第73話
***
カーリントン公爵の肉体に巣食う蛇を体外に追い出すことには成功したが、捕獲・殺害は失敗し、公爵と侯爵令嬢がさらわれた。
その報告を聞いて、国王は項垂れた。
「なんということだ……」
王太子から話を聞いた時は半信半疑だったが、兵士達の証言によると本当にヴェンディグの中から恐ろしい蛇が現れたという。
十二年前、どれだけ清めの儀式をしても祓うことのできなかった蛇が、こんなにあっさりと姿を現した。
国王は玉座の前で跪く少女を見やった。
「クレメラ子爵令嬢……確かに、そなたが言ったようにラベンダーで蛇を追い出すことは出来た。だが、倒すことは出来なかった……さらわれた公爵と侯爵令嬢は……」
「ご安心くださいませ、陛下」
鈴の転がるような声で言い、少女——パメラが顔を上げた。
「蛇は弱っております。しかし、公爵閣下は長年に渡って蛇に支配されていたため、いまだ洗脳状態にあると思われます。アーカシュア侯爵令嬢も蛇に操られているのでしょう」
「なんと恐ろしい……」
国王の横で王妃が青ざめた顔で身を震わせた。
見た目が他人を恐れさせてしまうからと、息子は自分の意志で離宮にこもっているのだと思っていた。だが、もしも、それが蛇に操られてのことだとしたら。それは幼い息子を恐ろしい蛇の元に一人きりで取り残してしまったことになる。国王と王妃の胸を深い後悔が突き刺した。
「どうすればいいの……」
「王妃陛下。蛇さえ倒せば公爵閣下の目は覚めます。ですので、蛇が逃げた山中へ討伐部隊を向かわせ、蛇を見つけて殺すのです。討伐に向かう兵士には全員ラベンダーの精油を持たせるようにしてください」
パメラは目を細め、唇は弧を描いた。
「うむ。すべてお主の言う通りにしよう。騎士団長に命じて、討伐部隊を組織せよ。見つけ次第、蛇を殺すのじゃ」
国王の命令で、家臣達が動き出す。
「そう。蛇を殺すのよ」
「蛇を殺せ」
「あの蛇を殺せば、この国は救われるわ」
「蛇を殺せ。国のために」
「そう。蛇を殺すの。邪魔な蛇を。あいつさえ殺せば、もう自由よ……私の邪魔をする者は誰もいない……ふふふ……うふふふふぅぃぃいひひぎぃ」
王宮の中心で、パメラは笑い声を上げた。
その声は、途中から鈍い金属音に似て、ぎぃぎぃと軋むように響き渡った。
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