか」
ベッドにもたれかかるように座って、並んでテレビを見る。
日曜の午前中なんて、めぼしい番組もやっていない。
少しすると飽きる。
どうしたものかと手をついたその時、リアラが俺の手の上に自分の手を重ねる。
「……どうしたんだよ」
「せっかく恋人に戻れたのに、冷たい」
「そんなことない。恥ずかしいんだよわかれ」
「むー。やだ、わかんない。手繋いで」
「……わかったよ」
彼女の手を握る。
すると彼女の方からグッと握り返してきて、そして俺の方へ肩を寄せてくる。
俺はそんな彼女の方を見れず、テレビの画面をみたまま。
「……恥ずかしいっていってるだろ」
「私だって恥ずかしいもん。でも、恋人らしいことしたい」
「してるじゃんか」
「まだ。ねえ、キスして」
「……は?」
「キス。してくれないなら勝手にするもん」
「あ、ちょ、ちょっと」
床に押し倒された。
もう我慢の限界だと言わんばかりに顔を真っ赤にしたリアラが俺に馬乗りになって、そのまま小さな体を俺に重ねるようにして。
キスされた。
思いっきり押し付けるように、唇を当てられて。
これが俺のファーストキスだった。
「んっ!」
「んん……ぷはっ!」
「お、おいリアラ」
「何よ、嫌なの?」
「……嫌じゃないけど」
嫌じゃないけど、不服だった。
というより、初めてのキスくらいは俺の方から、なんて夢みたいなことばかり考えていたくせに意気地なしで行動できない自分がふがいなくなって。
ただ、リアラはそのまま嬉しそうに俺にもたれかかる。
「キス、初めてしちゃった」
「俺もだよ」
「ほんと? 誰ともしてない?」
「しそうな相手がいたと思うのか?」
「んーん。雅君って案外モテないもんね」
「案外じゃねえよ。お前こそ、言い寄ってくるやつ多いくせに」
「興味ないもん。雅君以外、昔も今もずっと」
「……俺もだよ」
リアラの重みは、心地よかった。
そこに彼女がいるんだと感じさせてくれる。
だからそのままぎゅっと彼女を抱きしめて。
そこにベッドがあるというのに部屋の床に二人転がったまま、しばらくの間キスというものの感触を楽しむように、唇を重ねていた。
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